第13章 真実の恋人達?✽過去回想・キシリール伯爵家の後継者✽
カインツは手酷い失敗をした結果、その後は三人の娘やラフェールのことをよく見る(観察する)ようになった。
そして表面的なことだけでなく、その内なるものにも色々気付けるようになった。
長女のモードリンは妻に似ていて愛らしい顔をしている。しかしその勝ち気な性格は妻より彼の母親に似ていると思った。
華やかで社交的で自分磨きには熱心だが、それ以外は努力しない。地頭はいいのだが、将来領地や領民を守るために自ら見識を高めよう、という気概はあまり見受けられなかったのだ。
このままでは女伯爵としてはやっていけないだろうと両親は思った。
カインツは首席で名門ティーフス王立魔法学院を卒業した。妻も同じく魔術以外は上位成績で卒業した。
しかし、モードリンは卒業どころか彼らの母校に入学することさえ望めそうにもなかった。そこで王都にある淑女教育を主眼にした女子学院に入れることにした。
伯爵夫婦は長女のモードリンを後継者にすることを早い段階で諦めていた。
たとえ優秀な婿を迎えられたとしても、モードリン自身が領地経営に関心がなく、田舎を嫌って都会に憧れているのだから、上手くいくとは思えなかったのだ。
領地と領民のことを考えると、モードリンを女領主にするなんてあり得ない選択だった。
とはいえ、嫡女として育てられた娘に、お前には向かないからこの家は譲れないとは言えず、正直困っていたのだ。
ところがラフェールを屋敷で面倒を見るようになってから一年が過ぎた頃、モードリンがこう言った。
「お父様、お母様、私、この領地を継きたくないのです。だって、私はこの田舎が好きじゃないんですもの。
王都とかもっと大きな町で暮らしたいんです。それに社交場にもたくさん参加したいし。
女学院に入学したら、我が家に相応しい男性を見つけて頂きたいと思います。
いえ、入学してからではもう遅いと思うので、今のうちからお父様に私に見合うお相手を見つけて頂きたいのです。
よろしくお願いします」
「跡を継ぎたくないって、それではこの家はどうするつもりなんだい?」
「ミンティアがいるじゃないですか。あの子はこの田舎が好きだから丁度いいわ。
それにあの子とラフェールは仲がいいでしょ。ラフェール様は三男なのですから婿入りしてもらえばいいんじゃないですか。
二人とも魔力も多いし、辺境地を守るのに最適だと思いますわ」
モードリンは普段通りのように勝ち気にツンとすましてこう言った。しかし、それはどこか無理しているように見えた。
お前では女伯爵は無理だとは言われたくないし、両親にも言わせたくない。
そんなモードリンの気持ちがわかって両親は苦しくなったが、それでも娘の決断に娘の成長を見た気がして嬉しくなった。
後になってカインツは、妻のグレイスからモードリンの本音を聞かされた。
モードリンはこれまで誰かにミンティアと比べられたり、陰口を言われたことはなかった。しかし、妹のミンティアとの魔力の差は一目瞭然だった。
年が近ければライバル意識で妹とギクシャクしたかもしれないが、五歳も違ったために争う気力は起きなかった。
そもそも母親も魔力が少ないのに跡を取ったのだから、魔力の多さなど関係ないとモードリンは思っていた。
ところが成長するに従って、ミンティアの優秀さが明確になってきた。しかも気立てがよく、使用人や領民からも愛されている。
「何故跡取りでもないのにそんなに勉強をするの?」
ある日モードリンは何気なく妹にこう尋ねた。するとミンティアは間髪入れずにこう答えた。
「将来お姉様のお手伝いができるようにです。叔母様達も嫁がれても何かあるとお母様を助けて下さっているでしょう?
ですから私も将来嫁いでもお姉様をお助けできるようになりたいのです。お姉様が大好きだから。
それに、私はここが好きだから、何か役に立てたらと思うのです」
ここが好きだから。
とミンティアは言った。モードリンだって生まれ育ったこの地は好きだ。辺境の女領主になるのだからと、幼い頃から勉強や淑女教育のほかに武芸も学んでいた。
しかし、自ら進んでこの地のために何かしたいと思ったことはなかった。そのことに気付かされてモードリンは唖然とした。
そしてその時から、自分が嫡女のままでいいのかと疑問を抱き始めた。
もっともそう思うならミンティアのようにもっと積極的に学べばいいのだが、その意欲がどうしても湧いてこなかった。
悶々とする日々が続き、ミンティアのせっかく作ってくれたケーキを食べるのを拒否するという、細やかな抵抗をしていた時、ラフェールが現れたのだ。
まるで絵本の中の王子様のように綺麗で愛らしい少年の登場に、屋敷の人間は皆浮き足立った。
それはもちろんモードリンも同様で、ラフェールに夢中になったが、さすがに六歳も歳下だったので、恋愛対象ではなかった。
それに彼の事情がわかってくると同情の気持ちが湧いてきて、ずっとうちにいればいいのにと思うようになっていた。
そしてそんなある日モードリンは、ラフェールを慕っている末の妹のメイシャにこう言った。
「貴女が将来ラフェール様と結婚したいのなら、平民になってはしまうけれど、私の補佐役として屋敷に残れるようにしてあげてもいいわよ」
すると、メイシャは目を丸くして姉の顔を見た。そして首を振った。
「お姉様、私はあくやくれいじょうにはなりたくありません」
「悪役令嬢? それって、この前私が読んであげた小説に出てくる悪役のこと?」
「そう。愛し合う恋人たちを引き裂く悪い人。最後はおうちから追い出されて、修道院へ入れられてしまうの。
私はみんなに嫌われたり、修道院へなんか行きたくないわ」
「その愛し合う恋人同士って……」
「ティア姉様とラフェール様に決まっているじゃないですか!
二人は真実の愛で結ばれているのです。確かにお二人にはこの先様々な困難が待っていることでしょう。
しかし、最終的には結ばれる運命なのです。
ですから二人を引き裂いたら、天の女神様がお許しになりませんわ。
私は全力でお二人を応援します。リンお姉様も協力して下さいますよね?」
メイシャは両手を組み、瞳を輝かせてモードリンを見上げた。
若干七歳で乙女小説大好きな夢見る少女メイシャには、既に二番目の姉と薄幸の辺境伯令息ラフェールとの、壮大なラブストーリーが出来上がっていたのだ。
最初のうちそんなメイシャを適当にあしらっていたモードリンだったが、その後改めて二人を観察してみると、確かに二人は特別仲がよく相性が良さそうだった。
というよりラフェールが完全にミンティアに夢中なのがよくわかった。依存していると言ってもいいくらいに。
彼はとにかく誰にでも愛想がよく、いつもにこやかに接していた。しかし、どこか無理にそれを演じているように見えた。
自分のことはリンお姉様と呼んでね、と何度言ってもラフェールは省略することもなく、私をモードリン様と呼んでいた。それは両親や歳下のメイシャに対しても同じだった。
それなのにミンティアのことだけは、ミアという独自の愛称呼びをして素直に甘えていた。
そしてその後モードリンは、ラフェールのミンティアへの愛情の強さを目にすることとなったのだった。
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