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休め休めも休めずに

 火山地帯から帰ってきて、療養の為「安生の狩人」をしばらく覗かないことにしたエブリィ。 とはいっても、彼なりの休日も忙しかったりもする。


 朝起きてまず向かうのは道具屋だ。 エブリィが住んでいる家から出て5分ほど歩くと左右に分かれるT字路に出るのだが、いつもなら左に向かえば「安生の狩人」のギルドに向かうことが出来る。 だがエブリィはそんな誘惑に負けそうになるが、そこをグッと堪えて道具屋のある右を曲がるのだった。


「いらっしゃい。 ようエブリィ、今日も依頼か?」


 道具屋に着いてそんな軽快に対応してくれたのは、白髪で凄い癖のある天然パーマのかかった、ここの道具屋の息子である、コーネリアス・ヤーコンである。 


 ここ「ヤーコン道具屋」では冒険者にはしっかりと冒険をしてもらうために本来の値段よりもなるべく安く提供している冒険者御用達のお店のひとつである。


「今日はお休みだよ。 でも欲しいものはあるから来ただけだよ。」

「おう、そういうことか。 なら買いたいもの決まったら教えてくれよ。 俺は親父の手伝いをしなきゃいけないんでな。」


 そういってコーネリアスは伝票のようなものを書き始めた。 邪魔をしてはいけないと思い、そのまま道具屋の中を散策する。


 今エブリィが欲しいのは「血液増強剤」と「回復用鞄」だ。 前者は当然のごとく、エブリィの弱点を補うためのもの。 エブリィは「毒持ち」故に定期的にその毒を吐かなければいけない、最早呪いのような弱点を持っている。 その吐血物にも毒があり、気安く外で吐けないし、なにより吐血量に反比例して、体内の血液は異様に減るのだ。 特性が出始めの頃はかなり体調を崩しやすかったが、この「血液増強剤」の完成により、体調を崩す前に解決が出来るようになった。 おかげでエブリィのほぼ必需品とも言えるものだ。


 後者の方はこれも至って単純で、道具を分けておきたいのが理由だ。 エブリィ達がいる世界において「僧侶」のような回復を目的とした職業や特性持ちがまだ多くは存在していないのだ。 最近はそれなりに増えてはいるようではあるが、やはりそれでも「僧侶」という冒険者はごく稀で、回復と攻撃は基本的には一緒にできない。 またエブリィ達の同年代にも2人ほど回復関係の特性持ちがいるのだが、その2人も回復役としてあちらこちらで引っ張りだこなため、そうそうエブリィ達の所には来ない。 どちらも女子ということで人気が高いのも理由に入るが。


 なので常に危険と隣り合わせな冒険や依頼において、回復するものは必要不可欠なのだ。 それもかねて今回エブリィは更に鞄を分けようと思い、休みを利用して買いに来たというわけだ。


「うーん。 最近普通の薬草じゃあ回復した感じがしなくなっちゃったんだよね。 でもエーテルや錠剤は高いしなぁ。 あとありそうなのは・・・注射器に入ってるのってどうなんだろ?」

「効能は認めてやるがあんまりおすすめはしないな。 それでやってると、針を注す方で中毒性が出て別の意味で戻れなくなるからな。」

「ふーん。 そういうものなのか。」

「そういうものだ。 エブリィ、今日も血液増強剤だろ? なにかと一緒に買ってくれたら全体で1割引してやろう。」

「いいの? あ、でもコーネリアス。 それだと利益に・・・」

「馬鹿言ってるんじゃないぜ。 ここは道具屋、そしてエブリィはお客さん。 常日頃からの感謝は忘れないのが俺の特性である「利益検証」なんだからさ。」


『コーネリアス・ヤーコン 17歳 男 ランク15

 特性 「利益検証」

 利点 物の価値、品質を理解できる。 またノウハウを使った商売方法を展開できる。

 弱点 劣化品質を使用、販売ができない。』


 彼の特性は正しく商売人にもってこいと言える。 なのでコーネリアスは特性が発現した時点で父の店を継ごうと決意していたのだ。 このように特性によっては冒険者に向かないものも発現する。 その場合は特性が発現して卒業するまでにその特性にあった世界を学んで、冒険者以外の道に進めるのも学校の方針である。 ちなみにこの世界における研究機関の人間の半分近くは特性が「観察眼」もしくは「熱心」になる。


「まあそれならいいんだけれど。 僕は今日は冒険者として来てる訳じゃないから、値段は通常通りでいいよ。」

「別にぼったくろうって訳じゃないんだから、気にするなって。 で? なにか気になるものでもあったか?」


 その辺りはエブリィも素直で、めぼしいものではないにしても、自分の欲しいものはしっかりと要求するエブリィであった。


「なんか思った以上に大量に買えちゃった。」


 あれからエブリィが求めていたものを色々と提供してくれたコーネリアスだったが、エブリィの予算を考慮して、本人に最も合う物のみを選出してくれた。 おかげでエブリィは道具を分けるための鞄、「ブロックリュック」と血液増強剤を通常の1.5倍の量で購入に成功したのだ。


 このブロックリュック、「設定」さえしてしまえば自動的に「仕分け」をする仕組みになっていて、これによりどこに何が入っているのかが一目瞭然になるとのこと。


「さてと、次は武具屋かな。」


 エブリィは歩みを止めずに次なる目的地に行く。


 次に着いたのは武具屋。 ここでは冒険者には必須の武器や防具がある。 定期的に品揃えも変わるので、エブリィも月一程度で顔を出している。


「いらっしゃいませ。 あらエブリィ君。」


 カウンターで本を読んでいた丸メガネをかけた女性がエブリィに声をかけた。 エブリィは「得耐性」の冒険者として、タラーサレンの都市ではそこそこ有名なので、例え月一感覚の来店でも顔を見ればすぐに分かってしまうのだ。


「どうも、ハノムさん。 お久しぶりです。」

「本当に久しぶりね。 そうだ。 ちょっと武器でも見ていく? 新しいのを入荷したから。」

「ありがとうございます。 でも僕はこの剣で十分ですよ。 もう一度似たような武器に調整してもらうのも申し訳無いですし。」

「そう? まあ買う買わないはいいから、試してみるのもOKよ。 今の剣よりも馴染むものがあるかもしれないし。」


 そう言われてエブリィは悩んだ後、


「それならいいですよ。 でもその前に防具を見せてください。」

「待ちな。」


 その声のする方を見ると、頭にハチマキをした汗だくで半裸の男が現れる。 上半身の筋肉はそんじょそこらの冒険者ではまず作ることは出来ないほどに隆々としていた。


「サッチャーさん。 せめて汗を拭いてから来てくださいな。 お客様に失礼になってしまうと言っていますのに。」

「あ、ああ。 すまないなハノム。 エブリィが来ていると聞いてな。」


 サッチャーと呼ばれた男とハノムは夫婦関係にある。 なのでハノムも注意はするものの、あまり強めには言っていない。


「僕がどうかしましたか?」

「お前さんの武器、少し強化していかないか?」

「え!? いいんですか!?」

「何言ってんだ。 それをオーダーメイドしたのはお前だし、その注文を受け入れたのは俺だ。 それに最初に打ってから打ち直してもらってないはずだからな。 手入れもかねて、最も血液循環出来るようにしといてやるよ。」


 本来は武器屋でのオーダーメイドというのは基本的には受け付けていないのだが、特性によってはなんの変哲のない鉄で出来た武器にする代わりに、特性を最大限に使える工夫を施してくれるのだ。


「ありがとうございます! サッチャーさん!」

「おうよ! 頃合い具合に寄っていきな。」


 そういってエブリィが腰にしていた剣をサッチャーに預け、今度こそ防具を見ることにした。


 エブリィの装備としては小手と鉄の胸当て、鉄の腰巻きに脛当てという至ってシンプルかつ機動性に優れた格好である。 これは防具に拘っていないのではなく、重すぎると他の依頼支障が出ると考えているからである。 ちなみに兜は自分の頭にしっくりこないので元々から着用していない。


「とはいえ、そろそろモンスターの周期も変わる頃だし、もう少し防御力をあげないと。」


 この世界ではモンスターの強弱は周期的に変わっていることが分かっており、それに比例してモンスターの大きさや見た目の違うものが現れるようになる。 今がその変わり目なのだ。


 ちなみにその周期とは

 一般的なモンスターや害虫の現れる「普通期」

 大型モンスターの現れる「肥大期」

 モンスター事態は小さいが群れで現れる「密集期」

 亜種や変異種が現れる「変成期」


 この4つが周期的に訪れる。 それが大体半年おきに変わる。 今回は「普通期」から「肥大期」に変わる頃合いだ。 しかしあくまでもその種類が多くなるだけで、決していなくなったりしているわけではない。


 エブリィが懸念しているのは大型モンスターの攻撃範囲についてだ。 大型故に稼働範囲と攻撃範囲が、通常に比べて広い。 間合いを間違えれば一瞬で持ってかれてしまう。 そんなモンスターが半年間はこの世界のどこかで生息するのだ。 討伐依頼も増えてくることだろう。

 どう? そろそろこの辺りで新しい防具に新調していく?」

「でもそれ相応の素材は今は手持ちに持ち合わせてないですし、あんまり重すぎるのもどうかと・・・」

「最近の防具は軽いのに丈夫になっているのよ。 冒険者として、他のみんなを見習ったら?」


 そうハノムさんに言われて、エブリィは思い返す。 確かに人それぞれではあるが、優秀そうな防具を着ているのを見かけるようになった。 同年代はほとんどが似たり寄ったりの防具になっていて、エブリィのように軽さを重視した装備になっているのは同年代ではもういない。


「そう、ですね。 ほとんどお金を使ってなかったような気もしますし、これを期に新調しちゃおうかな?」

「うんうん。 その方がいいよ。 エブリィ君に似合いそうな防具もあるし。」


 そういってハノムは店の奥に行き、ガサゴソと何かを取り出した。 それは今のエブリィの装備を、一回り大きくしたようなプレートアーマーと呼ばれるものだった。 兜も頭のみを覆うようなタイプで、鎧としてはそこそこ薄めに見える。


「これなんだけど、これ一式に使われている素材、なんだと思う?」

「色が黒に近いので宝石のオキニス・・・じゃあ防具は出来ないから、「灰かぶりの岩人」の外皮とかですか?」


 灰かぶりの岩人とは火山地帯の入り口辺りに生息する、大岩に擬態するモンスターでその外皮はよく外壁などに利用されることは有名である。 だがハノムは指を左右に振り、違うことを示す。


「これはね、ブラックサイホーンの黒角から作られた防具なの。 まあ全部が全部って訳じゃないけれど、硬度と軽さは今のその装備の比じゃないのは保証してあげる。」

「へぇ、でも確かブラックサイホーンってそこそこ希少種だって記憶があるんですが?」

「生息地的に増える場所もあるし、なによりブラックサイホーンは野生では見かけないけど、気性は穏やかだから、何年かに一回、野生のブラックサイホーンを家畜として育てるために2、3匹捕まえて、繁殖させてからもう一度野に還すんだって。 その間に取れた黒角で作られてるから、乱獲にはなってないよ。」


 その話を聞いてエブリィは、魚の繁殖に似ているなと思ったそうな。


 しかし防具など滅多に買わないエブリィに取っては、かなり重要な選択だ。 折角用意してくれたのだ。 試着くらいはいいだろうとエブリィは思った。


「それじゃハノムさん。 試着室使わせてください。」

「はいよ。」


 そういってブラックサイホーンのプレートアーマーを持って試着室にいき、インナー以外を外して、着て見せる。 ハノムさんのいう通り、鎧というには軽すぎる性能をしていた。


「確かにこれなら今まで通り、いや今まで以上に討伐依頼が捗るかも。」

「気に入ってくれたかい?」

「はい。 このまま購入させてください。」


 ここの武具屋では気に入った装備はそのまま支払いが可能となっている。


「分かったよ。 それじゃあこいつの値段は・・・そうさねぇ・・・ 剣の強化の事もあるから、このくらいなんてどうだい?」


 そう指定した値段をエブリィが見ると、


「ハノムさん。 これ、ちょっと安くしすぎではないですか? ブラックサイホーンの黒角ですよ?」

「いいんだよ。 素材回収の依頼もこなしてくれるんだし、多少の色目くらい誰もなにも言わないさ。」


 そう言うことならとエブリィも納得して、財布を見て、今の手持ちが無いことに気が付き、武具屋の店内に備え付けの簡易銀行口からお金を取り出す。 ちなみに金額としては大体交通費込みの依頼の報酬額くらいだが、エブリィはそもそもがあまりお金を使用しないので、今まで使ってこなかったお金が口座には入っているのだ。


 そしてお金をおろして、しっかりと払うと、ちょうどサッチャーが奥から出てきた。


「ホラよエブリィ。 完成したぜ。 以前よりも溝の中に血が通う速度が速くなった。 これで、少量の血液で循環するようになったぜ。 名付けるなら「血浸刀(けっしんとう)」と言ったところか。」

「ありがとうございます。 お金はもう払ってありますので。」

「おう! 依頼、頑張れよ!」

「また寄りに来なさいな。」


 そうして新防具と新武器を手に入れて、武具屋を後にしたところで、エブリィの休日は充実した内容で終わりを迎えた。

次回の投稿から短いながら、ダンジョンを攻略するお話を書きます。

ある程度キャラも増えてきたのでそろそろパーティーとしてやってもいいんじゃないかと思ったからです

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