3. これから
きり良く終わりたかったので少し短いです。
「すごく嬉しそうにその呼び名を口にするんだね。」
一瞬きょとんとなる。
「私、そのような顔をしていました?」
「うん。」
「まあ…確かにあまりいい意味の込められている呼び名ではないでしょうが…私は好きです。この呼び名。」
「そっか。…私も好きだな。」
にこにこと殿下も嬉しそうにしている。
──農業は命を支えているのだから大事にしなければならない。
この農地の収穫如何で国民の命が左右されるのだ。
もちろん、農業だけに限った話ではないがね。
だから他所がどう、何を言おうとも蔑んだり
ないがしろにしてはいけないよ─
お父様がそう言っていたし、私もそう思っているから"農家クローヴィス"の呼び名は好きだ。
私たちは堂々と誇りを持って農家をやっているのだから!
「ふふふ…ありがとうございます。」
なんだか嬉しくなる。殿下もこの呼び名が好きですって!
認めて貰えていることがこんなにも嬉しいだなんて!
そうこうしているうちに曲が終わる。
嫌々始めたダンスだったけれどほんの少し殿下と仲良くなれた気がする。
「お誘い下さりありがとうございました。」笑顔で礼をする。
「あ、い、いやこちらこそありがとう。」
少し驚いた様子の殿下の顔がほんのり赤いような…
ま、さっさと離れないと他の令嬢が殿下と踊れなくなってしまうから離れよう。
では、失礼いたします。と離れようとしたら「待ってくれ」と手を掴まれる。
「初めての他人とのダンスで疲れただろう?休憩室まで案内しよう」
掴まれた手がさらりと殿下の腕に誘導され、軽く頭を近付けてきて
───それに、私はまだ君と話がしたい──
──耳元にそっと甘い声で囁きが落ちてきた。
ぴゃっと弾かれたように顔をあげれば柔らかい笑顔を浮かべた殿下の顔。
え?え?え?と訳がわからないままするりと外へと続く扉のほうへ連れて行かれる。
そこへ立ちはだかる人物が。
──赤い髪に輝く金の瞳─聖女様だ。
「ヴィンセント殿下、不躾で無作法なこととは思いますがどうか、平民の夢を叶えると思って、私と踊っていただけませんか?」
胸の前で手を組み、その金の瞳を少し潤ませて上目遣いで殿下を見上げる聖女様。
周りの男性陣が一気に赤い顔になる。
…この方は自分の魅力をよくわかっててこういう行動をするのね…。
では殿下は…?とちらりと見やると何かを見定めるかのように目を細めている。
「…セリス嬢、すまないが彼女を休憩室へと連れて行きたいのだ。
私がダンスで振り回して疲れてしまったようだから。」
「………っ」
悔しそうな顔が一瞬浮かぶがすぐ元に戻った。
「そ、それでしたら他の方に任されては?わざわざ殿下自らが連れて行かれなくても……」
「…お話中失礼します。」
第2の美丈夫が現れる。
──エドガー第2王子が横入りをしてきた。




