2. こんばんわ。
───どうして!
───どうして!どうして?
───なんで!こんな気分になるためじゃなかったのに!!
───なんで…? 私の
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「可愛らしいお嬢さん、デビュタントおめでとうございます。
デビュタントのダンスの最初の相手という名誉を私に下さいませんか?」
眩しい笑顔を見せながら目の前の美丈夫が言う。
──ヴィンセント・ギレスビア第1王子殿下、今年で18歳。
ギレスビア国の現王家の長子。
王妃様譲りのサラサラの銀髪に王族長子にしか受け継がれないと言われる濃紺の瞳。
今年魔法学園を卒業し、卒業と同時に立太子するのが決まっている。
学園での成績もかなりのものだとか。(シャロン情報)
眉目秀麗てこういう方のことを言うのね、とぼんやり考えながら殿下の顔を見上げ、差し出されている手の方にゆるゆると視線を落とす。
まじまじと手のひらを見つめていると斜め前からすごい圧を感じる…。
ちらりと見やると、
聖女ちゃんがすっごい顔で睨んでるーー!!
赤い髪が本当に燃えているかのように見える…せっかくの美人が台無しよ…?
と、隣からちょんちょんと突かれる。
びっくりして視線を横にやるとシャロンが『早く手を取る!!』と口をぱくぱくして伝えてくる。
はたと我に返り、殿下を見ると少し困った顔をしているが顔がいいからそれでも画になる。
王族からの申し出を断ることなど出来ないから「よろしくお願いします…」となんとか嫌な顔が出ないように気を付けながら殿下の手に自分の手を重ねる。
目立たないよう気配をなるべく消していたつもりだったのに…
というかなぜ私……ひっそりしといたのが逆効果だった?!
満面の笑みを浮かべたヴィンセントに手を引かれ、踊り場へと連れて行かれる。
すがるようにそっとシャロンを見るとものすごく楽しそうな、わくわくを隠しきれていない笑顔をしている。
他人事だと思って!!これ、あとから質問攻めなんだわきっと…
シャロンの近くにいる聖女ちゃんの姿も目に入る。
……うん、ものすごーーく睨まれてる…すごい形相だから周りの令息方が引いてるわよ…?
私はダンス、苦手なのだけれどお父様、兄様方や義姉様と踊るのが好きだから頑張っている。
しかしどうやら運動神経があまりよろしくないらしく問題ないレベルで踊れはするが決して巧くはない。むしろ下手。
「あの、殿下…はじめに謝っておきます、すみません。私ダンス下手なのです。」言外に足を踏んだりしてしまうかもと伝える。
「フフッ…私も実はダンス苦手なんだ。だから、一緒に頑張ろうね?」
爽やかな笑顔を向けられる。顔がいい!眩しい!
2人いる私の兄様もイケメンの部類に入るはずなのにこの王子様はレベルが違う…これが王族かっ……
踊り場に他のカップルも集まりだし、音楽が流れ出す。
…この人ダンス苦手とか言ってなかった?(苦手と言っただけで下手とは言っていない)
どこがよ…!びっくりするほど巧い…!なに?王族はこのレベルが普通なの?? ……だったら私はやっぱり無理ね。
と、そっと息を吐く。
「どうかした…?大丈夫…?」
頭上から優しい声が降ってくる。
いけないっ、と顔を上げれば不安に揺れる瞳にぶつかる。
「も、うしわけ御座いません…!緊張と、殿下の巧さに驚いてしまって…」なんとか笑みを浮かべる。
「巧い、かな?陛下やエドガーの方が巧いからあまり自信はないんだ。」
「とんでも御座いません!とてもとてもお上手です。下手な私がこんなにするすると踊れるのは殿下のリードが巧いからですよ!」
必死に伝えるとすごく嬉しそうにはにかみながら「ありがとう。」と言われる。
あまりの顔面凶器ぷりに「っいえ………」とぽけーっとなってしまう。
「っあ…名前、名前を聞いていなかったね。教えてくれるかな?」
「あ。私はクローヴィス侯爵家第3子マリアと申します。」
「マリア嬢、か。…クローヴィスというと農業の?」
「はい。農家クローヴィスです。」
──ほんの一部から我が家が蔑まれているのは知っている。
ヴィンセントはマリアしか見えていない。