99. 魔法剣の話。
翌朝──
もうすでにヴィンセントはベッドからいなくなっていた。
寝過ぎたのかとも思ったが先日のこともあり少し早く起きたようだ。
…隣に姿がないのは寂しいが、仕方ないか…
起きてから、ヴィンセントに睡眠魔法のことを聞いてみた。
「…おはようヴィニー」
「おはようマリア」
と朝から蕩けそうな笑顔を向けてくる。
その笑顔にドキドキしつつ
「…昨晩、魔法かけなかった?」
「……気付いたのか。」
「その…行為は別としてすごくふわふわしたから…魔法をかけられるのってあんな感じなのね。」
「…うん。…だけど他の魔法とは違うかもしれないな。」
「治癒魔法もあんな感じなのかしら。」
「治癒魔法は、うぞうぞするぞ。」「うぞうぞ?!」
その説明に私は眉をひそめる。…"虫が這う"とか、そんな感じ…?
「………くすぐったそう。」
「まあ、人によって違うらしいが。」
「へぇ……2年生になったら、研究会とか入って調べようかしら。」
「マリアは研究とか好きか?」
「そうね、楽しそう!…あ、別に1年生からでも研究会入れるのか。」
色々ありすぎて研究会とか各種部活を見る余裕がなかった。
「…まだ存在してるかは知らないが、俺がいた頃にあった会を教えようか?」
「! 聞きたい!」
「フフッ…じゃあまずどの会から話そうか……」
──その後は朝食をとりながら話し、お昼過ぎまで話しをしていた。
「……そういえば、ヴィニーは仕事はないの?」
彼の話しが面白くて話し込んでしまったが彼は王子サマだ。
「あぁ、大丈夫だ。1日の量はそんなにないしあとでまとめて出来る。」
だから心配しなくていい、と頭を撫でられた。
「何か手伝えるなら手伝うから言ってね!」
書類仕事ならきっと、たぶん手伝えるのでそう言ったのだが
「…ありがとう」と頬にキスをされた。
だが午後はエドガーに捕まった。夏休み中なので彼も時間が余っているらしい。
私とヴィンセントは護衛の点から離れられないのでまたしても一緒に行くことに。
「マリアちゃんは剣とかやらないのか?」
「私は、運動あまり得意じゃないので…」
「エドガー、マリアにそんな危ないこと勧めるな。」
とヴィンセントが少し怒っているがふと
「……弓とかなら出来るのかしら。」
"弓道"には憧れたこともあった。だが結局弓道部のある高校には進まなかった。
「……なあマリアちゃん、"魔法剣"試したことあるか?」
とエドガーから言われ私は目を瞬いた。
ヴィンセントに視線をやると呆れ顔をしているが
「…誰でも出来るのですか?」
「噂でマリアちゃんは魔法適性高いって聞いてるからたぶん…」
「血筋とか選ばれた人しか使えないのかと思ってました…」
とヴィンセントとエドガーとを交互に見るとヴィンセントがはぁ、とため息をつく。
「…マリアはおそらく、"出来る"。─だが「やりたい!」
"ダメ"と言われる前に「やってみたい!」と宣言する。
「………はぁ、だから嫌だったんだ。絶対『やりたい』って言うと思ってたんだこのお嬢様は!」
とヴィンセントから額を小突かれた。
「痛い…でも、やる。─守られるだけとか、絶対嫌だから護身術が増えるならやるわ。」
…まあ正直、"すごく興味がある"ってだけだったのだが。
「ただ"やってみたい"ってだけだろ…」とヴィンセントにはバレていた。
服がスカートだったのでそのままじゃダメ、と騎士団の倉庫から一番小さいサイズの騎士服を出してもらって、着替えた。
それでも少し余りがあるのだが、スカートよりはマシだろう…
ベルトや腕まくりで調節し2人の前に出ていくと
「案外似合うなー」とにこにこしているエドガーと
「……えっ、どうしよう。マリアは本当になんでも似合うな可愛い。可愛い、すごく可愛い…」とちょっとヤバめなヴィンセント。
「ヴィンセント!」と私はまたしても正気に戻してやる。
「……ハッ…俺、また……」
「……兄貴気持ち悪…」とエドガーがドン引きだ。
気を取り直して、この間の場所で今度は白線の内側へ足を踏み入れる。
「─よろしくお願いします。」
「ふっ、そんな堅くなるな。」
とヴィンセントから笑われた。
「…そうだな……マリアなら、たぶん出来ると思うのだが…」
とスッと自身の手に片手剣を創り出すヴィンセント。
「…兄貴?」「…エドガー、今から目にすることは見なかったことにしろ。」
わかった、とエドガーが頷いたのを見て
「マリアこっちに。」
と呼ばれ近付くと私の後ろに立ち、2人羽織のような形になるヴィンセント。
「手を出して。…そう、集中して。」
と魔法で出来た剣をそっと私の手に渡そうとしてくる。
最初は驚いたが彼の手の中にある剣が、きらきらとしていてとても綺麗で、柄を撫でると確かに感触がある。
「……不思議。」
そっ、と彼から、彼の創り出した剣を受け取る。
重さは少しあるが傘くらいの、重さだろうか。
「…うそ、だろ……」
とエドガーの驚く声が聞こえるのでそちらを見ると目を見開いている。
「……普通は、魔法剣は他人には触れない。魔力で出来ているから。
だがマリアは、他人の魔力を感じられるし魔石を見分けることが出来る程の力を持っている…それはつまり、こう出来るだろうと考えてた。」
と驚きと興奮を織り交ぜたような顔のヴィンセント。
「まあ、推測だったのだが……本当に出来るとは。」
「──"感覚"はわかったか?」
「ええ…うん、なんとなく……」
目を閉じ武器の魔力を感じる。武器は金属の様相なのだが、すごく温かみを感じる。…これはヴィンセントの魔力なんだろうか。
「…それを"素"に創り変える。」
「…わかった。」
私は前世の知識から武器を想像する。




