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Walk Hand in Hand  作者: 阿瀬 ままれ
第七章 兵器としてではない生き方
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 事件があった日の翌朝、アルテリア帝国のクロム国王を中心に、ラースとセラ、そしてクリードとゼブラの捜索は迅速に行われた。バルドロス帝国の騎士が病院で治療を受けている間、まずはアルテリア帝国の騎士とニンジャ達が率先して動くこととなった。

 まず最初に行ったのは、ラース、クリード、ゼブラの指名手配だった。本当はラースを指名手配するつもりはなかったのだが、カーツ国王が殺されたというニュースがジャーナリスト達によって世界中に広まり、その真相を伝える上でラースの指名手配は避けて通れないものとなってしまった。バルドロス帝国がいかに悪事を行っていたかを同時に知ったとしても、それでもラースが危険人物であるという世間の認識を覆すには至らなかった。

 指名手配を済ませた後、クロム国王はアルテリア帝国騎士団を世界の各国、そして街や村、至る所へ向かわせた。ニンジャ達は軽快な身のこなしを買われ、サウスにあるノアールの森を捜索することとなった。バルドロス兵は傷が癒えた者から順に、アルテリア帝国騎士団の捜索任務に加勢するよう命じられた。


 ほとんどの騎士が、アルテリア帝国のジュード騎士団長が命じた場所へ捜索に向かったが、一人だけ、捜索する場所を自ら志願する者がいた。アルテリア帝国騎士団三番隊隊長、クレス・オルディオである。クレスは、イーストにある発展都市ハインブルクを捜索したいとジュード騎士団長に申し出た。ジュード騎士団長が理由を問うと、クレスはカダルナ港の海でゼブラと対峙したときのことを話した。


「あの時、ゼブラは火球の魔法で大船を焼き尽くしました。その際に火の粉が飛び散ったのですが、ゼブラの着ていたローブに火の粉が当たっても、服に穴が開くことがなかったんです。つまり、ゼブラの着ているローブには耐火性が備わっているということになる。

 耐火性の備わったローブが商品として流通していないのは、先程調査して確認しました。そうなると、研究員の多くが作業着として着用するハインブルクに、元々ゼブラがいた可能性が高い。ハインブルクの研究員達に聞き込みを行えば、何か尻尾を掴むことができるのではないかと踏んでいます」


 ジュード騎士団長は納得し、クレスに命じた。


「いいだろう。ならばクレス、ハインブルクでの捜索は、三番隊を中心に行ってもらうことにする。何か情報が掴めたら連絡を頼む」

「かしこまりました」


 クレスは頭を下げて返事した。




 そうして、クレス率いる三番隊と十余名の兵は、発展都市ハインブルクへと向かうことになった。一つだけ意外だったのが、ハインブルクの捜索に、ニンジャのあかねがついて来ていたことだった。


「だって、横で聞いていた感じ、一番見つけられる可能性がありそうだったんだもん」


 そう言い訳するあかねに対し、クレスはにこりと意地悪に笑いながら言った。


「そっか。あかねさん、ラースとセラさんを救い出すのにそこまで真剣になってくれているんだね」

「だから、セラはともかくあいつはついでだって言ってるだろ!」


 あかねは頬を赤らめながら怒鳴った。そんなとりとめのない話をしているうちに、一同は発展都市ハインブルクに辿り着いた。


「うわあ……!」


 最初にハインブルクの光景を目にし、あかねや何人かの兵は感嘆の声を上げた。

 入り口を抜けてすぐのところにモニターが設置されてあり、ハインブルクの全体図や開発中の製品を時間差で表示している。どうやらこの辺りは展覧場となっているようで、ハインブルクで開発された製品の数々が展示されていた。自動車、携帯電話、エスカレーターにテレビなど、見たことも聞いたこともないような代物ばかりが揃っていた。


「僕らが用があるのはこの先だよ。ほら、急いで」


 あかねの目が釘付けになっているのを見て、クレスは肩を突いて急がせた。あかねは自分だけ夢中になっていることにようやく気付き、頬を赤らめながら皆の後を追った。

 展覧場を超えた先には、百棟近くもの企業の高層ビルが所狭しと立ち並んでいた。


「これから何をするの?」


 単刀直入に問うあかねに対し、クレスは高層ビルを見渡しながら答えた。


「皆で手分けして、ビルの中にいる研究員達に聞き込みをしていくんだ。ゼブラの顔に見覚えはないかって」

「げっ、これだけの数を……?」


 弱音を吐くあかねに、クレスは当然とばかりにうなずいてみせた。


「元々、雲を掴むような任務なんだ。少しでも希望がある限り、やってみないと」

「……はーい」


 クレスの言葉に納得し、あかねはしぶしぶ返事を返した。


「それじゃあ皆、早速聞き込みをしていくよ。夕方にまたここで落ち合おう」


 クレスの合図を皮切りに、一同は散り散りになって聞き込みを始めていった。

 企業の受付に事情を説明し、いくつかの研究室に案内してもらい、研究員に聞き込みを行う。調査はその繰り返しとなった。なかなか根気のいる調査だったが、クレスは自ら言った言葉を反芻しながら続けていった。

 四社ほど回った頃だろうか、この研究室もめぼしい情報は得られないかと想像していたクレスだったが、ここで目新しい反応を見せる研究員と巡り合った。ゼブラの指名手配書を見せたとき、その研究員は一瞬だけはっと息を呑んだのだ。


「何か、この人物についてご存じなんですか?」


 クレスが問い詰めるも、その研究員はぶんぶんと首を振った。


「その男のことなど、知らん! 他に用がないならとっとと帰ってくれ!」


 そう怒鳴られ、クレスは研究室を追い出されてしまった。

 あそこまで露骨な態度を取られて、白と考えるほどクレスは無能ではない。思えば研究員の格好も、色は違えど、ゼブラが着ていたものと同じフード付きのローブだった。情報を引き出すために、何か別の手段を講じる必要があると考えていたとき、突然研究室からフードを被った小柄な研究員が現れ、クレスの方へ駆け寄ってきた。


「これ、受け取ってください――」


 そう言って渡されたのは小さな紙切れ一枚だった。クレスが何か言う前に、その研究員は足早に研究室へと戻っていってしまった。

 一体何の用だったのか聞きそびれてしまったが、紙切れに書いてある内容を読んで、すぐに不要であることを知った。どうやら、先程の研究員は密談がしたかったらしい。急いで書いたのか、受け取った紙切れにはこう走り書きされていた。


『夜十時、時計台の前。そこでまずは落ち合いましょう』




 その後、他の研究室を聞きに回ったが、有益な情報は得られず仕舞いだった。夕方になり、他の騎士達やあかねにもどうだったか聞いてみたが、皆して首を横に振った。

 そうなると、有益な情報を得られる可能性があるのは、先程紙切れを渡してくれた研究員のみということになる――。クレスは、一同の前に立って声を上げた。


「皆、聞いてくれ。僕の方で、情報を提供してくれる人物が一名現れた。今夜その者と落ち合うから、それまで他の者達はハインブルクで張り込みを続けていてくれ」

「はっ!」


 騎士達は頭を下げて返事した。場所や時間帯など、騎士一人ひとりに細かな指示をしている最中、あかねにちょんちょんと腕を小突かれて呼ばれた。


「ねえ。その情報を提供してくれる人の話、あたしも一緒に聞いていい?」


 クレスは少し悩んだが、やがて「構わないよ」と了承した。


「それならば、是非我々も!」

「共に聞かせてほしいのです!」


 滑り込むように願い出るビックスとウェッジだったが、クレスは首を振り、すまなそうに言った。


「ビックスとウェッジは、先にこっちの現状をジュード騎士団長に報告しに行ってほしい。多分、ゼブラ達は人が出入りするような所に身を潜めてはいないだろうから。ここで張り込みをする兵の人数調整がされるはずだよ」

「ふむ、承知いたしました!」


 ビックスとウェッジは敬礼をし、すぐさまハインブルクを出て馬を走らせた。


「それじゃあ、あたし達はその情報提供者と落ち合うまで待っていればいいわけだね」


 あかねの言葉に対し、クレスはこくりとうなずいた。


「うん。それまで一緒に張り込みでもしていようか」




 時が流れて約束の時間になり、空が墨を流したかのように暗くなった頃、クレスはあかねを連れて、展覧場の中心にある時計台の前にやって来た。すると、先程の研究員が既にいることに気付き、二人は向かう足を速めた。


「こんな夜遅くに、無理を言ってすみません」


 研究員もこちらに気付くなり、頭を下げて謝った。クレスは「謝ることはないよ」と首を振った。


「それより、聞かせてほしい。この男について、何か知っていることがあるんだね?」


 ゼブラの指名手配書を見せながら問うクレスに対し、研究員はこくりとうなずいた。


「似顔絵も私が覚えている彼の顔と瓜二つです。私が知っている人物である可能性が高いです」


 期待を込めて、クレスは研究員に尋ねた。


「僕達は、この男の行方を追うための手がかりを探している。何か、手がかりになるような情報は持っていないかい?」

「あります」


 研究員は即答し、ポケットから小さなモニターを取り出した。


「このモニターは、魔力を探知する魔法を物体化した物です。どこで誰がどれだけの規模の魔法を使ったか、これを使えばすぐに分かる仕組みになっています」

「過去の情報も分かるようになっているかい?」

「ええ。一週間前までなら情報を記録できるようになっています」


 それならと、横からあかねが口を挟んだ。


「二日前の昼に、カダルナ港の海であいつが火の魔法を使ったよね。その時の情報って記録されてる?」

「調べてみます」


 研究員が手慣れた手つきでモニターを操作すると、モニターに世界地図が表示され、各地に点々と魔法の形跡が表示された。その中でも一際目立つ大きさの円が、イーストのカダルナ港付近に二つ表示されていた。


「一つ目のはあいつのだって分かるけど、二つ目のは誰の魔法だろう?」


 あかねが首を傾げる。クレスもすぐに分からず唸り声を上げたが、少しして思い出したように声を上げた。


「セラさんが神の力を使った形跡だ。この機械、神の力も魔力として探知してくれるみたいだね」


 あかねもそれを聞いてようやく理解した。カダルナ港の酒場の人が深手を負っていたのを、セラが神の力を使って治癒したのを思い出した。


「先に、一つ目の形跡が私の知っている人のものと一致するかだけ、調べさせてください」


 そう言って、研究員はポケットから紙切れを取り出した。紙切れにはアルファベットと数字の入り乱れた文字が書かれていた。


「何これ。暗号か何か?」


 あかねが問うと、研究員はモニターと紙切れを照らし合わせながら答えた。


「魔法の使用者を識別する番号です。一人ひとり異なる魔力の性質を、このモニターは番号化して表示させることができるんです」

「……えっと」


 頭の理解が追い付かないあかねの代わりに、クレスがより簡潔に答えてみせた。


「つまり、モニターの形跡に表示されている番号と紙切れの番号が一致すれば、ゼブラは君の知っている人と同一人物ということになるわけだね?」


 研究員はこくりとうなずいた。そしてクレスの言葉通り、モニターの形跡と紙切れ、それぞれの番号が一致することを確認した。


「あんた、ゼブラと何かあったの? こんな複雑な番号をメモしていたくらいだし」


 あかねが気になって問うと、研究員は視線を落としながら口を開いた。


「……アールさんとは、少し前まで同じ研究室で働いていたんです」

「アールさん?」

「アール・フィリス。それが彼の本当の名前です」


 目を丸くするクレス達に対し、研究員は話を続けた。


「アールさんは、研究室にいる誰よりも優れた頭脳の持ち主でした。私達は『飛行開発』という、魔法を使わずとも空を飛ぶ研究をしているのですが、アールさんだけは宇宙へ飛ぶ研究を熱心に行っていたんです。そして、月面着陸が理論上可能であると証明までしてみせて……私は、そんな彼を尊敬していました。ですが、同時にアールさんの才能を妬む人達が多くいました」


 話の途中で、クレスは口を挟んだ。


「その号外は読んだことがあるけど、月面着陸の発表をした人物って、アール・フィリスとは別人だったよね。それってまさか……」


 研究員はこくりとうなずいた。


「同じ研究室にいる連中に、アールさんは研究成果を横取りされたんです。それどころか、逆に研究成果を横取りしようとしたって捏造までされて……。私以外に異議を唱える人はいませんでした。結果的に、アールさんは研究室を追放される羽目になったんです」

「そうだったんだ……」


 初耳な話に、クレスは思わず呆然とした。同時に、なぜ他の研究員が聞き込み調査をあからさまに拒んだのか、合点がいった。アール・フィリスのことを探られたら、自分達の不正がばれてしまうかもしれないと考えたからなのだろう。

 研究員の様子を窺うと、当時の出来事が悔しかったのか、意気消沈としていた。どう声をかければよいかクレスが悩んでいたところ、突然あかねが研究員の前に立ち、厳格に言った。


「例え事情があろうと、あたしはそいつのことを許すつもりはないから。そいつらにあたしの親友をさらわれているし、何よりそいつは人を殺しているもん」

「……分かっています」


 研究員は唇を噛み締めた。過去にどれだけ酷い仕打ちを受けようと、それが罪を酌量する理由にはならない――そう自分に言い聞かせているかのようだった。

 あかねに感化され、クレスも遠慮なく研究員に言った。


「アール・フィリスの捜索に、君も協力してもらうよ。そのモニターを使えば、アール・フィリスを見つけ出すのも夢じゃなくなる」


 研究員は無言のままうなずいてみせた。そして、一同はモニターを使っての調査を再開した。


 昨夜の記録を見てみると、アルテリア帝国近辺で四つほどの大規模な魔法の形跡があった。ジュード騎士団長の推測だと、ラースとセラが合流したときに、クリードとアールの襲撃を受けたと言っていた。正門を燃やされたのも含めて、四つある形跡のうち二つは、その時に使われた魔法の形跡と考えるのが妥当だとクレスは考えた。

 残りの形跡二つのうち、一際大きな形跡がモニターに表示されていたので、これは神の力の形跡だろうと判断した。セラのものかと最初に考えたが、一昨日の形跡と番号が一致しなかったため、これはもう一人の神の魂を宿(ラース)す者のものであると捉えざるを得なくなった。――では、最後に残った形跡は?


「これ、お姉ちゃんが正門の炎を忍術で消火したときの形跡だと思う。他の形跡と時間差で表示されているみたいだし」


 あかねの推測にクレスはなるほどと納得した。どうやらこのモニターは忍術も探知してくれるようだが、しかしながら、アールとクリードを捜し出す上では不要な情報だった。


 アールとクリードの魔法の形跡と、ラースとセラの神の力の形跡。ここまでで、クレス達は四つの形跡を見つけることができた。後は形跡の番号が今後表示されるまでモニターを見張っていればいいとクレス達は考えたが、一筋縄ではいかないだろうと研究員は答えた。


「魔力を探知する魔法があれば、それを妨害する魔法も存在するからです。今から実践してみせます」


 モニターに表示する日時を現在に戻し、研究員はクレスにモニターを渡した。そして次に、研究員は呪文を唱え、自身を覆うようにドーム状のバリアーを展開する。


「このバリアーの中でなら、どれだけ魔法を使おうとも探知されることはありません。アールさんなら、この対策を当然行っているはず」


 研究員が試しに空へ向けて稲妻の魔法を放っても、研究員の言葉通り、モニターに形跡が表示されることはなかった。


「それじゃあ、そのバリアーの中に引きこもられたら、モニターであいつらを捜すことができなくなるってこと? 骨折り損じゃん!」


 悪態をつくあかねに対し、クレスは首を横に振って言った。


「逆に言えば、奴らの行動範囲を狭められることにもなるよ。それに、セラさん達にしろアール達にしろ、いつかは神の力を使うときが来ることを考えれば、モニターは絶対に見張っていないと駄目だ」

「あいつらに神の力を使われたときに、既に手遅れになったりしない?」

「今となっては、そうならないことを祈るしかないよ」


 あかねは不満そうにしていたが、しぶしぶ「分かったよ」と返事した。


「それでは、当面の間は、モニターを見張り続けることになるのでしょうか?」


 研究員の問いに対し、クレスはうなずきながら言った。


「うん。すまないけど、犯人を見つけ出すまでの間、このモニターを貸してもらうことってできないかな?」


 研究員は「構いません」と即答した。そして、今度は研究員の方から頭を下げ、クレスに願い出た。


「改めて、私からもお願いです。私もあなた方の一員として、アールさんの捜索に協力させてもらえないでしょうか?」


 クレスもあかねも二つ返事で承諾した。モニターの使い方は研究員しかよく知らないし、何よりアール・フィリスに対して特別な思い入れがあるようだったから、なおさら断れなかった。


「お互いに自己紹介でもしよっか」


 そう提案し、クレスは最初に名乗り出た。あかねもそれに続いた。


「僕はクレス・オルディオ。気軽にクレスって呼んでくれていいよ」

「あたしは水無月あかね。あたしもあかねって呼んでくれて構わないから」


 研究員はローブのフードを外した。首まで伸びた白髪が特徴的の小柄な女性だった。


「レミー・ガガーリンです。レミーと呼んでください」




 * * *





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