三
ゼブラが右手を軽く払うと、バーゴの背中に深々と刺さっていた氷の槍が消滅し、同時に、トロルのようなバーゴの体がみるみる元の大きさに萎んでいった。バーゴはまだ息絶えていなかったものの、貫通した背中の傷からぼとぼとと鮮血をこぼしながら、苦しそうに呻いていた。
そのあまりにも惨い光景に、ラース達は蒼白な顔のまま立ち尽くしていた。クレスがバーゴを倒してくれることを期待していたが、まさかこのような形で決着がつくと誰が予想したことだろう。
ふと、ラースがゼブラの方に目を向けると、あれほど無慈悲なことをしたにも拘らず、ゼブラは残忍な目でバーゴを見下ろしながら、今もなおけらけらと不気味に笑い続けていた。ぞくりと背筋が凍るのをラースは感じた。
「お前……あいつの手下じゃなかったのかよ……?」
体がすくみながらも、ラースは眉間にしわを寄せてゼブラに叫んだ。
「手下? とんでもねえ、あっしは下手に回っていただけでっせ」
ゼブラはバーゴに歩み寄りながら、笑みをそのままに言った。
「それに、よく考えてみてくだせえ。大した力もねえただのチンピラを、バルドロス帝国が傍に置いておこうなんて思うはずがねえ」
バーゴの傍まで来ると、ゼブラは背中の傷口を右足で思い切り踏みつけ、ぐりぐりとねじつけ始めた。バーゴの生々しい叫び声が響き渡ると共に、荒らされた傷口から血が噴水のように飛び散り、ゼブラの着るローブやクレスの頬を濡らした。
「……こいつの始末は元から決めていたこと。そのタイミングが、今回たまたま都合よく巡ってきただけの話でさぁ」
バーゴが痛がりもがく様を眺めながら、ゼブラは口の端を上げたまま言った。これ以上は限界とばかりに、セラが体を震わせながら両手で目を覆った。
「……謎が一つだけ解けたよ」
頬についた返り血を拭うことなく、クレスはゼブラを睨みながら言った。
「数か月前にアルテリア帝国の城下町で起こった騒動……。あの時、僕達の気付かないところで、君も同じ現場にいたんだ。バーゴ一味をテレポートの魔法で逃がしたのは、君なんだろう?」
バーゴを踏むことに夢中になっていたゼブラだったが、クレスの言葉を聞き、ようやく目線をクレスの方に向けた。
「あんたらに話すことは何もありやせんね」
険しい顔でそう言葉を返すと、ゼブラは呟いて呪文を唱え、バーゴから離れてふわりと宙に浮いた。
「あっしとしては、あんたらをここで足止めできりゃあそれでいい……。先に逃げた二人も、用意しておいた小船で、とっくにここから離れちまってることでしょう。となれば、この船はあっしらにとってはもう用済みだ……」
再び含み笑いを浮かべると、ゼブラは右手の人差し指をぴんと上空へ突き上げ、呪文を唱えた。途端、ゼブラの突き上げられた指先に、船の半分近くを呑み込むほどの巨大な火球が現れ、ラース達は呆然とする。
「ねえ……何かの冗談でしょ……?」
あかねが声を震わせて呟くも、ゼブラがそれを耳に入れることはない。船のマストに目を向けると、ゼブラは笑みを浮かべたまま、躊躇いもなく右手を振り下ろし、視線の先へ巨大な火球を放った。
バーンと大きな爆発音を立てて、火球はマストにぶつかり弾け散った。弾けた火球は火の雨となり、あちこちに降り注いでは甲板を炎上させる。直撃したマストは根元から折れ、火達磨になりながら船頭に倒れ込んだ。ひっくり返りかねないほどの勢いで船体が傾き、ラース達は足を取られてごろごろと転がった。
「これであっしの役目は終わり。今度はどうやってこの事態を乗り切るんですかい? ……楽しみにしてまっせ」
そう呟くと、ゼブラは燃え盛る船から離れるように、魔法で飛び去っていった。
「待て!」
一足早く体勢を整えたラースが、叫びながら見上げるも、そこにゼブラの姿はもうなかった。じりじりと来る熱気に気付き、ラースが辺りを見渡してみると、甲板はすでに火の海と化してしまっていた。船体が焦げ、あちこちから船の軋む音が聞こえる。このままでは、船が崩れ落ちるのは時間の問題だと、ラースは舌打ちをこぼす。
「海の中に飛び込むんだ、皆!」
すぐ近くに海がある船頭の方を指差しながら、クレスは切迫した表情で叫んだ。幸いなことに、クレスの示した逃げ道は、距離にして海と十メートルほどしか離れていない。まずはクレスが先導し、セラとあかねは混乱しながらも、その後に続いていった。
ラースが最後に逃げようとしたとき、ふとあることを思い出し、ぴたりと足を止めた。クレスがセラ達を海に放り込んでいる中、ラースは船尾楼の方を振り向いた。船尾楼の扉近くで、背中を貫かれたバーゴが、火の海の中で呻き続けている。まだ息があるようだったが、バーゴが自力で逃げられる状態でないのは明らかだ。
目の前の猛火と同じ光景──十五年前のことをラースは思い出す。故郷ゴンガノをバルドロス帝国の騎士達に襲撃され、窮地に陥ったとき、母は身を挺して自分達を守ってくれた。あの時、母を庇えるだけの力が自分にもあれば、あのような結末にはならなかったかもしれないのにと、ラースは後悔のあまり視線を落とす。
ラースが再び顔を上げた。火に囲まれているバーゴの姿と、あの時救い出せなかった母の姿が重なった。――どんな人にでも手を差し伸べれるような、優しい人になって。そう、母は自分達に言葉を残してくれた。昔は母に助けてもらってばかりだったが、今なら自分も人を守ることができる。何より、これ以上誰かを見殺しにすることなど……自分自身が許せない。
「……ラース?」
ラースが一緒に来ていないことに気付き、クレスは眉をひそめる。
「……悪い、兄貴。先に行っててくれ。俺もすぐに後を追うから」
クレスに背を向けたまま言うと、ラースは火の海に突っ込み、一心不乱にバーゴのもとへ走り出した。
「む、無茶だ! ラース!」
ようやくラースの意図に気付いたクレスが、慌ててラースを呼び止めるも、ラースはその言葉を耳に入れようとしなかった。引っ張ってでも止めなければと、クレスはラースを追いかけようとしたが、それはできなかった――クレスが同じ道を通ろうとした途端、勢いよく火が燃え移り、行く手を遮られてしまったのだ。
熱風を左腕で遮りながら、火の中に微かに見えるラースの後ろ姿を、クレスは見つめた。――このままでは、ラースが火に飲まれて死んでしまうかもしれない。だが、今となってはもう、こちらからはどうすることもできない。
「ラース……死なないでくれ。生きて必ず戻ってくれ……!」
そう呟き、クレスはラースを救い出すことを断念した。歯を食いしばりながら、ラースが自力で脱出してくれることを願い、クレスは海の中へ飛び込んでいった。
* * *
猛火の中を飛び越え、潜り抜け、火の子で衣服に穴を開けながらも、ラースはようやくバーゴのもとに辿り着くことができた。……立ち込める煙と熱気で、息がままならない。できるだけ呼吸を浅くしながら、ラースはかがんでバーゴの肩を叩き、呼んだ。
「しっかりしろ、バーゴ!」
最初にラースが様子を見たとき、バーゴはもう助からないと悟っていたのか、光のない目で迫る猛火を呆然と眺めていた。だからなのか、ラースに声をかけられ、助けに来てくれたことを知ったとき、バーゴはとても動揺を隠せない様子だった。ましてや、つい先程まで敵対していた人間から手を差し伸べられているのだから、バーゴにとってこれ以上の屈辱はない。
「何のまねだ、クソガキ……!」
まともに動けない状態ながら、バーゴは憤怒の形相でラースに言った。しかし、そんなバーゴの様子には目もくれず、右腕を抱えて自分の首に回し、起き上がらせようとした。
「とっとと離しやがれっ!」
怒りで震えながら、バーゴはラースに言い続けた。
「てめぇに助けられる筋合いなんざねぇ! それはてめぇも同じことだろうが! どこまで俺に恥をかかせれば気が済むんだ!」
バーゴの言葉にいい加減頭に来たのか、ラースはより強い声量で怒鳴り返した。
「黙ってろ! このまま死にたいのか!」
ラースの言葉を聞いて、バーゴは思わず口を閉ざしてしまった。好かない人間であるのは、向こうにとっても同じことである。しかし、だからといってそれが救い出さない理由にはならない……そうラースは言っているのだ。
バーゴはここで、重要なのは相手が嫌いであるかどうかでなく、自分が生きたいのかどうかであることに気付いた。――少なくともこの船に乗ったときは、自分がここで死ぬことなど考えもしなかった。このような形で死んでしまうなど、望んでいるはずがない。ましてや、ゼブラ達に捨て駒として切り捨てられて、悔しいと感じないはずがない……。そんなことを考えているうちに、バーゴの中で、ラースに対して込み上げていた怒りが、無意識に萎んでいった。
「自分の足で歩けるか?」
バーゴの上半身を持ち上げながら、ラースは尋ねた。バーゴは「……おう」と小さく返事をし、ラースに支えてもらいながら立ち上がった。
ラースが周りを見渡すと、先程通ってきた道は閉ざされてしまっていたが、代わりに、船の左側面の方にはあまり火が燃え移っていないことに気付いた。今ならまだ逃げられると思い、ラースはバーゴを抱えながら歩き出した。
「海に逃げるまでの間、怪我の方は我慢していてくれよな」
突然、微笑みながらラースは言った。
「俺の仲間に、回復の魔法に似た力を使える奴がいるんだ。お前のその傷もすぐに治せる。だから、簡単に命を諦めるようなことは考えるな」
バーゴはまた呆然とした。三度も喧嘩を売ってくるような相手に、ここまで優しくできるものなのだろうか? 優しくしようと考えるものだろうか?
この男は、自分を恥晒しにしようとしているのではなく、ただ善意で助けようとしているだけなんだと、バーゴは知った。
ラースが息を切らしながら歩を進める。赤子のはいはいと同じくらいの速度ではあったものの、それでも着実に前へ進んでいた。甲板の柵まで、あと二十歩の所まで来た。肝心の火も、まだ柵の辺りまでは広がっていない。このままならいける――そうラースが確信した、その時だった。
「うわっ!」
ラース達は目を覆った。船の中にある酒樽に引火したのか、突如として目の前で大きな爆発が起こったのだ。甲板が弾け飛び、ラースが再び目を開けたときには、大きく開いた甲板の穴と、その左右で燃える炎で、ルートを完全に遮断されてしまっていた。
ラースは焦りを募らせながら、辺りを見回した。しかし、ラース達はすでに猛火に囲まれてしまっていて、他に辿れるルートが存在しなかった。
突き落とさんとばかりに、後方から炎がゆっくりと迫ってくる。立ち往生しながら、ラースは考えを巡らせた――どうすればいい、どうすれば?
「……行け」
突然、しばらく黙っていたバーゴが口を開いた。
「てめぇ一人で行け。俺を置いて、早くそこを渡れ!」
バーゴの言葉を聞き、ラースは目を丸くした。そして、すぐに眉間にしわを寄せた。どんなに危険な状況だからといって、バーゴを見捨てるようなことはできるはずがない。
「いい加減にしろ! 命を諦めるようなことはするなって、さっき言っただろうが!」
ラースの反論を聞き、バーゴは眦を決した。
「行けっつってんだろクソガキがぁ!」
バーゴがラースの腕を振りほどき、ラースを柵の方に殴り飛ばした。ラースは勢いよく吹き飛び、柵に体を激しく打ち付けた。
ラースが体を起こして目を開くと、ラースを殴った反動からか、バーゴは傷を抑えて呻き声を上げながら、地面に膝をついていた。その後ろから、炎が今にもバーゴを炙ろうと迫ってきている。
すぐに助けなければとラースは思ったが、バーゴに殴られた衝撃で、体が思うように動かない。ラースが立ち上がる間もなく、炎はバーゴの体に覆いかぶさり、炙り始めた。
「がああああああっ!」
みるみるうちに黒く焦げ、バーゴは火の中でのたうち回る。やっとの思いで立ち上がり、そして目の前の光景を見て、ラースは思わず立ち尽くした──もう、手遅れになってしまったのだ。
バーゴの動きが静止する。歓喜するかのように燃え盛る炎の中で、全身を灰のように真っ黒にしながら、バーゴは息を引き取った。ラースは涙が止まらなかった。十五年前の『あの頃』と同じように、守るべき存在がすぐ近くにいたというのに、またしても見殺しにしてしまったことが、悔しくて仕方がなかった。
「すまない、バーゴ……」
涙を拭うことなく呟くと、ラースは迫りくる炎に押されるように、海の中に身を投じた。二度、三度と立て続けに爆発を起こし、船が崩れて沈没してしまうのは、それから間もなくのことだった。
* * *
ラースを残して先に脱出した後、クレス達は海面に浮かびながら、固唾を飲んでラースが戻って来るのを待ち続けていた。船が陥落するのを目にするなり、クレス達は居ても立っても居られず、船の残骸が浮かぶところへ一目散に泳いでいった。
「ラースさん! ラースさんっ!」
声が枯れてしまうほどの大声で叫びながら、セラは蔓延する煙に臆せず、残骸の山を掻き分けていく。クレスも辺りを見渡しながらも、ラースはもう無事じゃないのではないかという微かな不安が頭をよぎっていた。
――いや、ラースに限ってそんなはずはない。必ず逃げ延びているはずだ。だから余計なことは考えるなと、クレスは自分に何度も言い聞かせながら、捜索を続けた。
「ねえ、あそこ!」
突然、一緒に探していたあかねが、遠くを指差して言った。すぐに二人が振り向くと、その先には一際大きな船の破片が浮かんでおり、その上でラースが大の字になって倒れていた。小さな悲鳴を上げながら、セラは真っ先にラースのもとへ向かっていった。
「ラースさん……!」
破片の上に上がり、セラはラースのそばに駆け寄る。見てみると、ラースは炎で衣服に穴を開けているどころか、体中のあちこちに火傷を負っていた。煙も多く吸ってしまったのか、胸を激しく動かして息を荒らげている。
「うわ、何でこんな無茶をしたんだよ……?」
遅れてクレスと来たあかねも、ラースの傷だらけの姿を見て、思わず蒼白な顔をした。今回ばかりは、さすがのあかねも悪態をつく気にはなれないようだった。
「セラさん! 頼む……ラースの傷の手当てを!」
クレスが頭を下げると、セラは当然と言わんばかりに力強くうなずいた。
「ラースさん、すぐに治しますから……!」
そう言うなり、ラースの腹部に両手を添えて、セラはひたすらに念じた。どうか無事であって──そう強く願い続けると、やがて、セラの両手に温かい光が灯り、ラースの体を満たした。火傷の一つひとつに染みわたり、みるみるうちに焼けただれた皮膚が元の色を取り戻していった。
「もう大丈夫です、ラースさん……!」
ラースが回復するのを確認し、セラはようやく安堵の表情を浮かべて言った。しかし、一方のラースは、セラに火傷を治してもらったにも拘らず、依然として息を荒らげたままだった。よく見ると、ラースの表情からは悔しさが強く滲み出ていた。
「守れなかった……。目の前にいながら……また見殺しにしてしまった……」
ラースは爪が食い込むほどに握り拳を固め、乗っている船の破片に強く打ち付けた。ラースの脳裏には、バーゴの死に際の光景が強く焼き付いていた。
――もう少し早く気付いていれば、バーゴを救うことができたのに……。いくら謝っても謝りきれなかった。十五年前に実の母を見殺しにしておきながら、今も同じ過ちを繰り返してしまったことが、ラースは情けなくて仕方がなかった。
「ラース……」
セラとあかねが呆然とする中、クレスは海面から上がり、ラースのそばに座って言った。
「お前はよく頑張ったよ。十分過ぎるほどに頑張ってくれた。だから、自分を責めるようなことをしちゃ駄目だ」
――むしろ、責められるべきなのは僕の方だ……。ラースに温かい言葉を送りながら、クレスは自分自身を戒めた。
騎士でありながら、バーゴを助けようと考えなかったのは何故だ? あの時、ラースと一緒に行っていれば、バーゴを救い出すことも不可能ではなかったはずだ。それなのに自分は、すぐに無茶だと決めつけて、バーゴのことを見捨ててしまったのだ。騎士の風上にも置けないことをしたと、クレスは自分の判断を恥じた。そして、人情味溢れたラースこそが騎士に相応しいと、クレスは感じた。
「ねぇ、これからどうするの?」
遅れて船の破片に上がってきたあかねが、皆に尋ねた。
「あいつらを追おう」
むくりと上半身を起こし、ラースは悩むことなく即答した。
「だから、それが簡単にできないから、どうするって訊いてるんだろ! 船も壊れちゃったし、もうまともに海を渡る手段がないじゃん! 考えてものを言えよ!」
あかねのごもっともな反論に、ラースは思わず視線を落とした。確かにあかねの言う通り、今は陸に上がることすら困難な状況である。しかし、このまま引いてしまったら、向こうの思う壺になってしまう。すぐに諦めるようなことを、ラースはしたくなかった。
「……このまま引き下がれるかよ? カダルナ港であれだけのことをしておいて、仲間だったバーゴを捨て駒のように殺しておいて、みすみす逃がすようなことができるかよ?」
「そ、それは……」
今度はあかねの口が止まった。海の上に置き去りにされて何も感じないはずはないし、あれほどの極悪人を野放しにしておけば、きっとまた何かをしでかすに決まっている。犯人を殴りたいのは、あかねにとっても同じことだった。
「僕も同じ気持ちだよ、ラース。だけど……」
横で話を聞いていたクレスが、首を振って言った。
「今は、あかねさんの言う通りだ。今の僕達には足がない。イーストに渡るどころか、ここからカダルナ港に引き返すことすら難しい状況なんだ。まずは、僕達が生きて陸に戻ることが先決だよ」
クレスの的確な意見を聞き、ラースはまた視線を落とし、口を閉ざした。このまま敵の思惑通りに事が進んでしまうことが許せず、ラースは握り拳を固めてわなわなと震えた。
「こんなとき、誰かが助けに来てくれたら……」
ラースの心境を汲み取って呟いたとき、セラは思い出したように声を上げた。そして、着ているワンピースのポケットに突然手を入れたかと思うと、中から一枚の朱色の羽根を取り出した。
「それ……ノアールで会ったあの男から貰ったやつか?」
ラースの問いに対し、セラはこくりとうなずいた。そして、朱色の羽根を両手で包み、祈るように胸に押し当てた。
「鳥に乗るおじさんは、私に『ピンチになったときはいつでも駆け付けてあげる』と言ってくれました。私達にとって、今がそのピンチなときです。また、あの鳥さんと一緒に来てくれたら……」
「その、鳥に乗るおじさんというのは?」
その時に唯一いなかったクレスが、怪訝な顔をして訊いた。
「ノアールの森で会った男だよ。大きな鳥に乗ってて、森の中で遭難した俺らを外まで連れていってくれた。別れ際に、確かにあの男はそんなことを言っていたが……」
一つため息をつくと、ラースはセラに視線を移して言った。
「あの男も、それを本気で言ったわけじゃないだろ。そんな都合よく現れてくれるとも思えねえし――」
「ひぃぃぃぃっ!」
突然、あかねが悲鳴を上げ、カタカタと震えながら縮こまった。何に怯えたんだと思い辺りを見渡すと、周囲が巨大な影で覆われていることにラースは気付いた。
バサリ、バサリと、翼を豪快に羽ばたく音が聞こえる。まさかと思い、ラースが上を見上げると、黄金色の鋭い爪に、艶やかな朱色の毛並みをした巨大な鳥が、すぐ目の前に飛んでいた。
「どうしちゃったのよ、ラースくん。こんな所でさ」
ラース達が呆気に取られている中、巨鳥の背中から一人の男が姿を見せた。
クリーム色のミディアムヘアーに、特徴的な黒いスカーフ。そして背中に担ぐ、黒と銀で彩られた薙刀――その人物は、ノアールで出会った鳥に乗るおじさんそのものだった。セラの一途な願いは、本当に鳥に乗るおじさんのところまで届いてしまった。
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