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「くそっ! 敵襲だ! 背後から敵襲だ」


 馬頭たちが敵軍の背後へ奇襲をかけると意表を突かれた敵軍は混乱に陥る。


「はあああっ!」


「ぐあっ!」


「ぐふっ!」


 神鳥に乗った栞那は立ち塞がる敵兵へと刀を走らせ敵兵を次々と斬り伏せていく。


「さあ、たまを取られたい子がいるなら前へ出てきなさい」


「うぎゃっ!」


「うっ!」


 朱美も栞那に負けない勢いで大鎌を振り回し敵兵を容赦なく屠る。


 先陣をきって活路を切り開いているのはこの二人だ。


 馬頭は二人に守られるようにその後ろで体力を温存させている。


 敵はあまりに多勢で最初から全員であたっていても最後には力尽きてしまう。そのためにこの中で一番武勇に優れている馬頭の体力を残し、敵が混乱している中を栞那と朱美の二人で立ちはだかる敵を蹴散らす。


 当然二人は馬頭が敵将を倒すための捨て駒だがそれは覚悟のうえだ。


 しかし奇襲による馬頭たちの快進撃はそう長くは続かない。


 指揮官が優秀なのか、さすが本陣を守るだけあって敵は奇襲による混乱をすみやかに収拾させると反撃に打って出てきたのだ。


「これではきりがありませんね」


 次々と立ち塞がるように現れる敵兵にうんざりするように栞那はボヤキながら敵兵を薙ぎ払う。


「ここが踏ん張りどころよ栞那ちゃん。恋も戦も諦めたらそこで終わりなんだから」


 朱美は敵兵の首を大鎌で切り落としながら栞那を励ます。


「諦められたらそれはそれで楽なんですけどね!」


 朱美に励まされて栞那は軽口を叩きながらも敵を倒し前へと進んでいく。


 そんな栞那たちの猛攻に敵も業を煮やしたのか栞那たちの進む先に兵を集め、槍を構えて密集陣形を作り乗っていた勢いを削ごうとする。


「くっ!」


 密集陣形を見て栞那は苦い顔をし、馬頭も苦々しそうに笑う。


「敵もそうやすやすと通してくれはしないってわけか」


 敵の狙いは狙いは密集することで神鳥と馬の足を止めることだ。さしずめ目の前の密集陣形は肉の壁といったところだ。勢いに乗って急には方向を変えることが難しいこの状況では肉の壁を避けて通ることはできない。


 これまで神鳥と馬に乗って進むことで敵に完全に囲まれずに進撃できたが、足が止まれば一斉に数の暴力に襲われ殺されてしまう。


 どうやって状況を回避するか急いで考える栞那に朱美がおどける様に言う。


「仕方ないわね。栞那ちゃん、ここはわたしが抜け穴を作るからあとのことを頼むわよ」


「しかしそれでは……」


「ここで犠牲を気にしていたらみんな共倒れになっちゃうわ。それにおかまは穴を掘るのが得意なのよ」


「……わかりました」


 朱美の目を見て栞那も覚悟を決める。


「あとのことはまかせてください。馬頭殿を必ずや敵将の元まで送り届けます」


「頼むわよ。はっ!」


 朱美は馬をさらに加速させて前へと進み出る。


「来るぞ!」


 朱美がそのまま密集陣形へと近づくと足軽組頭の号令がかかり朱美の乗っていた馬に無数の槍が突き刺さる。


 串刺しにされた馬は力尽きてその場で倒れ伏してしまう。


 敵兵たちはすぐに朱美に止めを刺そうと槍を向けるが馬上に朱美の姿がなかった。


「ど、どこに行ったんだあの大男は!」


 足軽組頭は慌てて右へ左へと視線を動かし朱美を探すが見つけることができなかった。


 あれだけ特徴的な姿をした男を見逃すはずがないと思っていると頭上から声をかけられる。


「わたしは男じゃなくておかまよ!」


「なっ!」


 声のした頭上を見上げると甲冑を身に纏ったおかまが大鎌を振り下ろしているところだった。


 馬上からたった一瞬で上空に飛びあがったことも驚きだが重い甲冑を身に纏って飛んでいることにも驚きだった。


 しかし足軽組頭はその驚きを実感する前に朱美によって振り下ろされる大鎌で頭をかち割られていた。


「ひっ!」


 足軽組頭が一瞬にして殺されたことで動揺を隠せない敵の足軽たち。


 朱美はそのまま動きを止めずに大鎌を振り回して密集陣形を中から崩壊させる。


「今です! 突っ切ります」


 密集陣形が崩れたのを見て栞那たちは敵が立て直す前に密集陣形を突破する。


 たった一人で敵を屠る朱美とすれ違う瞬間、栞那の目から涙が流れた。


「すいません、朱美さん」


 咄嗟に出た一言は謝罪だったのか感謝だったのか栞那にもわからない。


 だが今は朱美を助けている余裕がないのは事実だ。


 敵はこちらを殺そうと必死に動いている。その一分一秒も無駄にできない中で朱美は足である馬がない。そんな朱美を助けようとすれば味方の被害が大きくなるだけだ。


 ここは非常に徹して見捨てなければならない。


 それは朱美が密集陣形を破ると言った時から覚悟していたことだがそれでも涙は流れる。


 そんな栞那の心境を察して朱美はすれ違いざまに優しい声音で言う。


「いいのよそれで」


「……」


 栞那はどんどんと遠ざかる朱美へ振り返ろうとするが涙を拭いその気持ちを抑える。


 今は感傷に浸っている場合ではない。


「せやあああっ!」


 栞那は前を見据えて立ちはだかる敵を斬り伏せる。


 背後からは朱美の声が喧騒に包まれてだんだんと聞こえなくなるがそれでもなお敵を斬り捨てながら前へと突き進む。


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