04
翌日の放課後。
屋上の鉄扉を押し開けると、そこには昨日と同じように空を見上げる和翠の姿があった。
「……こんにちは」
優也の声に、和翠は待っていたかのように振り返り、柔らかく微笑む。
「お疲れ様。貴方も、また『暇つぶし』?」
「はい……。先輩と、一緒ですね」
優也は、胸に刺さったままの「確信」を確かめるように切り出した。
「あの。先輩を見た時、初めて会った気がしなくて。それで……どこかで会ったこと、ありませんか?」
「うーん、つまり遠回しに私をナンパしてる?」
「ち、違いますっ!」
全力で首を振る優也に、和翠は小悪魔めいた笑い声を上げる。
「そんなに否定されると、少し傷ついちゃうかな。……でも、釣り合うかどうかじゃなくて、お互いに好きかどうかじゃないかしら。違う?」
核心を突く言葉に、優也は深く息を吐き出し、意を決して右手を差し出した。
「……僕と、友達になってください」
「ええ。喜んで」
五月の風の中、二人の手が重なった。
◆
『――優也、お前は小学生か?』
夜、自室のベッドに寝転ぶ優也の耳元で、スマホ越しに久志の呆れた声が響く。
同じ時刻、木原家。
「友達って……姉さん、それじゃ小学生じゃないんだから」
和翠の報告を聞いた弟の一輝もまた、全く同じ言葉を投げかけていた。
「でもね」と、和翠はベッドに腰掛け、一輝に反論する。
「何かを始めるなら、まずそこからじゃない?」
優也もまた、スマホの受話口に向かって自論を語っていた。
「何かを始めるなら、まず『友達』にならないと始まらないだろ?」
『まあ、言いたいことはわかるけどさ。わざわざバイト明けの俺に報告することか?』
久志のツッコミに、優也は苦笑しながら返す。
「いや、久志には昨日相談に乗ってもらったから、ちゃんと報告しなきゃと思ってさ」
同じ頃、和翠は一輝に甘えるように笑っていた。
「一輝には昨日相談に乗ってもらったから、報告した方がいいかなって」
「姉さんのペースがあるんだろうし、いいけどさ……。焦らなくていいってことだよ。十人十色、って言うだろ?」
『辞典にも載ってるぜ。考え方や好みは人それぞれだってな』
今度は久志の声が、優也の部屋に響く。
「……考え方、好み、性質がバラバラだってことだよな」
優也がその意味を反芻すると、和翠の部屋でも同じ会話が続いていた。
「わざわざ意味まで説明しなくていいんだけど」と、一輝。
和翠は不思議そうに首を傾げた。
「え? 言ってあげないと解らない人もいるかもしれないでしょ?」
「解らない人って……ここには俺と姉さんしか居ないけど」
「それは、解る人には解るの」
『なんのこっちゃ』
呆れる久志の声に、優也は少しだけ口角を上げた。
『でも、一歩前に進なんだろ? 手応えはあるんだな』
「手応えというか……。これで良かったんだって、そう思えたんだ」
『お前がいいなら、それで良い。俺はそう思うぜ』
「それって、結局は当人の問題ってこと?」
和翠は、一輝が投げかけた「自分たちがいいなら周りは関係ない」という言葉を噛みしめていた。
「そうだよ。世間の目なんて気にするなよ。姉さんは、人のためじゃなく自分のために時間を使ってもいいんだ。……幸せは待つものじゃない、掴み取るもんだ」
『いいか優也。幸せは待つものじゃない。掴み取るもんだ』
久志の言葉が、優也の胸の空白を鋭く突いた。
「久志……顔に似合わずロマンチストだな。……でも、ありがとう。幸せは待つものじゃない、掴むもの。忘れないよ」
『ああ。……じゃ、また明日学校でな』
通話を終え、優也はベッドに倒れ込んだ。
ふと、和翠の顔が浮かぶ。今頃、彼女は何をしているだろうか。
「……よし、明日、番号交換を頼んでみよう」
同じ月を見上げながら、和翠もまた、スマホを握りしめてベッドの中で震えていた。
「……番号交換、してくれるかな。でも、動かないとダメなんだよね」
不意に、優也の真っ直ぐな瞳が脳裏を過る。 ――ドクン、ドクン。
胸の奥で、熱い鼓動が跳ねた。
「……うん。また明日、学校で会えるといいな」
to be continued.




