ソロキャンプ
(ノアはもう今日は使えないし……)
(そうだ、暗くなる前に食料と水の確保だ)
元の世界に居た時に、趣味でソロキャンプを始めたが、3回目で挫折していた。
1人は寂しすぎて自分に合わない事に気付いたのだ。
しかし、こんな所でその少ない経験が役に立つとは思わなかった。
(高所に行って水場を探そう)
丘の上に立つと、世界が一気に開けた。
はるか遠くに街らしきが見えた!
石壁に囲まれ、煙がゆっくり空へ伸びている。
(よし!文明があるぞ!)
そして手前には、広い湖も見える。
陽光を受けて、静かに光っていた。
(流石に街までは遠すぎるな。今日は無理だな)
日没までに辿り着ける保証がない。
(夜は危ねえ)
夜に魔物出現率が跳ね上がるのは中学生でもわかる。
丘を下り、湖に着いた。
用心の為、大きな岩を背にして陣取る事にした。
まずは火起こしだ。
腰の作業ベルトを外し、持ってこれた手持ちの道具を確認する。
手袋、ドライバー、小ハンマー、小ノコギリ、ペンチ、ナイフ、メジャー、ビニール紐、ビニールテープ。
「チッ、ライターがあれば一発だったのに」
乾いた枝を集めて、枯れ草をほぐす。
木同士を擦りつけて摩擦。
煙はすぐには出ない。
(焦るな、湿気がある)
枝を削り、摩擦点を固定する。
空気の通り道を作る。
四十分。
ようやく細い煙。
息を吹き込むと、小さな火種が赤くなる。
用意していた小枝達に移すと炎が立った。
「よし!成功だ。めっちゃ疲れたー」
(次は水だな)
湖へ向かい。
倒したゴブリンから調達した革袋を洗い、水を汲む。
だが直接は飲まない。
用心深い俺は煮沸消毒するのだ。
拾ったヤシの実の殻のようなもので火にかける。
冷まして一口。
異常なし。
「……生きてる」
腹が鳴る。
(魚を釣るか)
仕掛けを作る。
長くてしなやかな木の枝とビニール紐で、即席の釣り竿を作り、硬い木を削り、釣り針にした。
餌は湖岸の虫。
釣りの経験もある俺は、生息付近にあるタンパク質なら何でも魚の餌になる事を知っていた。
1投目投げる。
いつもよりポイントに投げれない。
しばらく待つと竿先が震えた!
竿が弧を描き、手のひらに生き物の鼓動が伝わる。
(キターーー!!)
引くと暴れる銀色の魚。
湖岸まで引っ張り、岸にあげる。
(釣れたー!!)
(めっちゃ嬉しい!)
(めっちゃ楽しい!)
体側がわずかに光る。
スマホを向けてみる。
《観測確定》
《種別:ルミナスパーチ》
《毒性:未検出》
(ルミナス……光る魚か)
ノアのおかげで進化したスマホは、まるでスカウターのようになっていた。
(素晴らしいぞノア!これはマジでチートアイテムだ!)
(最弱職「便利屋」の俺に、最強の攻略ギアだ!)
その後、立て続けに4,5匹と釣れた。
入れ食いってヤツだ。
そして俺は高校3年間の飲食店バイトを経て、調理師免許も取得していた。
便利屋依頼で、食事を作った事もある。
ナイフで手早く鱗を落とし、内臓を抜く。
臭いを確認。
問題無さげ。
近くの葉を擦る。
柑橘の香り。
スマホを向ける。
《芳香成分検出》
刻んで魚に擦り込む。
細い木の棒を口から通して焼く。
脂がポタポタと火に落ち、香りが立つ。
一口。
「うまっ!!」
異世界だが、一瞬の幸せを感じる事ができた。
スマホのメモを開く。
【ルミナスパーチ 可食】
・柑橘系野草と相性良
・強火で皮目パリッ
(次は塩を手に入れたいな)
夕暮れ。
双月が昇る。
二つの月がゆっくり重なっていく。
火の光が柔らぐ。
少しだけ、胸が締まる。
(キャンプの時に火を見るのって、何かよくわからんけど良いんだよなあ)
火の揺らぎ越しに、湖を眺めながらセンチメンタルになり、自然と涙がこぼれた。
(……帰りてぇ)
充電マークが点滅している。
なるほど、月の力で充電されるようだ。
《助言回復:2》
(もったいないからまだ使わない)
その時、森の奥から悲鳴のような叫びが聞こえた。
以前聞いたゴブリンの声。
鈍い衝突音と、肉を裂く生々しい音がここまで聞こえた。
慌ててスマホを望遠で向けてみた。
《巨大狼型:ワーグ》
《魔獣LV3》
《弱点:火》
四足の影がゴブリンを咥える。
どうやら昼間俺を襲ったゴブリン達が、ワーグという魔獣にやられたようだ。
ゴブリンを咥えたワーグが、遠くからこちらを見ている。
そして森へ消えていった。
(まさに弱肉強食だな)
(たまたま火が嫌いで助かった)
この時俺は、本格的に異世界サバイバルが始まってる事を理解した。
(果たして俺はこの世界で生き延びる事ができるのだろうか?)
(明日は街に行ってみよう)
大きな葉っぱに隠れるように横になった。
疲れ果てた俺は、そのまま泥のように眠った。




