二十九頁 悪戯
昏い、暗すぎる。
寝起き間も無くのただでさえ思い瞼に覆い被さるものが一つ、二つ。
温もりを感じる、手だ。この状況で想像できる次のセリフはだいたい予想がつく
「く...ーーふふ!な〜んでしょうか!」
そう面白げに告げる彼女に対して僕は
「やめてください。ミリさん」と辛辣に言葉を返した。
まぁ無理もない、起きてその瞬間に布団を頭から被されてその次は手で目を覆い被されたんだ。
* * *
体育大会終わりの土曜日の朝
早朝からちょっとした揉め事はあったが今はそれも終わりーー
と、先ほどの騒動は何だったかというと、体育大会の優勝のお祝いのサプライズ、だそうだ。
ご馳走やその他諸々が用意された机を見せて驚かすために隠していたんだとよ。
朝からということもあってそこまでお腹にくるようなものはないのがちゃっかりしたとこである。
「わぁ〜!なにこれ...!!ありがとう!」
足を軽く曲げ伸ばし、彼女は自慢げな表情を見せる。
「ぶいっ!」と片手にピースを作る。
いつものように、いやいつも以上に明るく振る舞う彼女に亮太は冷たく、冗談も含みながら言った。
「あーはいはい。わかったよ。ありがとね
それで?優勝って言ったけどミリには負けたしなぁわかっている…皮肉なんだろ」
「そんなことないわ!あれは…その…ほんとに私もギリギリだったし…」
「ギリギリ、でも勝ったじゃねぇか」
「そうよ!?勝ったわよ?だって私、つよいもの!」
「そうですねぇー強いですね!」
「だから!皮肉とかじゃなくてー!そもそもエキシビションだから優勝かどうかには関係ないじゃないの!なんでそんなにいじけてんのよ!」
「ははっ…はははっ!やめたやめた、ありがとう!素直に祝われるとするよ」
2人で笑いあったあと、亮太は真顔に戻って再び告げる。
「はいはい、お疲れ様!ありがと!」
「うん!それでいいの!」
「ていうか、あの時はミリホントに全力でやってたわけ?」
ミリが黙る。
実のところ、驚くべきことにあれがミリの本気だと言うなら僕はかの魔導師ミリさん(通称)にかなり迫った、いやほぼ互角まで追い詰めたということになる。
「あれがミリの全部だったんなら、僕って相当なことをしちゃったんじゃね?」
「まぁ、そうね…私は全力だったわ…」
「そうかー…ってえ?てことは僕だいぶ強くなったんだなぁ〜」
「そうね…!ほんと驚きよ…スキルは持ってるわ、しかも使いこなしてるわで…もう次やる時にちょっと日にち空いちゃうと私も追い抜かされてるかもね…」
少々不快気そうに眉を寄せたミリの言葉に亮太は苦笑する。
「確かにそうかもね。今までは扱い方とか威力の調整とか慣れてなかったけど、だんだん使いこなせるようになってきた…かな!」
「な、なるほど…確かにそうね…現実味が増してきて余計に末恐ろしいわ…」
「ま、でも学校のイベントもあとは残り1つくらいだし、次にもし戦う…なんてことは無さそうだな!」
「ははーー」ミリが笑う。
「それもそうね、でも軍隊に入ったらもっとたくさん戦わなくちゃだめなのよね…先が思いやられる…ふふーーそういえば、進路はどうするの?」
「進路?進路か…今聞かれるとはな!実は決めてたんだよな…僕もミリに負けっぱなしってのも辛いし、ってかそんなの無しで、ミリについて行くよ」
「え、ほんと!?嬉しい!けど、いいの?」
「あぁ、そのためにもこれからももっと頑張らないとだな!」
部屋には2人の明るく頼もしい笑い声が響き渡っていた。
※ ※ ※
利き手と反対の腕、亮太であれば左腕に装着しているビジュアライザーが蒼白く光り、亮太はそれを見つめた。起動の印である。
両手のひらに収まるような大きさで、黒っぽいそれは、装着者の魔力や、現在の高度を表す針付きのメーターと、それを取り囲むかっこいい模様が刻み込まれた腕輪だ。
個人でおしゃれの道具として使うなら腕輪はいくらだってあるだろうがここまで中途半端なものはそうないだろう。装着者がビジュアライザーを初めて使用する際は、魔力を覚えさせるために力一杯に魔力を込める必要がある。そういうわけで他人のビジュアライザーは原理的に使用不可である。
「ん?もう時間?早いな〜もぅ...」
隣で、先の班の演習が終わるのが早すぎる、と空を見上げながら現を抜かしている彼女が声をかけてきた。
「そうだね...緊張するよ...」
亮太たちは今この演習ーー小隊規模に編成された班のメンバーと航空から的さんに向かって魔法攻撃を行い、的の破壊を行う、というものを行なっていた。
「こうやってのんびりのんびりと過ごしていると時間経つのってすっご〜くゆっくりに感じる筈だけど、何だか早く感じたわね。亮太くんといるからかしら」
まぁ、色々とツッコミどころのある発言であった。




