第四十八楽章 強力な助っ人
「うーん、なかなかうまくいかねぇな……」
演奏を終えて、鶴さんがそう呟いて、背中を掻いた。
「すいません。足、引っ張っちゃって……」
と、ぼくが頭を下げると、鶴さんは黙って首を横に振った。
「いや、お前は初心者にしちゃ、充分に頑張ってるよ。ただ、おれが薫と同じペースで早弾きし続けるのが厳しくてなぁ」
鶴さんは、右掌をぶるんぶるんと振りながら、ため息をついた。
夢竜の二階、鶴さんの練習部屋だ。
波多津薫が離脱した事で、練習していた曲が、パート構成のし直しになった。
難題は、聖飢魔IIの後期のシングル曲、
「BRAND NEW SONG」。
テンポが早く、疾走感のあるギタープレイが要求される難曲で、今までは、
「波多津薫が、ルーク篁パート(リードギター)」
「鶴さんが、ジェイル大橋パート(再集結後のサイドギター)」
「ぼくが、エース清水パート(解散までのサイドギター)」
というギター構成で、こなしてきた。もちろん、ぼくのパートはまだまだ「真似事レベル」だ。
だけど、波多津薫が抜ける事で、
「鶴さんが、ルーク篁パート(リードギター)」
「ぼくが、エース清水パート(解散までのサイドギター)」
で、いかなければならなくなった。
鶴さんは「苦手なんだよなぁ」とぼやく連続高速ギターフレーズをフルピッキングを弾かねばならず、ぼくはぼくで、鶴さんに合わせて「緻密で正確。それでいてドラマティックでメロディアスなギター」を弾かないといけない。……うん。字面を見ても、ちんぷんかんぷんだ。
「薫はすげぇなぁ。よく、これを普通に弾けるもんだわ」
鶴さんが、動きを確認するようにゆっくりとピッキングしながら、ため息混じりに言った。……ぼくからすれば、“表現力の塊”のようなジェイル大橋の情緒性豊かなギタープレイを忠実に再現できる鶴さんの腕前だって、物凄いのだが。
「まぁ、ゴネてもしゃーない。しれっと演って、病院で生中継を観てる薫の、度胆を抜いてやらんとな」
鶴さんが気合いを入れ直し、ぼくも、静かにうなずいた。
もう一度頭アタマからやってみる事にして、鶴さんがMacBookのマウスに手を伸ばした。
その時。
「ごめんください!」
階下から、こちらに呼びかける声がした。
店の営業時間はとっくに終わっている。暖簾だって、きちんと仕舞ったはずだったが。
腰を上げかけた鶴さんを手で制して、ぼくが「見てきます」と、一階に降りる。
階段を下り、出入り口に目をやって、ぼくは「あっ!」と、声をあげた。
薄暗い“そこ”には、ギターケースを背負った長身の人影が立っていた。
店の前の車道を一台の車が通り、ヘッドライトが、人影の左耳のピアスを煌めかせた。
立っていたのは、軽音部の大久保部長だった。
「ど、どうしてここに……」
ぼくが言うと部長はにやりと笑い、
「困ってるんだろ。助っ人に来たぜ」
と、言った。




