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第四十九楽章 BIG TIME CHENGES

 部長を含めた三人で車座になって、あらためて、ギターの構成を見直す作業に入る。


「ところで、部長は、この曲を聴いた事はあるんですか?」


 ぼくが、おそるおそるそう訊ねると、


「あるよ。っていうか、アルバム持ってる」


 と、部長は、自分のウォークマンの画面をぼくに見せた。そこには聖飢魔IIのアルバム「NEWS」のジャケット写真が映っていた。


「おれがギター始める時に、薫がくれたんだ。……あいつ、おれを信者に引きずり込もうとしやがった」


 と、部長が笑う。


「弾いた事は?」


 鶴さんが訊くと、部長は自分のテレキャスターを構え、いきなり弾き始めた。


 力強く伸びやかで、疾走感のあるメロディが、ヤマハ製のアンプから響く。

 収録曲「虚空の迷宮」の、ギターソロだ。


 鶴さんとぼくは、思わず顔を見合わせてガッツポーズをした。


「すごいじゃん」

「完璧じゃないですか」


 ぼくと鶴さんが、拍手をしながら口々に部長を褒め称えた。


「エース清水は好きでね。ソロアルバムも買ったし、去年は、博多まで"face to ace"のライブも観に行ったよ」


 部長が、手を止めて事もなげに言う。


「薫がびびったってのがよくわかる。……そうだな。これだけ弾けるなら、思い切って、また、ガラッと変えてみるか」


 そう言うと、鶴さんは手近にあったアンパンマンのホワイトボードを手繰り寄せて、なにやらを書き始めた。


「ほい。じゃ、これで行こう」


 鶴さんが、ホワイトボードをぼくらに向けた。


 そこには、


「鶴飼、ジェイル大橋パート」

「大久保、エース清水パート」

「高田、ルーク篁パート」


 と、書かれていた。


 え?


「この曲は、エースのパートもピッキング速いけど、大久保君と隆のふたりがかりでやれば充分に形になるんじゃないかと思う」


 鶴さんは、そう言った。


「まぁ、曲のアレンジいじって、上手く回せばいけますかね」


 部長は、はやくも頭の中で曲調をシミュレートしている様子だった。


「あ……でも」


 ぼくは、動揺しながら訊ねる。


「これって、ギターソロは、どっちがやるんですか?」


 ぼくの質問に、鶴さんは部長の目を見て“にやり”とした。


 部長も、なにやらを得心したいった表情で、笑い返した。


「お前が弾くんだ」


 鶴さんと部長が、示し合わせたかのように同時に言った。


「え!?」


 ぼくは、思わずたじろいだ。


 この曲のギターソロは、とにかく高速のオルタネイトピッキングが繰り返される、相当に難易度の高いものだ。


 いまのぼくに、出来るはずがない。


 そう言おうとした時、先手を取って、部長が口を開いた。


「お前が、薫に聴かせるんだ。“お前のメロディ”を」


 その言葉を聞いて、ぼくは「はっ」とした。


 流されるままギターを始め、

 流されるまま練習して、

 ……今度も、流されるまま、ふたりに頼ってライブを終えるのか?


 もう、変えようと思った。


 今までの、愚痴ばっかりで何にもしてこなかった自分。屁理屈と言い訳ばかりで、なにもしてこなかった自分。


 ここで、ここから、ぼくは変わるんだ。その時が、やってきたんだ。


 変わって、そして、波多津薫に伝えるんだ。ぼくの気持ちを、曲に乗せて。


「やります」


 ぼくは、腹に力を込めて、そう言った。


 部長が、満足気にうなずいた。


 それを聞いた鶴さんは腕を組んで、


「いや、ルーク篁はいい詞を書くねぇ」

 と、感心していた。


 その言葉を聴いて、さっきの部長の良い台詞は「BRAND NEW SONG」の歌詞のパクりだということに、ぼくは気づいた。




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