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過去編 四年前 秋 その一

こちらは前日譚よりもっと以前の時間軸の追加となります。

今回の過去編は先輩彼女(サヤカ)と彼女の親友(ユキコ)のそれぞれの昔を書いていきます。

「あー。またやっちゃったのか。それ、そうだよね?」


 登校時、下駄箱の蓋を開けてみれば白い物が覗いてて。


 これいわゆるあれですね。ラブでレター的な奴。今年何通目だったかな。


「今度は気をつけてたんだけどなぁ。また、ダメだったよ」


 と、送り主の名前を見ながらぼやくのは、この下駄箱の主で手紙の相手。


 ざんねん! ラブでレターな送り先は私ではありません!


 いやだからってあんまり羨ましいとも思わないけど。ホントだよ?


「ま、なっちゃったもんはしゃーないしょ。で、いつなのよ?」


 私は親友のサヤカに、ひとまず告白の日取りを聞いておく。


 念のため、その場には私も近くで待機しておくことになっているからだ。


 断られた男子が、なにか無茶な行動に出ないとも限らない。


 追い詰められると人間何をするかわからないとは、以前相談した先輩のお言葉。


 男子の側が複数人で告白の場に来ることすらあるらしい。


 今時女子だって複数人で告白なんてしないだろうに。一体何を考えてるのやら。


 まあ恐らくは、有形無形の圧力を狙ってのことなんだろうけど。


 いっそそこまでクズいなら、対応する方も楽でいい。


 怖くて近づけなかったごめんなさいで、後腐れなく終わりにできる。


「今日の放課後だってさ。校舎裏」


 サヤカはざっと手紙に目を通すと、ため息とともにまた元に戻す。


 そのまま一応カバンに仕舞うと、教室に向かって歩き出す。


「おっけ。空けとくよ」


 私はそれに相槌を打つと、手紙の主がどんな奴だったかを思いだす。


 確かバスケ部の、同じ一年生だったよな。それなら何人か心当たりもある。


「ごめんねー。今度また、埋め合わせはするからさ」


「あっ! じゃあ、佐藤さん家のハムがいい! でっかいやつ!」


 サヤカが両手を合わせて拝んでくるのを食い気味に、私は私の欲望を解き放つ。


 他の埋め合わせなど必要ない。今私が欲しいのは、佐藤さん家のハムなのだ。


「ユキコ……。いい加減、人んちのお中元狙うのやめなよね」


「いいでしょー。どうせまた箱も開けてないやつ、あるんでしょ?」


 実はこの会話、夏前から何度かしているものなのだ。


 そう、私は事前調査を怠らない女。


 サヤカの家に今年もまたあのハムが贈られたのは確認済みだ。


「まぁ、多分あると思うよ。いつも通り、先に頂いたものから消費してるから」


「へっへっへ。ゴチんなりやす。いやっふー。今年もまた佐藤さん家のハムだー」


 ちなみに去年は、夏休み受験勉強に付き合ったからという名目でお礼に貰った。


 サヤカも別段危ないというわけでもなかったけど、どうも不安が勝ったようだ。


 今は無事、二人とも同じ高校へ通えている。


「その代わり、ちゃんと上手くやってよね? お願いだから」


 サヤカが、どことなくバツの悪そうな顔をする。そんな顔なんかしなさんな。


「わかってるよ。まぁ、私がするのはカラオケ企画して放り込むとこまでだけど」


 この場合の私の役割は、サヤカに振られてしまった男子にそれとなく新しい出会いを紹介すること。


 あくまで既に好感触な娘や、彼氏が欲しいって言ってる娘との場を整えるだけ。


 その後その男子が女の子をモノにできるかどうかまでは、流石に私の関知外。


 後はその男子のグループにそれとなく話を聞きに行って、噂話になっているのかいないのか、なっているならどの程度の話なのかを確認してくる程度かな。


 サヤカに告白してくる男子はほとんどがそこまで本気の本気ってわけでもないようで、それで十分変なことにはならずにやり過ごせた。


 彼らの中でサヤカが友人から知人以下へと後退してしまうことを除けば、だが。


 変に恨まれるよりはいいとは言え、新しい女の子に熱を入れあげてる元友人を見かけるたびにサヤカは微妙な表情をしてすれ違っていた。


「それ、十分わたしには無理なやつだからね。いいなぁユキコは。どっちにも友人多くて羨ましいよ」


 そう言って寂しそうに笑うサヤカは、中学時代からは考えられないものだった。


 中学時代の気さくにフレンドリーがモットーだったサヤカは、私と初めから妙にウマがあった。


 元々の性格が似ていたせいもあったのか、二年生のクラス替えで一緒になると私達はすぐ仲良くなった。


 今ではサヤカの一番の親友だ。ちなみにサヤカの親友に二番目は存在しない。


 何故なら、私一人で十分だからである! 文句あるか!


 だからその一番の親友として、サヤカのこんな顔は看過できるものではない。


 ならばどうする。こうするのだ!


「サヤカだって、その男に媚び売るのやめたらもっと友人とか増えよきっと」


「そんなもん一度たりとて売ったことないわ! てか入荷したこともないし!!」


 一度つついてやればほれこの通り。いつものサヤカが顔を出す。


 あんな辛気臭い顔しているよりは、こんな怒った顔のほうがいくらかマシだ。


 その怒りも、そんなに長くは続かない。怒るって結構エネルギーが必要なのだ。


「あはは。冗談冗談。まぁモテ過ぎても大変なだけってのは、ホントご愁傷様だ」


「うう。別にやりたくてやってるわけじゃないんだよ。一体どうしたらいいのか」


 サヤカは中学時代に比べたら、もう格段に綺麗になった。


 高校に入学したことで心構えが変わったのか、制服が一新されて幼い頃から着ていた物ではなくなったせいなのか。


 どこか、妙に大人びて見えるのだ。何なら高三だって言われても不思議はない。


 もともと気さくな性格で、男子との距離感が近かったのも良くなかった。


 そのせいでこの半年、サヤカは色んな男子に告白されるようになっていた。


「メガネかけたらいいんじゃない? あのもっさりフレームでレンズ厚いやつ」


 だから少しでもその魅力を落としてやれば、ちょっと仲良くなっただけで告ってくるようなのも減るだろう。


 彼女は少し仲良くなると告白され、それを断ると知人以下に戻るという青春をここ半年ずっと繰り返して来ているのだ。


 その心労はいかほどか。その孤独感は幾度彼女を傷つけただろう。


 異性と友人になったとしても、そうそう告白などされない私には想像もつかない話ではある。


「わたし、目が悪いわけじゃないからね。そんな必要もないのにかけられないよ」


「まぁ、それ知ってる人には聞かれるか。わざと伊達メガネってのも感じ悪いね」


「じゃない? 多分。まぁこれ以上酷くなるようならそういう方面も検討するよ」


 そう言って、サヤカは最近増えてきたため息をまた吐き出した。


 そうだよな。今ここで女子連中から総スカンを食らうことほど、怖いものはないのだから。




「おつかれさん」


「こういうの、何度やっても慣れないよ……」


 件の男子は、既に肩を落として去って行った。


 まぁ記念受験みたいに告白したって、上手く行くわけないんだから。


 今度はもうちょっと、真剣になってから出直してきてほしい。


 ごめんの一言にそっかーはないだろう。


 まぁ、変に粘られるよりはいいけれど。


「ああ正面切ってやってこられるとね。躱しようもないからね」


「うん……。呼び出されちゃった時点でもう避けられないしね」


 今すぐに、男女としての関係がありかなしかを選ばされる。


 今日のように、場合によっては一晩考えることすら許されない。


 そして否となれば、今までの関係性は消え失せる。


「で、今度は自分が避けられると」


「はは。また一人、友達が減っちゃった」


 恐らく、明日からは会話などもなくなるだろう。大体向こうから避けてゆく。


「しゃーない。サヤカが違うって思うなら、無理に付き合ったって続かないよ」


「うん……」


 ホントにもう。サヤカはホントにまったくさ。


 いちいちそんな気にすることとかないんだよ。仕方ないものは仕方ない。


 男なんて、縁があればその内できる。暗い顔してるとその縁すらも逃げてくぞ?


「今回はこっちも調整が必要かな? 今ならカラオケデートで手を打ちますぜ?」


「あはは。今はそういう単語はやめてよね。てかもうちょっと気を使えー!」


 おうおう、元気なのはいいけど、袖を引っ張るのはやめとくれ。伸びちゃうよ。


「おおこわい。じゃあこの後なんてどうですか? 後日にして、またバッティングとかしちゃっても困るでしょ」


 今回のことで、後日一組整えないといけないんだし。


 計画はあくまでも計画なので、別店舗なら大丈夫とか思ってると思わぬところで遭遇したりする。


 大都会の街中でもないのだ。繁華街がそんなに広いというわけでもない。


「それもそだね。そうしよう。とりあえず、今日はフリータイムが終わるまで帰さないからね!」


 おっ、それはあれかい? 今夜は寝かさないぞ的なあれですか? 嬉しいねぇ。


「電話して、許可が出れば付き合うよ。あとお迎えも」


「む。それもそうだね。わたしもしとこ」


 世間一般では、女子高生ともなれば二十時過ぎぐらいの帰宅時間じゃいちいち親に報告したりはしないらしい。


 まぁだからと言って、別に私がしないって理由にもならないわけで。


 私は夜の予定が入れば、こうやって基本的には親に報告している。


 それで親が車で迎えに来てくれるなら、それに越したことはない。


 世の中何があるのかわからないのだから、双方が安心できる方法があるならそれを選べばいいだけで。


 まぁこういうことも、家の家族関係が良好だから言えるのかもしれないけれど。


「わたしの家はおっけーだって。車も出せるよ」


「あ、家も車までオッケーだってさ。どしよ。お迎えが被っちゃったね」


「んー、それじゃお母さんにハム一緒に持ってきてもらおうか?」


「それなら、うちの母さんと一緒にその場でお礼言ったほうがいいよ多分。あとでまたお礼の電話するのも二度手間だろうし」


 お土産持参で迎えまでされてしまったら、絶対後で母さんになんか色々言われるだろう。


 あんまり甘え過ぎも良くないのだ。だから私はどっちかを選ぶならハムを取る!


「そっか。じゃあそれで良ければお願いできる?」


「ほいほーい。佐藤さん家のハムって言えば、一も二もなく飛びついてくるから。だいじょーぶだよ」


 実際母さんも、あのハムには特に目がないのだ。


 というかあのハムを前にして平然としていられる者など、我が家にはいない。


「ん、わたしもお母さんにハム用意しておいてもらうように言っとくね」


 ああそれにしても。あのハムは一度食べたらまた食べたくなる美味しさで。


 サヤカめくそう。もう食べ慣れてますみたいな顔しおってからに。羨ましい!


 その日私達は存分に歌い上げ、帰りにはでっかいハムを頂いて帰路についた。


 ビバ! ハム生活! あ、その後の彼らの合コンも上手く行ったみたいです。


 あ、やっべ。合コンって言っちゃった。カラオケ会ね。カラオケ会。

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