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第五十六話 台風一過の後始末。被災者、俺

「さて。先輩に激励も貰ったところでタクヤ君、時間の方はいいのかな?」


 ほわーっと満足そうな顔してるタクヤ君に、腕時計で時間を示して聞いておく。


「あ、そうでした。もうそろそろ行かなくちゃ。お姉ちゃん、おまたせ」


「……ん。それじゃ」


 二人は頷きあうと、どちらともなく駅の方へと歩き出す。


「先生、また次の授業でー!」


「おーう。楽しんでこいよー」


 最後にタクヤ君に手を振れば、角を曲がって見えなくなった。


 ふぅ。やれやれ。やっと行った。局所的な台風に遭遇したような気分だわ。


「いやぁ、可愛かったねぇ。わたし、見えないはずの尻尾まで見えちゃったよ」


 先輩の方まで何か満足気な顔してるけど、それ一体何を堪能しちゃったのかな?


 いやそれ以上にユキコさんの表情がヤバイ。なんでこの人超ニヤニヤしてんの。


「サヤカ、すっごい懐かれてたね。あの子になんかしたのかな? まさかイタズ」


「ユキコ。それ以上言ったら、わかってるよね?」


「オーケーオーケー。口に出したら戦争。そうでしょ? 戦争は良くない。良くないよねぇ」


「その通りだよ。わかってくれて、何よりだね」


 ノーモア戦争ってやつですね。同意です。不毛な争いほどむなしいものはない。


 無駄にじゃれあってる二人の隣だと、沈黙のマユが目立つことこの上ない。


「…………」


 何かを言うわけでもなく、睨みつけるわけでもなく、ただ静かにそこに居る。


 ただそれだけなのに、なにか妙な気迫を保ってる。


 ねえその戦闘態勢、もういいんじゃね?


「それでユウ君、これマユちゃんどうしたの? ものすっごい仏頂面なんだけど」


 流石先輩。この状態のマユを一言で言い表わした。まさしくこれは仏頂面。


「んー。まぁ、不幸な事故というかタイミングが悪かったというか。そんなとこなんで、しばらくそっとしとけば回復すると思います」


 よりによって、こんな時に遭遇するとは全くもってツイていない。


 タクヤ君のお姉さんも、普段はあそこまで不躾ではないんだけどな。


 休憩時間とか、作ったお菓子持って遊びに来てくれたりもよくあるし。


 クッキーとかケーキとか、結構美味しく出来てるんだよね。料理とか素質ある。


 ま、どんな時も巡り合わせの悪い時ってあるからな。仕方ないっちゃ仕方ない。


「なんだかよくわからないけど、なんとなくでわかったよ。それじゃわたし達も、そろそろ行こっかね」


「ですね。先にお昼も食べておかないといけませんし」


 だから先輩の切り替えに、俺は喜んで乗っておく。次行きましょ、次。


「あー、もうそういう時間だよね。お昼はなにがいいのかなー? 私はあんまり重いものでなければ、なんでもだいたい大丈夫」


「……私も、軽い物の方がいいです」


「じゃあ、その辺のカフェでいい? わたしも今日は軽めでいいや」


 先輩が意見をまとめると、流れでそのまま全員が俺を見つめてくる。


「え、それでいいと思いますけど。俺、今なんで見られてんの?」


 女性三人に一斉にじっと見られるのって、思ったよりも圧がある。


 やられてみるとわかるけど、ウッて感じになるからね。


「いや、ユウ君なんかはやっぱり一杯食べたいんだろうなぁって思って」


「お腹、保つのかなって思って」


「そう言えばユウ君、デートの時はそれほど沢山は食べないよね」


「そりゃあ、デート中に彼氏のほうが引くほど食べてたら先輩が恥ずかしいでしょうよ。それぐらい俺だって考えるよ」


 この連中、俺のことを一体何だと思っているのだろうか。


 ユキコさんはまぁ、一般男子的なことで言ってくれてるんだろうけど。


 マユと先輩はダメだなこれ。俺を大食いキャラかなんかだと思ってやがる。


 俺だって、時と場合を考えて食べるわい。いつもあんなには食ってねぇ。


 美味しいご飯だとちょっと食べ過ぎちゃうだけで。そんなの別に、普通だろ?


「へぇ。ユウお兄ちゃん、そんな気づかいとかできたんだ」


 なんだそのふーんみたいな表情は。お兄ちゃんちょーっとカチンと来ましたよ?


「おうおうおう。直接ディスりにきましたねマユさんよ。その心を言ってみな」


 全部論破してやるからな! ほら遠慮しないでかかってきな!


「ユウお兄ちゃん、ラーメン特盛を並の私と同じ時間で食べきってたし」


「……事実だな。いやでもラーメンは仕方なくね? 言っても麺増えるだけだよ」


 倍速で食べ終わって速攻で替え玉頼むよりは、いいと思います!


「お好み焼きの食べ放題で、私の分の注文のフリしてどんどん焼いて食べてたし」


「お好み焼きは数食べてなんぼでしょ!? 一枚や二枚で終われるわけがねぇ!」


 食べ放題料金、千六百円もするんだよ!? 一枚二枚で終わってどうすんの!?


「それじゃ、バイキングレストランの話もした方がいいのかな? お皿に山ほ」


「いやもう十分。結構よ。マユさんよ、そんな特殊なお店じゃなくてだな。もうちょっとこう、普通のお店の話もしませんか?」


 ほら。それらって基本、量を食べても別におかしくないお店でしょ?


 普通のお店なら、普通のお店ならそういうこともないはずだから!


「じゃあ、普通のハンバーグレストランで大盛りライスを追」


「いやもうわかった! あいわかった! 俺が悪かったです! 負けました!」


 最後に言い訳できない奴来ちゃったなー。これはもう、どう考えても覆せない。


 もういやだ。マユ相手に勝てる気とかまったくしない! なんなのだ!


「最初からそう言えばいいんだよ。無駄に抵抗するから、無駄に傷を負うんだよ」


 マユさんよ。その勝利者のポーズはなんですか。一体どこで習ったの!?


「なあマユよ。いい加減機嫌とか治そうぜ。その分俺が血みどろで俺今超可哀想」


「可哀想、なのかなぁ……。だってこれ、事実なんでしょう?」


 ユキコさん? そこはもうちょっと俺に同情してくれても良くないですかね?


「うーん。まぁ、今のところわたしとはそういうのないから、いいんだけどね」


 ですよね。先輩とは普通にデートしてるもの。こんなことはしていない。


 過去の話はいいんです。なにせそれは過去のこと。今がそうでなけりゃ大丈夫!


「ふぅん。ユウお兄ちゃん、随分いい彼氏さんしてるみたいだね」


「はは……。おかげさまで? なんとか?」


 ねえマユさん。その口調とっても覚えがあるんです。


 よもや第二ラウンドじゃあるまいな? 勘弁してよマジでこれ。


「私は何にもしてないけどね? なにせ昨日初めて知りましたから」


「そう! その辺だよね、聞きたいの。とりあえず早くどっかに座ろうか」


 ユキコさーん? そういう割り込み方って、俺ちょっといい顔できないよ?


「いやそういう目的やめようよ。普通に食事とかしませんか?」


 普通にな。独りで静かで豊かにとまでは言わないからさ。


「もちろんご飯も食べるけど、そういうのもやっぱり聞いとかないと」


「いやいやいや。特になんにもないからね。ユキコさんに関係ある話とか、別にそれほどないでしょう」


「んー? サヤカとの仲取り持ったの、誰だっけ? ねえユウ君? 誰だっけ?」


 そういうさ、俺の名を言ってみろ系ってズルくない?

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