前日譚 Case.14 酔っぱらい
こちらは前日譚の追加となります。
前日譚は先輩彼女と後輩彼氏の二人劇になっております。
それでは、今回もよろしくお願いします!
「うーん……硬い……はえ?」
わたしが頬に何か硬いものを押し付けられて目覚めると、目の前で誰かがしゃがみ込んで、こちらの様子を伺っているのがぼんやりとわかった。
「やっと起きた……」
わたしは眠い目を指でこすると、まだあまりうまく動いてくれない視界のピントを目の前の人物に合わせる。
「……あれぇ? ユウ君? おはよう?」
わー、ユウ君だ。わたしの彼氏君で、わたしのだよ。
ふふ。朝の目覚めとともにユウ君の顔が見られると、寝起きのテンションが違うよね。
具体的には……よだれとか気になったりね。いちおうゴシゴシしとこ。
「全然まったくこれっぽっちも朝じゃねーです。ほら、起きて。さっさと帰りますよ」
わたしはこんなにも喜んでいるというのに、彼はまったくこれっぽっちも嬉しそうな様子を見せない。
彼はいつもそうなのだ。なかなかデレてくれない、ツンデレさんなのだ。
今もため息なんかついちゃったりしてるけど、ホントはわたしの寝顔が見れて嬉しいくせに。
すなおじゃないなぁ。ユウ君はまったく。ほんとにまったく。
うう……それにしても、なんか起こされたはいいけど、まだ猛烈に眠いよ……ねむい。
「そんなこといわれても……ねむいんだよ……ふが」
うつらうつらしていたら、鼻の頭を指で押し付けられた。
ユウ君、いたずらなら起きた後でやってあげるから……いまは寝かせて……。
「……次は水攻めをします。予告しましたからね」
またまた。おおげさな。ユウ君はたまにこうやってわざと物事を大げさにいうことがある。
わたしはだまされませんよ。やさしいやさしいユウ君は……そんなこと……。
「ふが!? もが!! んむー!!」
息が詰まって、一気に覚醒した。
何か布状の物を、鼻と口に押し付けられている。
わたしは呼吸を阻む布を全力で掴むと、それを押さえつけていた手とともに勢い良く振り払った。
「いった……。先輩、爪はやめてくださいよ爪は。普通に傷になりましたけど」
「!? ?? ユ、ユウ君? あれ? なんでここに?」
確かわたしは……仲間内でカラオケ大会をしていたはず?
女性グループだけの集まりだから、男性の彼がここに居るはずがない。
そもそもわたしが呼ばなければ、彼にはわたしがどこに居るかもわからないはずなのだ。
そしてわたしはカラオケ会場のことを彼に伝えていない。
直前まで全員で入れるカラオケ屋がわからなかったからなのだが、入った後も特に伝えたりはしていない。
「遅くなっても連絡の一つもなかったんで、先輩の携帯に連絡したんですよ。そしたらユキコさんが出てここを教えてくれたみたいな流れで」
わたしが頭に疑問符を浮かべてるのを察したのか、彼の方から何故ここに居るかの説明が入る。
「あ、ああー。そっか。わたし、潰れちゃってたのか。うう、それは申し訳ないことしたね。それで、ユキコは?」
ユウ君を呼んでくれるなんて、なんて憎いことをしてくれるのか。
ここは一言お礼くらいは言っておかないとね。GJだよユキコ!
「二次会だって、さっき他の人達と飲み行きましたよ。普通順番逆じゃね?」
「ああ、まぁ、今日はカラオケがメインだったからね。飲まない子もいるし」
そういう女子会もやらないこともないが、また別の日に行われる。
今日はたまたまカラオケメインだっただけだ。みんな歌いたいって話だったからね。
「ふぅん。まぁいいです。で、立てますか?」
と、言いながらユウ君が手を差し出してくれる。
なにこれ。エスコートですか。寝起きの血圧更に引き上げる気ですかこの人。
「ありがと。んー……、ちょっとふらふらするかも」
なんとなく視界がゆーらゆーらしている。まだお酒残ってるねこれ。
「とりあえずここを出ないといけないんですけど、歩けますかね? 無理そうなら捕まってくれてもいいんで」
えー、捕まえちゃっていいの? 一度捕まえたら逃さないよー?
「先輩? そういうことじゃなくて……正面から抱きついたら歩けないでしょうが。こら」
「わたし、ちょっと動けそうにないかもー」
「先輩、超棒読みですからね。今この状況でそういうの紛らわしいんで、ホントやめてください。平気ならほら歩いて。行きますよ」
ざんねん。わたしの抱きつきはそっと解かれてしまった。
「ちぇー。あれ、わたしが最後? 他の子は?」
そういや周りに誰もいない。わたしと同じように潰れちゃった子も居たはずなのに。
「帰る人と一緒にタクシーに押し込みました。今頃は適宜処理してくれてると思いますよ。で、それを見届け終わった他の人達は二次会へ」
あー、重ね重ね申し訳ない。でもこういう時、男の人が一人いるとぜんぜん違うなぁ。
「それじゃ、わたし達も帰ろうかー。ユウ君、おんぶ」
「そう言うのは店を出て、人気のない所まで移動してから言ってくださいね」
ユウ君は部屋の中を一通り見て回って、恐らく忘れ物がないかをチェックしている。
「人気のない場所って……。キミは一体わたしに何をしようって……あっ」
「おい今何を察した。それ違うから。誤解ですからね! その顔を赤らめるのをやめろォ!」
「まぁまぁ。とにかくまずは店を出ようか」
忘れ物は特に何も見つからなかったようなので、一緒に部屋を出る。
エレベーターは……こっちだったかな。
こういう風に同じ風景が続くとこだとあれどっちだっけってなるの、わたしだけなのかなぁ。
「だからさっきからそう言ってるのに……はぁ」
「ため息つくと幸せが逃げるよー。わたしが逃げちゃうよー」
そう言って二・三歩先行というか、ふらふらと前に出てみる。
大丈夫。壁があるから、手を付けば転ばないよ!
「エレベーター前でどうせ追いつくから」
「こらぁ! キミぃ、ノリ悪いよー」
「よっぱらいにいちいち付き合ってられませんからね。これが正しい対応です」
「正しいとかそうじゃないかじゃないんだよ。わたしが満足するかどうかだよ」
そしてわたしが満足してないのが、最大の問題だと思います!
「究極的に言うとみんなそうなりますよねぇ。飲酒怖ぇ」
「今はお酒の話は関係ないでしょう。キミは一体この不始末をどうしてくれるんですかね」
「エレベーター呼んであげますよ。ほら、ボタン押さないならそこどいて」
見ればわたし達はいつの間にかエレベーターのドア前に居た。
つまり、共用通路のど真ん中。いいこと思いついたー!
「いーやーでーすー。キミからキスしてくれるまでどいてなんてあげないからね」
「……頭痛くなってきた」
「おやおや。二日酔いするほど飲み過ぎたのかね。もうちょっと自分の限界見極めて飲みましょうねー」
「……段々腹立ってきた」
「それはたいへんだ。おなかなでなでしてあげようか? ほら、お腹出して」
わたしが調子に乗って彼にもたれかかるように体を寄せた、その瞬間。
ぐいっと引っ張られて、何かが口に押し付けられた。
「……少し、静かにしててくださいね」
「……はい。すみません……」
今までで一番、エレベーター待ちの時間を長く感じた。




