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前日譚 Case.11 メンテナンス

こちらは前日譚の追加となります。

前日譚は先輩彼女(サヤカ)後輩彼氏(ユウ)の二人劇になっております。


それでは、今回もよろしくお願いします!

「うわあああああああああああできねえええええーっ!」


 ベッドでうとうとしながら雑誌を眺めていたわたしは、突然の叫び声にビクッと体を跳ねさせた。


 声のした方を振り返ると、やはりというかそれ以外にはないのだが、ユウ君がなにやら騒いでいる。


 何をしていたのかは知らないが、どうやら失敗したらしい。


 頭を抱えて後ろにひっくり返ると、足をじたばたさせている。


 テーブルにはノートパソコンと、USBに繋がれた何かの機器が置かれている。


 またいつもの機械いじりだろうか。彼はたまにこうやって機械を弄っていることがある。


 本人に言わせるとそんな大それたことはしてないって言うのだが、隣で見てて何してるのかさっぱりわからないのなら、もうその辺の違いはわたしにはわからない。


 なんとなく凄いことをしてる。それしか言いようがない。


「なんだいなんだい。今の時間を考えてから悶えてくれたまえよ。わたしにはさんざん声抑えろって言うクセにさ」


「……先輩こそ時間帯考えて喋ってくださいよ。俺の作業をここで中断させる気ですか」


「だってわたし、キミがなにしてるのかなんて全然わかんないからね。今がキリがいいのか悪いのかもわかんないよ」


 わからないなら気にしなくても大丈夫!


 ダメならそう言ってくるし、ダメじゃないなら……もちろんそういうことになるだけの話だ。


「あー、だめですだめですよ。まだだ、まだやらせはせんよ!」


 ありゃ残念。


 彼は頭を振って再起動を図ると、体を起こしてまたもやノートパソコンに向き合ってしまった。


「やれやれ。ご立派なことで。それで今日は一体何をしてるのさ?」


 こうなったら悔し紛れに邪魔してやる。純然たる腹いせである。


「読書用リーダーのクラックですかねー。OFWがクッソ使いづらい上にもっさいので」


「……日本語でおk」


「ジョワ! ジョワワワ! ジョワ!」


「M78星雲語は今のセリフの前に言わなきゃダメな奴だよね、それ」


「簡単に言うと、使いやすいように中身のOSを入れ替えてるとこですよー」


「おお、私にもわかる奴が出てきた。OSって、窓7とか窓10とかそういうのだよね?」


 個人的には窓7の方が好きです。窓10は触らせてもらったけど、操作がよくわからなかった。


「そうですそうです。こないだからしきりに窓7から窓10に変えろってうるさいでしょ。ああいうのを自分でやってるんですよ」


「へー。中身のOS変えるなんて自分でできるんだ」


「いや、普通はできないですよ」


「……え? 今キミ、できるって言ったじゃない」


 騙したの!? わたしを弄んだのね!? 許さない!!


「まぁ、俺がやってるのはちょっと普通じゃないんで。普通には出来ないってことです」


「普通じゃない……? 悪い事してるってこと?」


 これは大変だ。早く通報しましたってやらないと。あ、携帯テーブルの上だ。


「人聞き悪いですね。別に法に触れることはしてませんよ。ただ失敗したら、そのままぶっ壊れるってだけです」


「……確かにそれは、普通じゃないね」


 つまりこの人はこの機械がぶっ壊れてもいいと思いながら作業してるってことになるのだろうか。


 私の記憶が確かなら、この機械は確か春に買ったばかりだと以前彼が言ってたような気がする。


 古くなったとか要らなくなったから使い潰すともまた事情が違うようで、わたしには彼の意図がさっぱりわからない。


「まぁ、失敗しなきゃいいんですよ失敗しなきゃ。よほどのヘマでもしないかぎりは復旧手段用意してますから。大丈夫ですよ」


「何この当たらなければどうということはない理論。キミ、いつから赤い人になったんだい? サングラスは?」


 百均で買ってきてあげようか? 君を笑いにきたって言ってみなよほら。


「なんで深夜の部屋の中でサングラスしなきゃいけないんですか。何も見えなくなっちゃうでしょうが」


「でも、歴代のグラサンキャラズは夜でも室内でも艦内でも頑なにサングラス外さないよ?」


 外したら正体バレちゃうからね。こらこらそこ、バレバレとか言わない。彼らは本気なんだよ!?


「そこにサラッと艦内含めるのやめましょうよ。俺、戦艦とか乗ったことないよ」


「あ、わたし駆逐艦なら乗ったことあるよ! 横鎮で!」


 もちろんカレーも食べました。むしろカレー目当てで行きましたとも。


「うるさいだまれこの女提督め。横鎮言うな。くそっ! 俺も現地には行ったのに……!」


「へへーん。去年のあれは凄い来場者数だったからね。早朝には着いてないと。本気度が足りないんだよ本気度が」


 彼は着くなり目にしたあまりの行列っぷりに、早々に諦めて帰ってしまったらしい。


 確かにすんごいことになってたからね。あれの最後尾に並べとか、帰りたくなる気持ちもわかる。


 まぁ並んでる最中の後方なんてさっぱりわからないから、後でわたしもニュースを見て知ったわけだけど。


「でもなぁ。俺一人で行ったわけじゃないから、そうそう始発で突撃とかもできなくて」


 それで泣く泣く諦めたらしい。さもありなん。


 まぁ、あのまま並んだところで時間切れで何も出来なかっただろうし、英断とも言えるのだろうか。


「あー、でもあるよねそういうの。わたし一人ならここでささーっと行ってきちゃうのになぁとか、よく思うもの」


 はい、これがコミュ症の思考方法です。ってうるさいよ。


「ですねぇ。一人は確かに身軽ですからね。その分待機時間とかが凄く寂しいことになりますけど」


 はい、これがリア充の思考方法です。常に誰かといる前提ですね! うらやましいね!


 もう、ここテストに出しますよ! このリア充どもめ!


「その辺良し悪しだよねぇ。夏の祭典とか一人で始発列並ぶとか絶対無理。やってる人とかメンタル強すぎない?」


 あれじゃトイレもおちおち行けやしないよ。愚痴言う相手も居ないしさ。


 だからわたしはいつも乗り換え駅の喫茶店で友人を待って、待機列が解消したぐらいに会場へ向かうという適当参加で済ませている。


 わたし自身は特に絶対欲しいってものもないし、お祭り騒ぎのお付き合い参加タイプとでも言うのだろうか。


 今までそれで困ったことは特にない。ファンネルにされないかぎりはね!


「あれは修行だから。苦行の一種。なにせ誰にも強制されてなくてあれなんだから。もう完全に修行と言う他ないですよ」


「修行……でもあの中に絶対に修行が本職の人も含まれてるんだよね。少なくとも一人は居るのは確か。知ってる人が行ってるし」


 もっとも、普通の格好してたら誰もわかんないだろうけどね。


「まぁ趣味は人それぞれですからね。誰にも迷惑かけてないなら口を出すことじゃないし出しちゃいけない」


「それは確かに。で、話戻すけどぶっ壊れたのかい?」


「? 何がです?」


 彼はきょとんとした顔でベッドの上のわたしを見上げてくる。


 なにこれ。あざと狙ってんの? ちょっと育ち過ぎですねー。


 やるなら五年前ぐらいまでにしてくれないと。


 ……五年前の彼という、ありえなかったifを一瞬想像して動揺してしまったのは秘密だ。


「だから、その端末。失敗したらぶっ壊れるんでしょう?」


 本当に物騒な話だ。ぶっ壊れるぶっ壊れるって。わたしの心臓が今ぶっ壊れそうだよ!


「そうですね。失敗したらぶっ壊れます。情け容赦なく使い物にならなくなります」


「恐ろしすぎる。で、さっき失敗してたんじゃないの? 騒いでたでしょ」


 こんな夜中にわーわーと。近所迷惑も甚だしいですねまったく。


「ああ、あれは上手く行かなかっただけで、そもそも実行できてないので壊れようもない段階ですよ」


「ふーん? まぁとにかく、壊れてはいないんだね? それはよかったね」


 ほんとよかった。おかげでわたしもやっと落ち着いてきたよ。ふう。


「どもですどもです。まぁ壊れるというなら、むしろこれが動いた時になりますね。そこで失敗すると全部おじゃんです」


 そう言うと彼はノートパソコンに手を置いて、いつの間にか止まっていたやりかけの作業を再開しだす。


「おじゃんなんだ」


「おじゃんです。一万六千八百円に羽が生えて飛んでいきます」


「意外と高額商品だった!?」


 携帯ゲーム機ぐらいするよねそれ。他にはえーと、日経平均ぐらい? ってそれで何がわかるんだよわたし!!


「まぁ、新品で買うとそれぐらいしますかねー。中古が出まわるようなものでもないんで、俺は新品で買いましたけど」


 話しながらも彼の目は画面から離れない。と、彼の手が止まった。


 何やらこまごまとした修正を加えていたのが、どうやら実行段階までこぎつけたようだ。


 USBケーブルを刺してあった機器を一度取り外して、すぐに付け直す。


「キミはそんな高額なものぶっ壊す気で触ってたのかい? 恐ろしすぎるよ」


「まぁ、ぶっ壊れるって言っても最悪のパターンですから。なにか失敗しても、ぶっ壊れるよりはマシな結果で終わることがほとんどですよ。まぁ見ててください。これで多分行けるはず……」


 彼は画面上の実行ボタンを押すと、手元にある機器の画面をじっと注視する。


 何かの進行状況がずらーっと画面に並んで、ぷつりと消える。


 画面は真っ暗。しばらく無言の時間が過ぎていく。


「……ユウ君?」


「そんな心配しなくても、今は再起動中なだけですよ。あせらないあせらない」


 くっ! 余裕の笑みで諭されてしまった。作業工程わかんないんだからしょうがないでしょ!


「お、立ち上がってきた。どれどれ……」


 と、言って機器を操作しだした彼の手が止まる。


 ははぁ。これはいわゆる天丼ってやつだね?


 ここでわたしがもう一度心配すると、さっきの再現としてすかさずユウ君が突っ込むってやつだ。


 わたしはお笑いには詳しいのだよ。わたしを出し抜くには三年早かったねキミぃ!


「……で、どうだね。成功したのかい? もちろん成功だよね? あんなに自信満々だったんだし。成功以外ありえないよね」


 さあ、ドヤ顔するがいい。天丼は潰してやったぞ! ここは痛み分けで行こうじゃないか。


「……しっぱい、しました」


 う、うん。あれ? なんで失敗してんの? もしかして言霊っちゃった?


 ……誰だね。天丼とか言いだしたのは。責任取りなさいよ責任! でも何の責任取ればいいんだろ?


「……一万六千八百円は?」


 まず真っ先に気になったことを、恐る恐る聞いてみる。


「それは無事でむしろそっちは成功しました……」


 無事だったよ! 一万六千八百円は無事でした! じゃあ失敗ってなんなの。


「成功した? じゃあ、何が失敗だったんだい?」


「中身がね……全部……パァに……」


 ……ああ。携帯を初期化したら写真データが全部消えちゃったとか、そういうことね。


「ご愁傷さまです……」


「もうだめだ……おしまいだぁ……」


 憔悴という文字を映像化したら、多分こんな感じになると思う。


 彼は肩をがっくりと落として、その目はどこでもない空間をほんやり眺めている。


 わかる。わかるよ。データ消えちゃったら、壊れたのとなんにも変わんないからね。


 あれ? でも、なんか引っかかるような……。


「……キミ、バックアップしてあるから大丈夫とか言ってなかった? 残ってないの?」


「!?」


 わたしの一声に、彼は猛然と顔を上げるとわたしを凝視する。


 え、なに、ちょっと怖いんだけど!?


 と、頭に軽くない衝撃。


 一瞬の後、天井が見えることからどうやら後頭部を布団に叩きつけられたらしいということがわかる。


 まぁ、叩きつけられたと言っても布団だから別に痛くはないのだが、ちょっと頭がくらくらする。


「いたた……いきなりなにする」


「先輩っ! だから好き!!!!」


「!? ……!?」


 !? !!!!





 なんだか知らないが、気づいたら窓から朝日が覗いていた。

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