第八十三話 カーチェイス物のお約束 それは
「仕上げって……どうすんだ? まさか体当たりで止めるとか言わないだろうな」
このおねーさんの場合、それあるぅ! って言い出しそうで怖い。やめて。
「んー。それもいいかもねぇ。でも流石に、毎回それやってたら追跡車両がなくなっちゃうよ。もうちょっと、スマートに止めるからね。まぁ見てて」
やっぱあるんじゃないですかやだー。
「スマート……。スマートとは一体……」
とりあえず、首都高を180km/hでぶっ飛ばすのはスマートなのかどうかから話し合おう。
「お、来たみたいだよ。先輩、お疲れさまですー」
ん? 来た? って何が? あ、同僚さんか何かですかね。
ってか待って? 今我々180km/hで飛ばして犯人車両に追いついたよね?
じゃあこの同僚車両は一体……? いや、よそう。深く考えるのはやめよう。
『おう、無茶なことしてねぇだろうな! いつも通りランプ手前で挟み込むぞ!』
「してませんよー。失礼だなー。挟み込み了解でーす」
もしもし。先輩さんに物凄い心配されてますよ、おねーさん。
やっぱり、普段からこんなことばっかりしてるんですね!
「挟み込み? 無茶な運転とかめっちゃしてるからね。めっちゃ。今も」
「気のせい気のせい。気のせいだから先輩には報告とかしなくていいからね?」
まぁ、確かにすっ飛ばしていただけで無茶なこと自体はまだしていない。
まだと区切らざるをえないのは、このおねーさんがこの後何をするのか皆目見当もつかない人だからだということに起因する。
「よし、君そこのスイッチ押してパトランプ出してくれるかな? はいそこの黄色い車、路肩に寄せて停止しなさーい。従わない場合、強制的に停止させますよー」
おねーさんはもう一回同じ警告を繰り返すも、犯人車両からの反応はなし。
てか、これぽちっとなでパトランプが出るとか。わかってるね! これだよね!
パトランプ自体は屋根ににゅっと突き出してるみたいで、中から見えないのだけが残念だ。
先行する覆面パトカーの屋根ににゅっと突き出してるあれが、この車の屋根にもあるのだろう。
周囲の防音壁がパトランプの光を反射していてなかなか綺麗。
「……てか止まる気配、まったくないなーこれ」
犯人車両は相変わらず先行車を避けて、快調に飛ばしている。
今は同僚車両が牽制して、上手く逃げるのを邪魔してくれてるみたいだ。
「まぁね。ここで止まるようならそもそも逃げたりしないからね。こっちとしてもその方が面白いし! 先輩、それじゃ打ち合わせ通りで!」
面白いって。面白いって言っちゃったよこの婦警さん。ねえ、仕事して!?
『おーう。まずは一般車両から処理だからな! 本部からの停止信号を待てよ!』
「わかってます。わかってますって。本部、追跡03。周辺車両への強制停止信号の送信許可願います」
『本部了解。……追跡03、強制停止信号の使用を許可。送信後の接触に注意』
「ふん。そんなヘマしませんよーだ。君、そこのスイッチ押してくれるかな?」
おねーさんが交信を切ってそう言うと、青く光るスイッチがコンソールパネルに現れた。
ちなみに、さっきのパトライトのボタンは赤だった。使い分けが細かいね!
「この光ってるのか。……ぽちっとな。お? ……お、おお! こ、これは!」
すごい! 一般車両が一斉にスローダウンして路肩に車体を寄せていく。
今ので強制的に自動操縦に切り替わったのかな? へー、これはいいね。
救急車とか消防車とかの緊急車両が通る時とかにも便利そう。
あれ? でもそうすると犯人車両も自動操縦で停止させられたのかな?
そう思って黄色いスポーツカーを探すと、さっきと変わらず元気に逃走中。
どうやら、信号をドライバーが無視して運転することも出来るみたいだな。
まぁね。最終的に現場で安全を確保するのは、ドライバーの役目だからね。
自動操縦だけに命預けるのはやはりまだ怖い。それも慣れだとは思うけど。
「さー、下準備も終わったし。追い込むよー。先輩、それじゃいつも通り」
そんな気楽に……。追い込み漁か!
『了解。鼻っ先にねじ込む! ついてこい!』
「いえっさー!」
言うが早いか、先行していた覆面パトカーが猛加速で追跡車両の前に出る。
パワーあるなー。こっから更にあの加速って。税金でチューンですか!?
「おーおー。先輩飛ばすねぇ。私もまぜてー」
と、おねーさんも負けじと猛加速。追跡車両の真横につける。
……俺のすぐ隣に犯人が居るわけです。ええ。すっげぇ形相でこっち見てるよ!
「……挟むってこういうことか。で、この後どうすんだろ?」
「どうするって、そりゃこうするよー」
『このクソ野郎! 喰らいやがれ!!』
二人して、完璧にタイミング合わせた大減速。
その前に聞こえた無線は聞かなかったことにしておこう。
警察官も、警察官である前に人だよね! だから仕方ない。うん。
てか、前に出た方のリアバンパーガンガンぶつけられてるけど大丈夫?
「ほーい。それじゃ仕上げ、いっきまーす!」
「え、なに、まさか……やめ!」
ゴッ! という音に、俺は信じられないものを見てしまった。
隣の車が大きく挙動を乱している。まるで隣からぶつけられたように。
てか、今この人絶対ぶつけたよね!?
誰だよ!? そんな事しないって言ってたの!!
思いっきり、体当りして止めてんじゃねーか!!
「はーい。どんどんいくよー」
僅かに車体を右に寄せ……左にって怖い怖い怖い怖い!!
「うおおおおおおおおおおおお!!」
今度はガッシャン! っと大きな音がする。ボディは確実に凹んだはずだ。
「ほれもういっちょー」
再びガッシャン! という大きな音。ねぇ、犯人君もう諦めよう!?
このままじゃ俺がヤバイ! ぶつける度に俺が怖い思いしてんですけど!!
てかせめてやるなら右側からやれよ!! 何で左側ぶつけてんだこの人は!!
『ランプが見えてきたぞ。次で決めろよ!』
「りょうかいでーす。じゃあ、ちょっと大きく振りかぶりますかね」
いやいやいやそんな投手みたいなこと言ってないで、今おねーさん車運転中!!
「やめ……あああああああ」
最後ひときわ大きく横からぶつけられた犯人車両は、首都高出口の脇道へとはじき出されて消えていった。




