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忘れえぬ絆  作者: rourou
第二章 もう一人の魔王
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05話 依頼

 グレイスは学者なだけあり、またこの国について調べていることもあって、詳しかった。

 ケイス達は焚き火を囲んで、昼食を取りつつも、興味本位でこの国に着いて問いかけると、長々と説明が始まってしまった。


「――そうです。この国の王は、普通の人間だったのですよ!」


 グレイスは一人立ち上がり、拳を握って力説している。

 ケイスは藪蛇を突いたと後悔し、セラはグレイスから顔を逸らして虚空を見つめている。

 しかし、グレイスは止まらない。


「しかし彼は力があった!そして志もあった!だから彼は心に決めたのです!その力を、皆のために使おうと!」


 オーバーアクション気味に拳に力を込めている。


「不当に襲われる人々を!不当な重税に苦しむ人々を!行き場を無くした人々を!そんな彼等を救うために、彼の王は走り回った!」


 バッ!と両手を開いて空を見上げる。

 トリップしたヤバイ目だ、とケイスは他人事に思った。


「そうして彼の元に人が集まり、出来たのが、この国なのです!」


 「どうですか?!」とグレイスが視線を飛ばしてくる。

 ケイスはそれを受けて軽く仰け反り、おざなりに拍手した。

 セラは「馬鹿じゃないの?」と言う目で、グレイスとケイスを見ている。

 完全に外野からの視線になっていた。


 グレイスはケイスからの拍手を受け、体全体を使って、大きく頷いた。


「彼は王になっても変わらなかった!人の為、民の為!益を得んと襲い来る国々と戦い、そして勝ち続けた!守り続けた!」


 興奮のあまりに、顔が真っ赤になっている。

 そのまま倒れるんじゃないかな、とケイスは思った程だ。


 残念ながら倒れなかった。


「そして国は繁栄した!並ぶ国も無くなり、かつては敵だった民草すらも受け入れ、彼等を平等に扱ったのです!――無論軋轢もあったでしょう!しかし、それらを乗り越えて行ったのです!」


 完全に入った感じで、目を閉じて「くぅ~~っ!!」と余韻に浸っている。

 ケイスは頭を掻きながら、「あー」と声をあげる。

 そしてグレイスが視線を向けてくるのを待って、疑問を問いかけた。


「じゃあ、なんで滅びたんっすかね?」


 聞いている限り、滅びる要因が無い。

 良いことづくめではないかと思うのだが、実際に滅びてしまっているのだ。


 するとグレイスは沈痛に俯いた。


「……悲しいことですよ。悲しいことが起きたのです」


 ケイスは何も言わずに続きを待った。

 セラもそっちの話題は気になるらしく、耳がぴくりと反応していた。


「確かに国は繁栄しました。内乱も無く、落ち着きました。敵も無く、ただ穏やかな時が来る。彼の王はそう思い、ようやく肩の荷を降ろしたのです」


「ほお」


 ケイスは軽く目を見張った。

 王だった者が肩の荷を降ろしたとなると、それはきっと。


 グレイスはケイスの顔を見て頷いた。


「そうです。彼は王では無くなった。信頼できる、共に戦った同志たちに国を任せ、自らは民草の一人となったのです」


「そいつは……」


 立派なことだな、とケイスは思う。

 きっとその王は自分の役割を理解していたのだろう。自分には力があり、戦う必要が無くなったのならば、自分はもう必要はないと。そう考えたのではなかろうか。


 グレイスはケイスの顔を見て微笑む。


「初めは問題ありませんでした。――しかし。しかし、です。権力は人を腐らせるのです」


 しかし、その顔は再び沈痛に歪められた。


「……」


 ケイスも眉を顰めた。どういう話になるのか、何故国は滅んだのか。だいたい想像が出来てしまったから。


「かつて王と共に理想を追い求めたうちの一人。その男が権力に溺れたのです。そして友情を誓い合った仲間を潰し、殺し続けました」


 ケイスは口を一文字にした。想像できていても、気持ちのいい話ではない。


「そうして最後の一人になっても、彼は安心できませんでした」


 グレイスが首を横に振る。

 少し考えたケイスは、はたと気づいて顔を歪めた。


「ああ……」


 何故安心できなかったのか。その理由は簡単に想像できた。

 ケイスの苦渋の顔を見て、グレイスは力無く微笑んだ。どこか空虚な笑みだった。


「そうです。初めの王。彼が居たから。民草の一人となり、既に国政にかかわっていない彼を恐れたのです。その力を、人望を。……彼は初めの王を、どうしたと思います?」


 グレイスの問いに、ケイスは首を傾げながら答える。


「暗殺、とか?」


 それがまず真っ先に思いつくことだ。既に仲間達を殺した者ならば、そうすることにためらいなど持たないだろうと。

 果たしてグレイスは頷いた。


「それも考えたでしょう。――ですが初めの王は、強すぎた。そして、人望があり過ぎた。そこで彼は考えたのでしょう」


 グレイスは遠い目をして、崩れ去った王宮を見つめる。


「人望を、無くしてやればよいと。王の死を、民に願わせればよいと。人のために戦ってきた王を、王が守っていた人に殺させようとしたのです」


 ケイスは顔を険しくして、舌打ちを鳴らした。


「そして、それは成功しました。初めの王は民に捕えられた。――彼は抵抗しなかったようです」


 その時、その王は何を想っていたのだろうか。信じて任せた仲間に裏切られ、守った人たちに裏切られて。

 ケイスには分からないが、きっと自分と似たような気持ちを味わったのではないだろうか。

 そう思い、ケイスは俯いた。

 直後に、ケイスは視線を感じた。

 ちらりと横を見ると、セラが気づかわしげな視線をこちらに向けて来ていた。

 ケイスはセラに向け、「大丈夫だ」と軽く首を振って、グレイスに視線を戻す。


「そして処刑も間近に迫った時。王は牢の中で自害していたそうです」


 ケイスは何も言わずに続きを待った。

 ただ、歯を食いしばったせいで、ギシリと小さな音が鳴った。


「彼は安心した。これで自分の敵になる者はいなくなった。後は自分が好きにやるだけだ。――その筈だった。その直後です。その国は『何か』に襲撃されました」


 ケイスは眉を顰めた。セラも同様だった。


「『何か』?」


 ケイスが問うと、グレイスはまた頷く。


「そう。『何か』です。それが何かは分かりません。ただ、それにより、国は一夜にして滅びました」


 ケイスは呆気にとられた。

 話しが急に飛んでしまって、ついていけなくなったのだ。

 一晩で国を滅ぼすほどのものが、果たして存在しうるのだろうか。

 そう考えたが、ケイスはふと気づいた。


 自分ならば、可能だろうと。勇者みたいな化け物が居なければ、一晩あれば可能だろう。

 実際にフレイシアは、幾つも小国を滅ぼしたと聞く。聞いただけで、ケイスの記憶にはないが。


 何ともいえない顔で唸るケイスが何を想っているのか判断したのだろうか、グレイスは言う。


「私はね、それを調べに来たのですよ。王の怨念、だとか言われたりしていますがね」


 話しはそこで一旦途切れた。

 怨念。そんなものがあるならば、フレイシアが大暴れしていたのではないだろうか。もしくは王は死を偽装して居たとか。ケイスは推測を並べ始めた。

 何ともいえない空気が流れる中で、グレイスは言う。


「それで、ですね」


 考えに没頭していたケイスは反射的にグレイスを見る。

 そこにはグレイスの困った笑みがあった。


「その、お二人はお強いのでしょう?」


 グレイスが言いたいことは分かった。

 だからケイスは一度頷き、


「……俺は正直、あまり。こっちは滅茶苦茶強いですけど」


 客観的に見た、正当な実力を告げる。魔法の使えない今のケイスは、お世辞にも強いとは言えない。

 対人で、接近戦に限ればそこそこには行けるだろうが。

 一方セラは文字通りに万能だ。


 グレイスは「ほう」と呟きセラを見るが、セラは鉄の無表情で視線を跳ね返した。

 それでもグレイスは怯むことなく、ケイスに視線を戻す。


「護衛を、お願いしたのですよ。この通り一人になってしまったので」


 情けない顔で言って来る。


「……」


 正直、見捨てるのは忍びない。面白い話を聞かせてもらったと言う想いもある。

 だがしかし、ケイス一人で決める訳にはいかないのだ。そう、セラに全てを任せている状況なのだから。

 ケイスはちらりとセラを見た。

 それを受けたセラは、「好きにしなさい」と言わんばかりに肩を竦めた。


 グレイスはそれを見て、多少慌てた様子で告げて来た。


「勿論報酬は正規の分をお払いします。いえ、元は五人雇っていたのです。お二人で五人分。それで如何でしょうか?」


 ケイスは内心では受けるつもりでいた。

 セラの国に行く前にどこかに立ち寄り、自分のテントを買う必要があるのだから。

 金も持っていることは持っているが、使える金は多いにこしたことは無い。その分、豪華な食事が出来るようになるのだから。


 しかし、その前にどうしても聞いておかなければならないことがある。


「……護衛ってのは、何で逃げたんですかね?」


 この問題だ。五人居て、それが全員逃げ出したとなると、余程のことがあったに違いないのだ。

 流石に危険なことにセラを巻き込みたくはない。

 セラにしても、魔法が使えない今のケイスを危険な場所に送り込むことは断固として反対したい。だから、セラもグレイスを見た。


 二人の視線を受けたグレイスは、崩れた建造物に視線を向けた。

 ケイス達もその視線を追った。元はかなりの大きさだったと推測できる。


「あそこは、元は王宮があった所なんですがね」


 「へえ」と、ケイスが呟いた。

 なるほど確かに崩れているが、よくよく見れば他よりも造りがしっかりしているように見える。

 場所によっては、原型をとどめて居る所すらある。元々頑丈だったことに加えて、植物が支えているのだろうか。


「その地下に、『王』が最後を迎えたと言う場所があるのです。そこに行こうとしたのですが……」


 グレイスは渋面を浮かべて頭を掻いた。

 ケイスが視線で先を促すと、


「『何か』が居ました」


「………………」


 ケイスとセラが半眼となった。

 グレイスはハッ!?と気付いて、慌てて手を振って否定した。


「いえ!先ほどのお話のとは違うと思いますよ!?その、一言で言えば鎧なのですが、それが動いて襲ってくるのですよ!ええ、護衛の方々が魔法を使ったのですが全く問題にせず襲って来まして。……ただ奇妙なことに、ある一定以上は追いかけて来ないんですよ。まるで、壁でもあるみたいに……。ええ、護衛達が逃げた後に調べてみたんですけどね。しかしそれが、ちょうど私が調べたい場所でしてね……」


 護衛達が我先に逃げる中でそれ気付き、一人引き返したのだろうか。

 大したクソ度胸だ、とケイスは呆れかえった。


 しかし、鎧が動いて襲って来るとは。どこぞのおとぎ話でもあるまいし。そうは思うが、グレイスが嘘ついている様には見えない。


「つまり、それの相手、ということっすかね」


 魔法が効かないとなると、余程頑丈なのだろうか。

 少なくとも、その時点でケイスが勝てる相手ではないと言うことが確定した。

 魔法が使えるならともかく、今は剣を振ることくらいしかできないのだから。


「そうです。勿論命を懸けて、などとは申しません。逃げるは容易いですし、一度試して頂いて、無理なら無理で一度帰ろうかな、と……」


 グレイスが拝む様に頼み込んで来るのを見て、ケイスはセラに視線を送った。

 「試してもらってもいいか?」と視線で問うと、セラは溜め息を一つ零した後頷いた。

 ケイスはそれに軽く頭を下げることで感謝を伝えて、グレイスに告げた。


「試してみますか。無理ならすぐ逃げますからね」


 契約主として言葉を正して。

 グレイスの顔が一気に明るくなった。


「おお!有難い!」


 腕を掴まれてぶんぶんと振られながら、ケイスは思う。

 無理なら逃げればいいだろうが、もしもセラで無理なら勝てる奴なんていないのではないだろうか、と。

次も一時間後

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