04話 跡地
書けました
ケイスの眼前に広がるのは、崩れた建造物の数々だった。
その大半は崩れ、森に侵食されているはいえ、それは広大な敷地だったことが伺える。
「これは……。国、か?」
ケイスは呆然と呟いた。
セラはそれを聞きつけて頷いた。
「跡地、ね。すっかり森に呑まれちゃってるでしょう?」
ケイスは元は建造物だったのだろう岩垣に近づき、触ってみた。
しっかりと組まれていたのだろう、年月による劣化は見えるが、根元から崩れ去るほどではなかった。
「いつくらいのだ……?」
セラは顔を持ち上げ、少し悩んだ。
「そうね。確か、千年前くらい、だったかしら」
余り自信が無さそうだ。
そこでふとケイスは気づいた。と言うか、考えないようしていたことだが。
セラの年齢は幾つなのだろうか、ということだ。
エルフの寿命は長い。とにかく長い。
もしかすると、セラはこの国が存在していたころから存命しているのではないだろうか?
「…………」
ケイスはちらりとセラを見つめた。
すると、セラから刺すような視線が送られてきていた。
「聞いた話よ?」
思考がばれたのだろうか、非常に不機嫌な声だった。
「あ、ああ」
触らぬ神に祟りなし、とばかりに、ケイスはセラから目を逸らした。
その横顔に、セラの視線が突き刺さる。
ケイスは冷や汗を流しながらも、気付かぬふりを続けた。
やがてセラは溜め息を吐いた。
「ほら、行きましょう」
「ああ」
許してもらえたのだと、ケイスは安堵の息を吐いて、歩き出したセラの後に続く。
そして二人して周囲を見回しながら、国跡のど真ん中を歩いた。
「こうしてみると、結構小さいわね」
セラの呟きに、ケイスは苦笑した。
「あそこに比べりゃあな」
ケイス達の居た国は広い。
徒歩なら横断するのに数日は必要になるだろう。
それに比べればこの国は確かに随分小さいが、それでも国と呼ぶにふさわしい大きさだ。
「確かにそうねぇ。何であんなに人間が居たのかしら?」
セラは比較対象が間違っていると理解して納得した。
しかし、直後に首を傾げた。
ケイスは肩を竦めた。
「繁栄って奴だろ。んで、このお国はどんな感じだったんだ?」
千年前と比べると、設備やらなにやらが大きく違うはずだ。
今しか知らないケイスにはそうとしか言いようがないが、逆に過去を知っていそうなセラに質問を返した。
セラは「そうねえ」と呟き、少し考えた後に告げる。
「確か、当時では普通くらいの大きさだったはずよ」
「へえ」
ケイスは相槌を打ち、周囲を見渡した。
なるほど、これが普通ならば、やはり今は随分発展しているといえよう、と一人納得する。
「でも国を治めていた王が強くて、とっても繁栄していたとか。連戦連勝だったって」
それを聞いて、ケイスは首を傾げた。
「……なんで滅びたんだ?」
繁栄していて連戦連勝。それならば、滅びるはずもあるまい。
ケイスはこんなところに国があることすら知らなかったのだ。
繁栄していたと言うのならば、学園で習っていてもおかしくは無いはずだ。
「知らないわ。うちに着いたら聞いてみればいいわ」
しかし、セラも答えは持っていなかった。
お手上げだと言わんばかりに手を持ち上げ、ひらひらと振る。
「生き証人がいるのか。……ちなみに何歳だ?」
やはりエルフの寿命はとんでもない。ケイスはそう考えながら問いかけた。
「さあ?」
しかし、セラはまたしても答えを持っていなかった。
「さあって……」
ケイスは呆れた顔を浮かべて、セラの後ろ姿を見つめた。
セラはちらりと振り返り、肩を竦めた後、気楽に呟いた。
「数えるのも面倒になるんだってさ。でも千は越してることは間違いないわね」
スケールが違いすぎる。
「まあ、そりゃな」
この国を知っているとなると、確かに千歳は越しているのだろうが……。
ケイスが呆気にとられていると、セラは立ち止まった。
「お?」と呟きながらケイスも立ち止まると、セラは振り向いた。
「ちなみにですけどね。私はまだ18歳よ?」
「……そうかい」
やっぱりと言うべきか、思考がばれていたらしい。
内心で舌を巻くと同時に、ケイスは安堵した。
ケイスはまだ17歳。歳の差は、一つだけだ。不自然な年齢差ではない。
セラは、ケイスのその安堵すら読み取ったのだろう。笑みを浮かべた。
「何歳だと思ってた?」
ただし、目は全く笑っていない。
「…………」
ケイスはゆっくりとセラから目を逸らした。
またしても、その横顔に視線が突き刺さる。
今度は、気付かぬふりなど許されなかった。
ケイスが素直に白状して謝り倒しても、セラにねちねち弄られた。
ひたすら謝り続け、それでも歩き続けていると。
「――」
ぴたりと、セラが立ち止まった。
「セラ?」
俯き、情けない顔でひたすらにセラの口撃に耐えていたケイスも立ち止まり、顔をあげた。
その顔は先ほどまでの情けない顔から一転して、引き締まった顔だ。
「何があった?」と視線で問いかけると、セラはしばらく虚空を見つめた後、首を傾げた。
「……人?」
「何だって?」
ケイスは一瞬追手でも来たのかと慌てかけたが、未だに呪いの様に発動し続ける魔法を思い出した。
慌てる必要はない。
そう判断して、セラの続きの言葉を待つ。
「人が居るわ。でも……」
「うーん」と悩むそぶりを見せるセラに問いかける。
「でも?」
セラは虚空からこちらに視線を移した。
「一人で、丸腰よ。自殺志願者かしら?」
ケイスは呆れた。
セラが居るからこそ、ケイス達は十日やそこらでここまで来ているのだ。
普通に来るならば、軽く見積もってもその三倍は必要となるだろう。
そんなところに、丸腰で、一人で?
この森の深さでは、ここら辺はもう、野生の獣の楽園と言っても差支えないだろうに。
ケイスは顔をしかめて、頭を掻いた。
「……見に行こうぜ」
ケイスはやさぐれてはいるが、結局のところ善人なのだろう。
その命知らずの馬鹿に警告でもしておこうかと考えた。
セラはそれを見て多少複雑な気持ちになった。
セラは人間に良い感情を持っていない。先日のことがあってからは、なおさら嫌いになった。そして一番の被害者とも言えるケイスが、わざわざ人間を心配した行動を取ろうとしている。セラとしては放っておけばいいと思うが……。
でも、これが自分の愛するケイスなのだ。
「……こっちよ」
惚れた弱みだわ、と考えながら、セラは先導した。
少し歩くと、確かに人を発見した。
一番大きな建物。その残骸の前に、大荷物を前に座り込んでいる青年が一人。
多少動きやすい恰好に身を包んではいるが、それはどう見ても、
「学者か?」
武器など携帯していないことは一目瞭然だった。
「さあ」
セラは早速冷たい無表情を顔に張り付けている。
後は任せた、と言わんばかりに、ケイスに先頭を譲る。
少し接近すると、青年は顔は振り向いた。
その顔を見て、ケイスは軽く目を見張った。
随分若そうだ。とはいってもケイスよりは年上で、24、5歳程度と推測できる。
青年はケイスを見て目を丸くしたが、ガバッ!と立ち上がった。
「あ、こんにちは!」
青年は人の好さそうな笑顔を浮かべて、場にそぐわぬ挨拶をしてきた。
学者だから、もっと陰鬱な雰囲気を想像していたケイスは意外そうに目を細めて、とりあえず返した。
「……こんにちは」
すると青年は、笑顔を浮かべたままズカズカと歩み寄って来て、ケイスと背後に立つセラを見て、心底嬉しそうに頷いた。
「あなた方も調査に?いやー、お若いのに勤勉だなぁ」
こいつ、ずれてるな。と失礼なことを考えながら、ケイスは否定した。
「いえ。通りすがりなんすけど」
すると、青年は目に見えて肩を落とした。
しかし、すぐに笑顔を取り戻す。
「そうなんですか……。あ、申し遅れました。私、グレイスと申します。見ての通り学者でございます」
丁寧に腰を折って、頭を下げて来る。
ケイスはそれを見て、また意外そうに目を見開いた。
何と言えば良いのだろうか、その動作が、異様に様になっているのだ。
青年、グレイスが頭を持ち上げると、ケイスは微かに頭を下げた。
「ケイスです。こっちは――」
いつもの癖でセラの名前も告げようとしたところで、
「ルセラフィル」
セラが自分から名乗った。
ケイスは驚いてセラに振り向いたが、セラの顔を見てすぐ納得した。
ケイスはすぐに忘れさられるのだ。ならば、ケイスがセラの名前を伝えてから忘れられれば、グレイスはどうやってセラの名前を知ったのか、と混乱させることになる。
それも一時の事だろうが、あまり混乱させる必要も無いだろう。
ケイスは視線だけでセラに感謝を告げると、ほうほう、などと言いながら頷いているグレイスに向き直った。
「んで、学者さんが何で一人で?」
するとグレイスは、我が意を得たり!と大げさに頷いた。
「そうなんですよ!聞いて下さい!護衛もね、居たんですよ!昨日までは!」
叫びながら詰め寄って来るグレイスに若干引きながら、ケイスは気になるフレーズを繰り返した。
「……昨日までっすか」
「そうなんです。でも、逃げてしまいましてねぇ。私魔法も使えなくて、どうしようかと困っていた所なんですよ」
グレイスは心底困った顔で、「はあーっ」とため息を吐いた。
なるほど、流石に、一人丸腰でここまで来る馬鹿は居ないだろう。
それに、ケイスは彼の発言で大いに親近感を得てしまった。
「そいつは大変っすね」
思わず感情を込めて言ってしまった。
「そうなんです。大変なんです!……お二人、お時間はございますかな?」
だからだろうか。グレイスはそう聞いて来た。
ケイスは背後に立つセラをちらりと見てみるが、無反応だった。「好きにしなさい」と言うことだろう。
「まあ、急いでる訳じゃないっすけどね」
だからケイスも、そう面倒な話でなければ付きあおうと決めた。
どうせ急ぐ旅でも無いのだ。むしろ、婚姻旅行とでも考えれば良いだろうか。
「それなら少しお時間頂けませんか?ああ、もう何か食べられました?まだでしたら御馳走しますよ」
グレイスは大いに安堵した顔を浮かべた。
「……頂きます」
ケイスはそれを受けることにした。
後ろからは何のリアクションも無いので、問題は無いだろう。
全部あげちまえと思いました。
次は一時間後




