第1章:アクセル開けたら元暴走族が燃えた
【第1部:地元・首折れ峠編】
放課後の夕暮れ時。町外れにあるトタン屋根の古びたガレージには、いつものように生々しいガソリンとパーツクリーナーの匂いが充満していた。
工具棚の前に立っているのは、黒崎蓮司だ。
腰で縛ったツナギに黒のノースリーブ。引き締まった肩と二の腕の筋肉にうっすらと汗を光らせ、口にくわえていたヘアゴムでサラサラの黒髪を無造作に後ろで束ねる。彼が手にしたノギスでピストンのクリアランスをコンマ数ミリ単位で測っていたその時、ガレージの前の砂利道がけたたましく鳴った。
ババババババババッ! キキィィィッ!
金属が擦れ合う悲鳴のような制動音とともに、白煙をまき散らしながら単車が滑り込んでくる。乗っていたのは、金髪メッシュを揺らした川手敬太だ。
「おい全員集合! 歴史的大発見だ!!」
敬太はヘルメットを地面に放り投げ、油まみれの作業台の上に銀色のパウチ袋を叩きつけた。
袋には怪しげな金文字でこう印刷されている。
『超濃縮・超音速燃料添加剤:ニトロ・ドラゴンEX(※ラジコン用)』
奥のダンボール箱に座って駄菓子をかじっていた総長の一条走が、目を丸くしてパウチを覗き込んだ。
「敬太、それ何? うまいやつ?」
「食いもんじゃねえよ! 海外の怪しい通販でポチった極秘ケミカルだ! なんでもこれを一滴垂らすだけで、手のひらサイズのミニ四駆やラジコンカーが時速100kmで壁突き破って大空へかっ飛ぶ化け物に化けるらしい」
「それ単にラジコンが空中分解して爆散するやつだろ」
走はあっけらかんと笑ったが、その横で蓮司の額にピキリと青筋が浮かんだ。
蓮司は作業用のウエスで静かに手を拭き、氷点下の眼差しで敬太を見据える。
「……敬太。テメエ、その怪しげな劇物をどこに入れようとしてる」
「決まってんだろ! 俺と走のタンクにぶち込んで、首折れ峠のレコードを更新するんだよ! なあシンジ、科学的にどうなんだ?」
パイプ椅子でノートPCを開いていた神崎真一が、銀縁メガネを中指でクイと押し上げた。
「成分表を見る限り、純度99%のニトロメタンに模型飛行機用の特殊合成オイルを配合した狂気の液体ですね。ラジコン用グロー燃料の極限濃縮版です。理論上、シリンダー内の燃焼圧力は通常の四倍。ピストンが音速を超えてピストン運動を繰り返します。ただし、耐熱限界を超えた瞬間に――」
「よし! ピストンが音速になるってよ! シンジのお墨付きだ!」
「人の話を最後まで聞けこの単細胞がァ!!」
シンジの悲鳴も蓮司の制止もまるで耳に入らない。敬太はニヤリと笑うと、キャップをねじ切り、ドボドボと蓮司が組み上げたばかりの走の旧車タンク、そして自分の愛車へ液体を豪快に流し込んだ。
その横で、ボアアップ原付のシートにちょこんと座っていた最年少のチビ(小林蓮)は、何も言わずにツナマヨおにぎりをモグモグと咀嚼しながら、スッと無言で換気扇の強スイッチを入れた。チビの動物的な勘が、破滅を予知していた。
「さあ走! 行くぞ、新次元の加速の世界へ!」
「おう! 試してみっか!」
「待て走! セル回すな! キック踏むなァァ!!」
蓮司の怒号が響いた刹那、走が迷わずキックペダルを力強く踏み下ろした。
――ドガァァァァァァァンッッ!!!!
それは単車の排気音ではなかった。大砲の直撃音だった。
マフラーのテールエンドから七色に輝く禍々しい火炎放射が噴き上がり、爆風がガレージ内の段ボールや工具箱を吹き飛ばす。凄まじい衝撃波で、シャッターのトタン板がメリメリと音を立てて外側へ吹き飛んだ。
「ゲホッ! ゴホッ! 目が! 化学兵器かよこれ!?」
「敬太テメエエエエエッ!! 俺が昨日鏡面仕上げしたマフラーが丸コゲだろうがァッ!!」
怒髪天を突いた蓮司が32mmの巨大なメガネレンチを振り上げ、敬太が「ひぎゃああ! 科学の進歩には犠牲が付き物だろ!」と叫びながらガレージ内を逃げ惑う。
だが、大惨事はそこでは終わらなかった。
「……おい」
吹き飛んだシャッターの隙間から表を眺めていた走が、不思議そうに首を傾げた。
「なんか表で……黒コゲのアフロが二人乗りで煙吹いて立ってね?」
一同の動きがピタッと止まり、外へ視線を向ける。
ガレージの目の前、吹き飛んだトタン板とマフラーからの火柱を真正面から浴びた位置に、一台の単車が立ち尽くしていた。
ちょうどガレージの前を通りかかった、ド派手に改造されたCB400。
高く突き上げられた三段シート、天を仰ぐアップハンドル、直管マフラーに二人乗り。
だが今や、そのいかつい威圧感は見る影もなかった。
運転席に跨がっていた男は、自慢だったはずのリーゼントが根本からチリチリに焼き縮れて巨大な黒コゲアフロと化し、後ろの三段シートにしがみついていた連れの男も同じく頭が真っ黒なブロッコリー状態。
CB400の三段シートは先端が炭化してボロボロと灰を落とし、直管マフラーには吹き飛んだトタンの破片が突き刺さってシューシューと白煙を吹いていた。
「…………」
静まり返る夕暮れの砂利道。
運転席の男は、震える手で自分の頭に触れ、パラパラと崩れ落ちる黒い炭を呆然と見つめた。
そして、プツンと何かが切れたように血管をビキビキに浮き上がらせ、喉が破れんばかりの絶叫を上げた。
「お、オレの……! 現役引退しても毎日二時間かけてキメてた魂のリーゼントがあああああっっ!!」
「ヒエッ!? 喋った! 三段シートごと黒コゲなのに生きてる!!」
敬太が叫ぶ。
「後ろのヤツも眉毛全滅してんぞ!」と走が指を差す。
「生きてるに決まってんだろ! テメエら何しやがるクソガキどもがァッ!!」
黒コゲの男が煤まみれの顔でCB400から転がり降り、胸ぐらを掴もうと詰め寄ってきた。
「オレはな、かつてこの界隈をシメてた元暴走族の頭だぞコラァッ! 後輩連れて久しぶりにCB転がしてたら、いきなり大砲撃ち込まれたんぞ! この頭と、オレの極上CBの三段シートどう落とし前つけてくれんだァッ! 弁償代と慰謝料で百万円払えやァッ!!」
普通なら土下座して警察沙汰を恐れるか、あるいは大乱闘に発展する修羅場だ。
だが、特攻隊長・川手敬太の思考回路は、常人の斜め上をはるか彼方に突き抜けていた。
敬太はポケットをまさぐると、クシャクシャになった千円札を一枚取り出し、スタスタと元暴走族の目の前まで歩み寄った。そして、その千円札を男のボロボロの革ジャンの胸ポケットにスッとねじ込み、親指を立てて爽やかに笑った。
「あ、すみません! 1000円カット代置いとくんで、丸刈りにしてもらってお釣りちょうだい! じゃ、僕らこれから峠の集会なんで!」
「…………は?」
元暴走族の脳が、生まれて初めて「処理不能」のエラーを起こした。
「おい待てコラァッ! 千円渡して千円カット行って、なんでお釣りが発生すんだよ!! 計算すらできねえのかテメエはァッ!!」
バキィッ!!
「突っ込むとこそこじゃねえよボケエエエエエエッッ!!」
次の瞬間、蓮司のハイキックが敬太の側頭部に炸裂し、敬太がガレージのコンクリートに沈んだ。
「1000円カット行っても切る毛が残ってねえって言ってんだろアホがァッ!!」
「痛え! 毛刈りの面積が少ないんだから300円くらい値引きしてくれてもよくない!?」
「そういう問題じゃねえよ死ね!!」
二人が揉めている間、後ろで立っていた舎弟が「ア、アニキ……オレたちのCB、オイルパンからも煙吹いてます……」と泣きそうな声を上げる。
元暴走族のリーダーは屈辱と怒りで全身をわなわなと震わせ、スマホを取り出して震える指で通話ボタンを連打した。
「……許さねえ……現役引退したからって舐め腐りやがって……! オレの縦社会のネットワークを舐めんなよクソガキどもがッ! オレが頭張ってた時の狂凶OBの先輩たち、それから現役最凶の武闘派『狂犬會』にいる可愛い後輩どもを全員集めてやる!! ついでに地元で闇金やってる一番ヤバい先輩にも連絡して、テメエらの身元洗って親元からキッチリ毟り取ってもらうからなァッ!!」
怒り狂った元暴走族が、地元の人脈を総動員して鬼電をかけ始める。
だが、そのとき前に進み出たのは、総長の一条走だった。
走は、元暴走族の先輩だの現役の後輩だのという話に、これっぽっちもビビっていなかった。
走の瞳には、どれだけ仲間を集められようと怖がる様子など微塵もなかった。
あるのは、タコメーターが限界を振り切ったときと同じ、濁りのない純粋な狂気の輝きだけだった。
「……なあ、アフロのオ兄サン」
「アフロ言うなァッ!」
「そのCB400、三段シート燃えちゃったけど、エンジン良い音してんじゃん」
「……は?」
「ヨシムラの集合管? コール切るだけじゃなくて、高回転までちゃんと回りそうだね。……なぁ、先輩も後輩も呼ぶなら首折れ峠においでよ。全員で峠のてっぺんまで勝負しようぜ。オ兄サンたちが勝ったら坊主にでも何でもなるよ。俺たちが勝ったら、さっきの千円返してね」
「千円で命賭けてんじゃねえよクソガキがああああっ!!」
元暴走族の目が点になった。
脅しが効かない。怒りが通用しない。ただ「走ること」しか頭にない、本物の狂人たち。
「……ひ、轢き殺してやるッ!! 全員集まれ! 首折れ峠でこいつらを囲んでミンチにすんぞォッ!!」
元暴走族と舎弟が、煙を噴くCB400に二人乗りで跨がり、直管マフラーから火の粉を散らしながら退却していく。
「敬太ァァァァァァッ!!」
蓮司が絶叫しながら、工具を放り投げて自分の単車に飛び乗った。
「お前のせいで元暴走族がヤバいOB連中や現役の後輩まで巻き込んで大集合だぞどうすんだ!!」
「走れば解決する!! 行くぞテメエらァッ、全開ぶち込め!!」
キュルルル、ドババババババッッ!!
爆音とともに白煙と火柱を撒き散らし、5台の単車がガレージから夜の国道へと飛び出していく。
国道19号線の上り坂を、爆音の塊が狂乱の勢いで切り裂いていく。
先頭を切るのは、もちろん特攻隊長・川手敬太の2ストローク軽量レプリカだ。怪しいラジコン用ニトロを食わされたチャンバーからは、けたたましい金属音とともに、甘いニトロメタンの匂いを含んだ濃厚な七色の白煙がモクモクと噴き出していた。
「ヒャッハーーッ! 見ろよ走! 後ろの風景が何も見えねえ! 俺が煙幕だ!!」
「敬太テメエ、前すら見えねえよ! 煙を吸わせるな目が痛えんだよ!!」
怒号を張り上げるのは、すぐ後ろを追走する黒崎蓮司。
長い前髪をヘルメットのシールド越しに振り乱し、ノースリーブの腕に青筋を浮かばせながら中型ネイキッドをねじ伏せている。自慢の愛車が、敬太の撒き散らす謎の未燃焼オイルでギトギトになっていた。
だが、その白煙の地獄を、もっともダイレクトに顔面で受け止めていたのは――彼らを追う追撃部隊の先頭だった。
「ゲホッ! ゴホッ!! オエェェェッ! な、なんじゃこの煙はァァッ!? 目がぁっ! 目が痛くて涙が止まらんわッ!!」
三段シートの先を焦がしたCB400に二人乗りし、涙と鼻水を垂れ流しながら叫んでいたのは、先ほど自慢のリーゼントを根こそぎ丸コゲにされた元暴走族リーダー(21歳)だった。
頭上には、風圧でボロボロと炭化した毛先を散らす巨大な黒コゲアフロ。
顔面は煤で真っ黒のまま、眉毛の消えた顔で必死にスロットルを絞り切っている。胸ポケットには、敬太から押し付けられたシワシワの千円札がねじ込まれたままだ。
「アニキィ! 後ろの闇金の先輩たち、ハイエースで煽ってきてますぜ!」
後ろにしがみつく舎弟が悲鳴を上げる。
「煽られても黒煙のせいで前がみえないんだよ! これ以上アクセル開けたら事故っちまう!!」
CB400のすぐ背後には、元暴走族が泣きついて呼び出したOBたちの改造車、さらには闇金業者の黒塗りハイエース軍団が巨大な壁のように連なっていた。さらにその闇金のケツ持ちである広域指定暴力団『黒鉄組』の高級セダンまでが「貸しを作ってシマを広げるチャンス」とばかりに雪崩れ込んできていた。
パパパパパパアンッ!
「ひぎゃあああっ!? なんか飛んできた!!」
敬太が首をすくめた瞬間、彼のヘルメットのすぐ横を、金属を弾く鋭い破片がかすめてガードレールに火花を散らした。
セダンの助手席から身を乗り出したヤクザが、チャカを構えて平然と発砲している。夜の国道で繰り広げられる、完全な銃撃戦だ。
「……計算通りですね」
すぐ横に並んだ神崎真一が、風圧でフレームが歪みかけた銀縁メガネの奥で瞳を光らせた。
自作のダンボール製リアウイングがダウンフォースでバタバタと悲鳴を上げている。
「拳銃弾の初速は約350m/s。我々の現在の巡航速度が時速140km、つまり秒速約39m。相対速度と風の抵抗、さらに敬太くんの不規則な蛇行運転による空気の乱れを考慮すれば、命中率は3%未満です!」
「その3%が当たったら死ぬんだよガリ勉!!」
蓮司が叫び返す。
だが、そのカオスな修羅場を、もっとも場違いな空気で彩る男がいた。
最後尾を走る小林蓮――チビだ。
ボアアップされた魔改造原付スクーターは、時速140kmの狂気の速度域にありながら、ブレひとつなく路面を滑空していた。チビは左手だけでアクセルを全開に固定し、右手にはコンビニの『からあげクン(レッド)』を持っていた。楊枝でひょいと口に放り込み、もぐもぐと咀嚼しながら追走部隊を無表情で見下ろしている。
チビは後ろで必死にCB400にしがみつくアフロの元暴走族と目が合うと、ふと思い出したようにからあげクンの紙容器をヒラヒラと振ってみせた。
「……食べる?」
「煽ってんのかあの小僧ォォォォッ!!」
元暴走族の血管がブチ切れそうになる。
「時速140キロで原付片手運転しながらからあげクン食ってんじゃねえよ! オレはこのアップハンで腕が限界なんだよッ!!」
ギィィィィィィィィッ!!
けたたましいスキール音とともに、前方の側道からド派手な泥除けを付けた足場屋のトラックが割り込み、進路を完全に塞ぐように横付けされた。
荷台には単管パイプが満載され、キャビンからタオルを頭に巻いたガテン系のOBたちが鉄パイプを手に身を乗り出してくる。
「挟み撃ちじゃあッ! アフロ、逃がすなよオラァッ!!」
前は単管パイプのバリケード。
後ろからは、チャカを構えたヤクザと闇金のハイエース軍団。
完全に挟み撃ちの袋小路だった。
(勝った……! これでアイツらは袋のネズミだ! オレのリーゼントとCBの恨み、きっちり晴らしてやる……!!)
元暴走族が煤まみれの顔で勝ち誇った笑みを浮かべた、まさにその時だった。
フォオオオオオオオオオオオンッッ!!!!
集団の真ん中から、甲高い排気音が夜空を劈いた。
一条走。
RED ZONEの総長が、ボロい昭和旧車のスロットルを、一切の迷いなく底まで回し切った。
タコメーターの赤い領域――レッドゾーンの限界針を、さらにその奥、ストッパーピンが折れ曲がる領域まで押し込む。
走の口元が、三日月のように吊り上がった。
「走!? テメエ何してんだ、前見ろ! 道が塞がってんだぞ!!」
敬太が青ざめて叫ぶ。
しかし、走の耳には仲間の声も、銃声も、OBたちの怒号も届いていなかった。
「おい足場屋さん!」
走は風圧で変形した顔のまま、トラックの荷台に向かって笑った。
「そのトラック……荷台高くて、腹下スカスカじゃねえか!!」
「は……?」
キャビンのOBたちが呆気にとられた瞬間、走は単車を限界まで左にバンクさせた。
曲がるためではない。
車体をほぼ地面と平行に寝かせ、アスファルトにステップを削りつけながら、トラックの腹下――わずか数十センチの隙間へ、ノーブレーキのまま頭から突っ込んだ。
ガガガガガガガガッ!!
激しい火花が夜の闇を真紅に染め上げる。
物理法則を「気合い」だけで無視した狂気のアンダーパス。
走のマシンは、トラックのデフケースと燃料タンクの間を自らのヘルメットでかすめながら、あっという間にバリケードの向こう側へとすっ飛んでいった。
「ひ、ヒィィィィッ!? トラックの腹下を寝かせて潜り抜けたァァッ!?」
元暴走族の目が飛び出そうになる。
だが、後ろに続くメンバーはそんな曲芸に付き合う気など毛頭なかった。
「あいつ頭おかしいだろ! 誰が真似すっかボケェッ!!」
敬太はアクセルを開けたまま、左の歩道へフロントタイヤを乗り上げさせ、ガードレールと電柱のわずか50センチの隙間を縁石ジャンプですり抜けていく。
「当然です! 腹下に突入すれば車体高と頭部クリアランスの計算上、99.8%で首がもげます!!」
シンジは冷静にトラックの右側の路肩へ回り込み、白衣をはためかせて緊急回避ラインをトレース。
「後で絶対にシバく……走も敬太も全員まとめてシバき倒す……!!」
蓮司はトラックが横付けされたことで生じた、荷台後方と中央分離帯のわずかな隙間へ鋭いブレーキング&切り返しでマシンをねじ込み、美しいライン取りで駆け抜ける。
そして殿のチビ(小林蓮)は――。
トラックの巨体に全く怯むことなく、開いたままの運転席ドアのステップに片足をポンと引っ掛けると、原付ごとヒラリとピボットターン。
キャビンで呆然としていたガテン系OBの手に、食べ終わったばかりのからあげクンの紙容器をスッと握らせた。
「……ポイ捨て禁止」
「オメエが捨ててんだろコラァッ!!」
OBの怒号が響く中、チビは何食わぬ顔でトラックの脇をすり抜けていった。
「あいつら……人間じゃねえ……! 頭のネジが一本も残ってねえバケモノだァッ!!」
元暴走族は全身から冷や汗を噴き出し、完全に戦意を喪失してブレーキを握ろうとした。
だが――。
「邪魔じゃアフロォォォッ!! 追わんかいボケエエエエッ!!」
ドガンッ!!
背後から迫ってきたヤクザのセンチュリーのフロントバンパーが、CB400のリアフェンダーを容赦なく小突いた。
「ぎゃああああああああっ!! 押すなァッ! オレのCBで追いつけるわけねえだろォォォッ!!」
悲鳴を上げながら、ヤクザの高級セダンに背中を押される形で首折れ峠へと強制連行されていく元暴走族。
頭上の黒コゲアフロから火の粉を撒き散らしながら、彼は自分が呼び寄せたはずの修羅場の先頭に立たされ、時速100kmで峠へと突っ込んでいくのだった。




