01話
『誰も知らない秘密の話、教えます』
カップラーメンをすすりながら、僕は顔を上げた。
いかにも釣りっぽいフレーズだったが、手は止まる。
しばらく見ていると、暴露話らしい。
くだらない。
カップラーメンに箸をつけて、残りを食べた。
このところ、毎晩同じラーメンだった。
味も、メーカーも、コンビニも。
一人暮らしに贅沢は敵だ。
それ以前に、考えるのが面倒だった。
定時に終わり。
決まった道を帰り。
途中のコンビニに寄り。
帰宅して、湯を沸かして食べる。
ローテーションは楽だ。機械みたいに動ける。
食べ終わり、席を立った時だった。
テレビ画面に、見たことのあるアイドルが登場した。
世間一般で可愛いと言われている、グループアイドルの一人。
興味はないが、さっきまでの大物俳優よりはマシという程度。
画面が切り替わり、画角が低い。
床すれすれからの視点。
「盗撮か」
ナレーションで、楽屋だと分かる。
声が聞こえてきた。
アイドルの声だ。
足元中心の映像が続く。
「ちょっと、どうなってるのよ!」
荒い口調。
椅子に座り直した。
これ、マズくないか?
リモコンを手にボリュームを上げる。
「ん?」
音量ボタンを押しても、反応しない。
二、三回、パチパチと本体を手のひらで叩き、ボタンを押す。
「なんだよ、今から良いところなのに」
テロップだけが流れていく。
音は聞こえない。
何度か叩いているうちに、フッと電源が切れた。
「おいおい」
すぐに、本体の裏蓋を開け、乾電池を取り出す。
乾電池の出っ張り部分を下にして、二センチほどの高さからテーブルに落とす。
電池の残量が少ないほどよく跳ねる。
指を離すと、高く跳ねた。
「ちぇ、電池切れかよ」
リビングに行き、ダンボール箱を引っ張り出す。
電池が無造作に詰まった中から、二本取り出して入れ替えた。
テレビに向かって電源ボタンを押す。
電源が入り、映し出された。
「なんだこれ?」
さっきとは違う画角。
今は腰の高さほどの目線で、部屋の中が映し出されていた。
音はない。
次の瞬間、
「……ん、誰だ?」
人らしき影。
「子ども?」
リビングのような場所から、カーテンをめくり、ベランダの窓を開ける。
背中が小さく、Tシャツの裾が揺れて、細い足が一瞬だけ見えた。
追われるように走っていた姿が印象に残る。
小学生の隠し子?
ヤバいって。
そう思いながらも、目が離せなかった。
カーテンが邪魔をして、どうなったのかはっきり見えない。
「どこにいっ……」
ドスン。
突然、高い所から物を落としたような鈍い音が響いた。
「う、うそだろう」
カーテンが風に揺れて、隙間からベランダが見えた。
誰もいない。
動いているのは静かに動く秒針だけ。
「つ、通報……110だよな。ち、ちがう119か」
テーブルのスマホを手に取ろうとして、落とした。
体が震えている。
うそだよな。
「1、1、……」
最後が押せない。
「まだ誤報だったらどうする。……あの時みたいに」
それにどう説明すればいい。
テレビを見ていたら、子どもが飛び降りた?
そんな馬鹿な、誰が信用する。
場所を聞かれたら?
テレビに目線を戻す。
見たことも、記憶にもないリビング。
「こういうのは全部仕込みだ。バズ狙いの安い演出」
自分にそう言い聞かせながら、ははっと笑ってみるが、すぐに顔が引きつった。
よく見ると、画面の中は昼間のように明るい。
変だ。
スマホの時間は、午後七時を過ぎている。
横の窓に近寄りカーテンを開ける。
暗いのがわかっているに、開けずにはいられない。
「な、なんだよ一体……」
心拍数だけが跳ねて、次の行動に移せない。
「ああは、ドラマってことか。び、びっくりさせるなよ、焦ってまた通報するところだった」
そう言ってみたところで手の震えは収まらない。
誰もいないリビングが映し出されている。
そういえば、普通テロップがあったりするが、それもない。
ただ映像が流れているだけ。
考えれば考えるほど、怖くなり、無意識にチャンネルボタンを押す。
「嘘だろ」
何度も押すが変わらない。
こんなタイミングでまた電池切れ。
偶然だ、偶然。
そう思おうとするほど、息が浅くなる。
急いで別の電池に入れ替えて、すぐに押す。
ほっとするのも、束の間、息を飲む。
チャンネルに映し出されたのは、先ほどとは違う、知らないワンルーム。
目線の高さで、照明も暗い。
画面の端に、冷蔵庫とキッチンが見える。
違う。
見たことがある。
これって……。
僕の部屋じゃないか。




