第3話−1〜頼もしき援軍〜
キーンコーンカーンコーン。
今日も朝から学校のチャイムがいつもと同じ音色を奏でている。
「いよいよ始まったな…」
「そうだね」
緊張した面持ちで僕達はチャイムの余韻に浸る。
そして、茶をすする。
「いやぁ、それにしても寂しいものだなぁ」
「確かに。まさかこんなに人がいなくなるものだとは思わなかったよ」
僕達は笑いながら茶をすすっては、談笑していた。
「大魔導士になってこういう特典がつくとは思わなかったぜ」
ウェスリーがせんべいをバリバリと食べながら愉快そうに笑う。
「ウェスリー。一応僕達にも試験があることは忘れるなよ」
「わかってるって」
ウェスリーはへらへらと頷きながら菓子ばちのせんべいに手を伸ばす。
今日は期末試験の初日……だが、僕やウェスリーら大魔導士クラスは年に二回しかない魔術師会の賢者認定テストしかないため、学校の定期試験はもう受けなくてよいのだ。
「まさかテストがないことがこんなに素晴らしいことだとは思わなかったぜ。ちょっと早い俺達だけの夏休みだな」
「ウェスリー!その間に僕達にはやらなければならない課題があっただろ?」
「あ〜ん、そんなもの知るかよ。てきと〜にやるさ」
「まったくもう」
「寮長もいねぇから好き放題できるしな。しかし、流石にギルバートの奴に連日で勉強を教えていたら眠いな。今日のところは一日中寝てるとするか」
ウェスリーは大きく伸びをすると、口にせんべいをくわえてそのまま談話室から去っていった。
まったく、相変わらずだらしない奴だ。でも、僕も昨日や一昨日はずっとリプルちゃんやエリスさん、ラウナちゃんに付きっ切りで勉強を教えていたから少し眠い。
(いや、だめだ!ウェスリーじゃないけどこの時間は有効に使わなくちゃ)
テスト期間中はほとんど自分の勉強に手が回らなかったからその分、急ピッチでこなさなきゃ。しかし――
「ふぁ〜」
眠気には勝てなかった。
(少し散歩でもしてくるか)
街の中でも少し歩けば目が覚めるだろう。
僕は身支度を整えると、学校の裏門からレアードの街に繰り出すことにした。
レアードの街も、一時期は恐怖に怯えた街になったけど、だいぶ明るさをまた取り戻しているようだ。でも、街の人達の中には時々不安そうに空を見上げる人達もいた。
確かに、あいつは『また来る』と言っていた。そんな台詞を残されて不安じゃないわけがないか。早いところ、何か有効な対策を打たないといけないよな。
いっそのこと聖王都バレルから軍隊を丸ごと派遣してもらうっていうのはどうだろうか。完璧な防衛線が揃えば、いくらあいつでもそう簡単にレアードを攻撃できなくなるんじゃないだろうか。
『もうちょっと楽しめるかと思ったんだけどねぇ。魔法使いってのは案外ひ弱だったんだね』
虚空に去っていく寸前のあいつの言葉が脳裏に浮かぶ。いくらまだ修行段階のアキト先輩が相手だったからとはいえ、最上級の魔法でダメージ一つ受けていなかったなんてありえない。でも、それが現実だった。
バレルの軍隊はともかくとして、魔法戦術では僕達に勝ち目があるのだろうか。最上級クラスの魔法ですらダメージを与えられなかった敵に勝つ術などあるのだろうか。
「………」
何を弱気になっているのだ。いくらなんでも僕達だけで決着がつく戦いではないだろう。いずれは先生達に託して、僕達はその後方支援をすることになるはずだ。いくら魔法に耐性があったとしても、先生達が放つ高等魔法にはかなうまい。
一ヶ月前、僕達パーティをたった一撃で全滅させた高等魔法。
セリカ先生はあれでもまだかなり手加減をした威力だという。全力で放ったならば、レアードの街一つくらい簡単に壊してしまうかもしれない。そうなれば、流石のあいつもしっぽを巻いて逃げていくことだろう。
「………」
でも、やっぱり釈然としない。五月のあの日、ノエルちゃんが見つけた白い光を放つ流れ星が連れてきた見たこともない魔物達との戦いから始まって、僕達はずっとこの事件に関して重要な部分に触ってきたはずだ。今更、たった一人の相手に歯が立たなかったからと言って先生に託すなんて何か無責任な気がする。ここまで関わったのだから、最後まで見届けたい。僕達の手であいつらをレアードから追い出したい。
「あら、セシル君?」
後ろから声をかけられ、ハッと我に返り後ろを振り返った。