第3話−2〜頼もしき援軍〜
「やっぱり。どうしたの、こんなところで」
「あ、ノエルちゃんのお母さん…」
声をかけたのはノエルちゃんのお母さんだった。
「おはようございます」
とりあえず、まずは挨拶。
「何だかすごく怖い顔をして歩いていたわよ。何かあったの?」
「え?僕、そんなに怖い顔をしてました?」
「ええ。とても思いつめた表情をしていたわ…」
ノエルちゃんのお母さんが心配そうに話す。
「本当に大丈夫?うちで休んでいく?」
「いえ、大丈夫です。連日徹夜でちょっと疲れていただけですから」
「徹夜?ああ、そういえばもうそんな時期ね」
ノエルちゃんのお母さんは納得したように頷き、ふと首を傾げる。
「セシル君はどうしてこんなところにいるの?学校は期末試験のはずでしょ?」
「大魔導士クラスでは、もう学校の試験は行われないんです。賢者になるための試験は年に二回、バレルで行われますから」
「そうなの。じゃあもしかして徹夜したっていうのは…」
「ノエルちゃん達に勉強を教えていたんです。学校の定期試験はほとんど受けてきたので問題の傾向とかも伝授しておきました」
「それは頼もしいわね」
ノエルちゃんのお母さんはクスクスと笑う。
「ところでお母さんこそ、どうしてこんなところに?お店があるはずでは…?」
「店は旦那に任せてきたの。私は前にノエル達がやっていた露店販売を続けているのよ」
「そうだったんですか」
「こんな状況を本当は喜んではいけないのかもしれないけど、おかげで今まで知名度の低かったうちの店にもお客さんが入るようになったわ」
「よかったですね。味は抜群にいいですから、街の皆に知ってもらえれば絶対に繁盛すると思っていましたよ」
「ウフフ、ありがとうセシル君」
「おーい、カエラ!」
中央通りの東側から中年男性が走り寄ってきた。
「あら、あなた」
ノエルちゃんのお母さんは親しそうに微笑む。
(あなた、ということはお母さんの夫?つまりノエルちゃんのお父さん?)
見た目はどこにでもいる普通の中年男性といった感じだが、長身で優しそうな顔つきはいかにもノエルちゃんの父親といった感じだ。ノエルちゃんはこの二人の優しさをすべて受け継いだに違いない。
「? カエラ、こっちの少年は?」
「あなた、この子がセシル君よ。ノエルといつも仲良くしてくれている…」
「君がセシル君か。話はノエルやラウナさんから聞いているよ」
ノエルちゃんのお父さんはそう言って優しく微笑む。
「ところでどうしたの?そんなに急いで」
「ん?ああ、実はハープの葉の在庫が切れてしまったみたいでな。そっちの余りがないか聞きに来たんだ」
「ハープの葉はこっちにはないわねぇ…」
「そうか…」
「今日のところは仕方ないんじゃないかしら。あれは主にお菓子の飾り付け用だから」
「うぅむ、そうか。ないのならば仕方ないか…」
どこか諦めきれない様子だったノエルちゃんのお父さん。ハープの葉はそんなに珍しい物でもないのだが、レアードのどの店にも置いていないのだ。
「あの、よければ僕が探してきましょうか?」
気がつけばそんなことを言っていた。
「いいのかい?」
ノエルちゃんのお父さんの問いに僕は「はい」と小さく頷く。
「でも、この辺りでハープの葉が取れるなんて聞いたことないわよ」
ノエルちゃんのお母さん、カエラさんの言葉に僕は「何とかなりますよ」と明るく答えた。
「試験がなくて暇してましたから、散歩も兼ねてその辺りの森を探して見ます」
僕は二人に丁寧に頭を下げると、まずは学校に戻った。その理由として僕自身ハープの葉について知らなかったこともある。
学校に戻り、図書館で薬草辞典を引いてみる。
(あった!)
辞典の真ん中のページにハープの葉のイラストと説明が載っていた。
「甘い香りを放つ葉で、主にお茶の中に入れたりするものだが、その形からお菓子に添える場合も珍しくない…か」
とにかくどんな形をしているかはわかったぞ。後は、主な産地だが……。
「暖かい場所に多い……」
それだけかい!!
まぁ、本に突っ込んでもしょうがないわけだけど、いくらなんでも主な産地が『暖かい場所に多い』はないだろう。はぁ、とりあえずこの辺りの森をしらみつぶしに探してみるしかないのかな。レアードの気候は比較的温暖だから基準は満たしていると思うし。
でも、その前にもう少しこの学校で情報を集めておいたほうがいいかな。もしかしたら有力な情報をくれる人がいるかもしれない。
僕は図書館を出ると、校舎の中を歩いて人を探した。そして、数分後に気づくのだった。
今ってテスト中じゃん!!
つまり、人なんかその辺を歩いているわけもなく、さらに休み時間になっても教室で勉強しているに違いないんだ。
(こんな状況でテスト勉強に関係ない事を聞いて回るのも失礼だよな)
まったく、今日の僕はボケたことばかりしているな。
「あら、セシル君?」
突然、後ろから聞こえたどこかほんわかとした声。
「セリカ先生?」
「こんなところで何しているの?今はどの教室もまだ試験中ですよ?」
「すみません。実は少し探しているものがありまして図書室に行っていたんです」
「賢者認定試験の?」
「いえ、それとは別で…」
僕は直感で思った。セリカ先生なら料理上手だしきっとハープの葉のことも知っているだろうと。
「ハープの葉?」
「ご存知ありませんか?」
廊下から食堂に場所を移し、事情を説明する。
「ううん、知っているけど。どうしてまたハープの葉なんて探しているの?」
その目は明らかに『セシル君は料理とかしないよね?』みたいなことを言っているように見えた。そして、しばらく考え込むような素振りを見せると、目線を元に戻して言った。
「そうねぇ、この辺りだったらサントロ街道を南に進んだバージェの森にあるかしらね」
「バージェの森……ですか?」
「そうよ。立て札が立っていると思うからすぐにわかると思うわ」
「ありがとうございます、セリカ先生!」
「ただ、魔物も生息しているから装備を整えていったほうがいいわよ」
セリカ先生から有力な情報を得た僕は、一度寮に戻り、簡単な冒険の準備をしてから一路バージェの森目指してサントロ街道を南に下った。




