019 望み
闇主様は俺からすっと離れて、時間が止まり、動きも止まった羊たちの周りを歩き、俺に問いかける。
「ダーリンはこの羊戦士たちを見てどう思った?」
「鬱陶しいって思った…」
素直な思いを伝える。よくラノベで出てくるこういう二頭身キャラが活躍またはマスコット的な存在で出てくるが、その体躯から戦える雰囲気は全く感じられない。
「そうなのよね…。魔物のが増えたことはわらわにとっていいことなんだけど、何か変な方向に世界が変わっちゃってね…。そんな奴らがうろうろし始めたんだよ」
「冒険者と協力してくる奴らですか?」
闇主様は微妙に首をかしげながら答える。
「魔物のくせに冒険者と仲良くすることもそうなんだけど、愛くるしいキャラになって媚びを売ってるのよ。生き残るための進化なのか知らないけど、わらわはそういうのが大っ嫌いでね…」
言わんとすることは俺も分かる。俺がいくら王道冒険小説を書いてもウケず、そういった媚びたキャラが出てきた小説の方が人気が出るのはわかっていた。だが俺は媚びを売ったようなキャラを無理に書けば虫唾がはしり、文章は変な方向へ行ってしまう。
単に八つ当たりかもしれないし、文章能力が無いってことなんだろうけど…でも!それでも!そういう存在が俺は許せない!……はっ!小説のことになるとつい熱くなってしまった。恥ずかしい…。話を元に戻そう…。
「ふふふ……ダーリンのそういうところ、わらわは好きよ……」
好きなんて言われたのは生まれて初めてだ。闇主様は少しはにかみながらにっこりと微笑む。
「あ……ありがとうございます!」
自分のことを認めてもらえるのはすごく嬉しい。
しかし、時間を止めてしまえるほどの力を持ってすれば、殲滅なんてたやすいことでは無いかとおもい、問いかけた。
「闇主様が自ら倒すことはできなのですか?」
「それがねぇ、力が強すぎて手加減が難しいのよ」
「手加減ができなかったらどうなるのですか?」
「…この世界は終焉を迎える」
冷徹で美しい笑顔をたたえる闇主様。……絵画のように美しい。
「他にも世界はあるのですか?」
「おおっ!ダーリン、鋭いねぇ、」
「ありがとうございます。あそこに捕らえた彼女たちはゲームの世界と言っていましたので…」
「そう、ここは彼女たちのゲームの世界の一部でもあるのよ。そして異世界でもあるんだけど、境界線はなく、あいまいな世界なの。実際わらわが干渉できる世界は幾千にも及ぶ。ゆえにこの世界1つがなくなろうとも痛くもかゆくもないのよね~」
「それだけあれば、そうなるでしょうね」
「だけど、潰して解決じゃあないのよ。それだとわらわがつまらない…」
「はい…」
過程が大切ってことだろうか……。
「わらわはダーリンのあの物語が好きなの、あなたなら、わらわのことを楽しませてくれると思っているの。だからこの世界に無理矢理来てもらったのよ。ごめんね」
「そ、そんな謝らないでください。俺もこの世界に来られて、闇主様に仕えられることを光栄に思っています」
「ふふっ、ありがと。近々に今度そのお礼はさせてもらうわ。……いやん!恥ずかしくなっちゃったから今日は帰るね!」
今まで会話しながらずっと見つめ合っていたのだが、徐々に赤面し始めた闇主様。
「あとはねぇ、そこのセバから聞いてねぇ。じゃあ!またね~」
チュッ。と、ほっぺにキスをして魔法陣の中へ消えた。
マジ天使だ…。いや闇主か。美しすぎる。
あの人で卒業できるのなら死んでもいい!むしろ本望だ!金を払って奴隷とか娼婦で卒業しようとしていたなんて、危ない危ない。
すっかり勝ち組気分の俺だったが、まだ卒業が決まったわけではない。燕尾服の男からマイハニーの願いを聞いて叶えなければならないのだ!
そして俺は燕尾服の男に尋ねた。
「ごほん…。それで闇主様のお願いとは何ですか?」
最初は燕尾服の男に偉そうな口をきいていた俺だが、目的や呼び出し主や報酬ががはっきりと決まり、その上下の関係性が明確になったところで、あの対応はまずいと思い、俺の口調は丁寧な”ですます”体になっていた。




