最終話
夜明け後
「おはよー、ミコ」
めずらしく、サラの方から前を歩いているミコに声をかけた。
「おはよう、今日、バリ、帰ってくるんだよね?」
と、ミコはうれしそうに言った。
「帰ってくるって」
教室はひさしぶりのサラの登校にざわざわしていた。
「おはよー」
「おはようございます」
と、いつもの口調でタームが言った。あのあとの病院の検査で通院すればいいと診断されて、今日から学校に出てきている。
「ターム、お父さんは?」
「検査の結果、直ったので無事に仕事復帰しました」
「あはははは。コザルドさんには病院より、仕事が似合うね」
と、サラは笑った。
「本人もそう言っていました」
「おーす」
と、バリが入ってきた。
「あら、おはよう」
「バリ、ひさしぶり。魚はどうだった?」
ミコが聞く。
「魚?」
サラは後ろからウィンクした。
「ああ、よかったよ。今度、ミコも行ってみるか?」
「うん」
今日もムラサキがやってくる。しかし、顔は少し複雑な顔していた。事情が少しは伝わっているようだ。
「ほらー席につけー。ちょっと残念な話がある。ルカ・ジューデェルはお父さんの仕事の都合で引っ越した。ワカラとワカナ・リスベリーはお母さんの仕事で、他校に移動になった。以上だ」
「えー、なにも聞いてなかったのに……サラ知ってた?」
とミレはささやいていた。
「ううん。知らない」
そう言うしかなかった。
昼休み。
ミコはバリとパンくずを魚にあげに行った。もうあのパン屋のものではない。
「サラさん……」
「コザルドさんは?どうしてる?」
と、サラは聞いた。
「忙しくしていますよ。なんせ、実験者は死亡していて、なにをどうしたのかわからなくて、被害者の保護に駆け回っていますよ。それでも、国の方が大きく動いてくれているんで、だいぶ助かっているようですが。それでも本人は舞姫のほうにとりかかりたいようなんですけど。あー、それとまた、昇格蹴りましたよ」
「えええええええええ!なんでよ!」
と、めったに驚かないサラも目を丸くした。
「管理職はいやなんだそうです」
「ええー、せっかくの昇進……一位くらいじゃないんじゃない?」
と、おそるおそる聞いた。
「ええ、三位昇格、蹴りましたよ」
と、タームは頷いた。
「母さんも笑うしかなかったみたいですよ」
「でしょうねぇ……。お母さん、えらいわ」
「ほれ込んでいますからね」
「お互いにでしょ?」
「ええ。それで今度、また再婚するんです。さすがに母さんも父さんが心配になったみたいで、私がいないと何をするか、わからないからって」
「あら、おめでとう」
「あと、僕も父さんの後を継ぐことにしました。舞姫を捕まえるために」
と、タームは胸を張った。
「あら、進路決定ね?」
「ええ」
「私は大学は行くとして、その後、どうしようかなぁ……。また、舞姫でもやりますかなぁ……」
「受けてたちますよー」
二人は笑った。
「なーに、笑っていんのさ?」
急に後ろから声がした。ちょっとすねたような顔をしている。
「ロフィ!」
「サラの進路なら決まっているよ。時の舞姫は、オレのお嫁さんになるんだ」
「だって、ロフィ……私は……」
「君がいくつでもそんなに問題はないよ。大丈夫、二十離れてないんだから。俺が四十になってもそのままなんだろう?」
「ロフィ……。わからないわよ。急に老けるかも」
「そのときは、みんなをびっくりさせてやるさ」
二人は笑いあった。
「いいなぁ、僕も彼女がほしいかも。あ、思い出した。親父から聞いたことがあるって言われたんだ」
タームが急に言い出した。
「オレに?」
「うん。どっちにしろ、事情聴取には来てくれって。二人ともね」
「待ってよ、私は行かないわよ。それは、舞姫がわざわざ捕まりに行くようなもんじゃない」
「あ、それがいまのところ、上層部は泥棒一人に注ぐ時間なんてないみたいです。親父はかなり不満そうでしたよ。なので、親父と僕以外は誰も注目していません。それにいつだって、証拠を残さないじゃないですか。本人の証言だけじゃ、逮捕は出来ないんですよ。いくら、嘘発見器が発達しても、決定証拠にはなりませんからね。今の法律じゃ」
「あら、素敵」
と、サラはにっこりと笑った。
「しっているくせに。……それじゃ親父の方に来させますか?」
「そうしてくれると、うれしいわ。私もバリも卒業までは一応ここにいるし、ミスターもまだ、動けるみたいだし、来てくれたら一度に話が聞けるかもね」
「オレもここにいるよ。行くのだるい」
「それから、親父が気にしていたことなんですけど、なんで、ポログラムの君のお母さんは体がどこにあるか、知らなかったのかって」
「ああ、あれは、ミスターとは違うんだ」
と、今度はロフィが説明しだした。
「?」
「ミスターは、メイン部、つまり、心臓や脳は自分の物なんだ。そのうち、衰えするし、亡くなりもする。だから、自分で考え、自分で動ける。けど、あのポログラムは母さんが自分に何かあった時用に、父さんが死んでから作り出したんだ。その間に、オレがあの施設を焼いた。その事件で母さんは植物人間になった。オレはそれを病院から運び出して、カプセルに入れて、近くにあった機材置き場の子供の遊び場の秘密基地に置いたんだ。父さんと一緒に墓に入れるつもりで。ところが、オレがそれを忘れていたもんだから・・。ポログラムの母さんを起動させたのはガレンだろう。でも起動させた母さんはプログラミングされたことしか動けないんだ。たぶん、本当のあの塔の実力者はガレンだろう」
「彼女は半分乱心になっているみたいだよ」
と、タームが言った。
「事実は闇の中かぁ……」
「彼らを治すのに、どれだけ時間がかかるのか……。オレの母親の罪は重い。けど、今度こそもういないよ。父さんの横で眠っているからね。ルイにも申し訳なかったなぁ……。本当に自慢のお父さんだったのに」
「捕まっているの?」
「かなり、重要参考人ですから。しばらくは警察にいてもらうことになっています」
「三人も一気にクラスメイトが減ったわね」
と、しみじみとサラが言った。
「もう一つ、僕が気になるんでけど……」
「何?」
「なんで、いつもお金はゼラルド地方に寄付なんですか?」
と、今度はサラに聞いた。
「あー、あそこ、今は砂漠だけど、かつてはでっかい石が降ってくるまでは、私と父の故郷だったの。そこで、生まれ育ったし、母も砂漠の下に眠っている。でも、宗教戦争の真ん中で地雷だらけで行くことはできないでしょう?今、ある会社があの砂漠の緑化計画を進めているの。その企業に資金提供よ。はやく、ミスターとお墓参りに行きたいしね……」
と、しみじみとサラが言った。
「あ、そうそう、思い出した、レムとピエールの結婚が決まったのよ。タームもコザルドさんと一緒に結婚式に来てね」
「本当?」
ロフィが言う。
「ええ。彼女が言っていたわ。プロポーズの言葉が気に入ったんですって」
「ピエーラが……。なんて言ったんですか?」
タームが聞いた。
「君、以上の研究材料は生涯、手に入らないからですって」
「……」
「確かに」
男たち
「終わったなぁ……」
と、ピエーラが珍しくゆったりとして窓の外を見つめた。
「私の方はこれからが忙しい。おかげで、誰も舞姫のことなど、取り合ってくれん」
と、コザルドは顔をしかめつつ、お茶を飲んだ。
「警部、もう私の心残りはそんなにはありませんよ。僕のあの研究を売ろうとした研究員も捕まりましたしね。もしこんな体でよかったら逮捕するなり、解体するなりしてもいいですよ。」
カチャカチャと音を立てて、ジェディンが言った。最新のロボットは音など立てないようになっている。歩くたびに音がしていてはうるさいだろう。しかし、ジェディンは自ら望んで音がするようにしていた。
コザルドはため息をついて言った。
「いいですか?今のあなたを捕まえて、どこをどうやったら、あなたがジェディンだと証明できるんですか?指紋もない、唾液もない、血もない、目玉も機械だ。登録してあるのはそのくらいなんですよ。」
「そうですよ。あなたは僕の最高傑作なんですからね!解体なんかさせませんよ!」
と、ピエーラも言った。
「だいたい、おまえが悪いんだ!全部機械にするから!」
と、コザルドが怒鳴った。
「脳と心臓以外は体中、ボロボロだったんですよ。しかたないでしょう?」
と、ピエーラは肩をすくめてみせた。
「そういえば、なぜタームにサラが舞姫だと言わなかったんですか?」
と、ジェディンは聞いた。
「どうやって知ったのかと聞かれたらどうするんですか?」
「ああ、それは……たぶん本当のことを言ったら嫌われますね」
と、ピエーラもお茶を飲んだ。
「だろう。いいんだ、自分で知ったようだし、本当のことにはまだ気がついていない」
「コザルドさんが僕の先輩で、ジェディンさんはもっと先輩で、実は仲良しだって事ですか?それとも、悪人の情報を交換して共有しているって話ですか?」
「両方だ。」
「目指すはサラの現行犯逮捕ですか?」
カチャカチャと音を立てて、ジェディンが笑った。
「でなければ、逮捕理由が証明できないでしょうが。」
その後、塔は暫く政府管理下に置かれたが、最終的には子供の遊び場になった。
そこにいた、ディー5はほとんどが回収され、残った物は塔の管理人として働くことになった。
ついでに、ライト軍により改良され進化ディー4は今までは年を重ねることはなかったが、ロボット本人の希望により顔や体を老けさせる皮膚が開発された。伴侶が人の場合、自分が年を感じさせないということが離婚原因に目立ってきたからだった。
しばらくして、ジェディンは亡くなったと言うべきか、壊れたと言うべきか、いなくなった。
コザルドが引退しても、タームは舞姫を追い続けた。
(完)




