116話
どうする、って……。んなゲームみたいなこと、さらっと言われても……。
流輝は戸惑った。ただでさえ目まぐるしいほど様々なことが起こり、知り、味わい、感情がジェットコースター以上に交差していたというのに、ここに来てまだ重要なことがあった。
聖杯の儀を行う前と違い、今までの記憶がある流輝や琉生にはわかっていた。文献では歴代の「光の救世主」は消えたと記されているが、単に元いた世界へ戻っただけだ。
しかも今まではアリータ神が救世主を元の世界へ帰していた。創造神は世界や人間に干渉できないが、神託の儀や聖杯の儀の時のみ人間や「光の救世主」との干渉が許されていた。
だがそれがわかっているからこそ、戸惑う。困惑する。
もちろん元の世界へ帰られるのはとてつもなく嬉しい。この世界へ来てさほど経っていない頃、帰られないと聞いて引きこもったことすらあった。元の世界の両親や友人たちが恋しかった。
だが、元の世界以上長い時をここで生きてきた二人にとって、この世界はあまりにも大切なものが増えすぎていた。
「だ、だいたい戻ったとして、俺らの親は大人になった俺らをわかってくれるのか」
『それに関しては問題ありません。戻ると同時に年齢も来た時と同じ年齢に戻ります』
「そ、うなのか」
『アリータ神がルイと同化したので今回は私があなた方をお送りします。私はモリーナ神、アリータ神の親ともいえる存在。世界に干渉できないため生の遡りも不可能なアリータ神と違い、すべてに干渉できる私はあなた方の年齢を戻せます』
干渉できるが、できるからこそ基本的に一切双子の神の世界には関わらないアスルガルタの、感情の伴わない声ながらにこれは好意なのかもしれない。だが、それがわかったとしても躊躇しかなかった。
「考える時間をくれないか」
流輝の言葉に琉生も同意した。どちらの世界も二人にとって大切すぎて、今すぐどちらかを選べと言われているような状況に即決ができない。
『残念ですが今しか特にリキ、あなたは戻れません』
「な、んで……」
『あなた方を帰還させられるのはこの場所のみです。ですがこの神殿に入られるのは光の魔力を持つ者だけ。そのルールはアリータ神が決めたこと。私はそれに干渉しません。リキ、あなたは聖杯の儀で光の魔力を使い果たしました。この神殿を一度でも出ればあなたはもう二度と入られません。また、私が現れこの力を使うのも今だけです。要は時間を戻せるのも今だけとなります』
「そっか……。で、ルイは光の魔力保持者だから出入りできる、けどアスルガルタ自体、今だけ……」
流輝と琉生は「どうすればいい?」と頭を抱えた。
外では今も皆が待ってくれているのだろう。ローザリアやこの世界での両親、そして国王や今までここで知り合いとなってきた人々。
だが今ではもうセピア色となってしまっている思い出だが、元の世界の両親や友人たちにも会いたい。
「どうすれば……」
流輝が目を伏せると、琉生が「俺が……」と呟いてきた。
「ルイ?」
「俺は元の世界の父さんや母さんに会いたい。俺らがいなくなった後の父さんと母さんはどうなったのか、ずっと考えてつらかった。こっちからいなくなったら、こっちのお父さんやお母さんが悲しい顔をするだろうなって思った時も、父さんと母さんが頭に浮かんだんだ」
琉生は切なげに微笑む。流輝は何も言えなかった。
「リキ。兄さん。兄さんはこっちに残って。お父さんとお母さんのために。何より最愛の人が今はいるでしょう。ローザリアが泣くところ、見たくないんでしょ。ローザリアにはリキが必要だよ」
そう言いながら琉生は流輝の手を握ってきた。
「ルイだって必要だ。お父さんやお母さんもだけど、ローザリアだってルイのこと、どれだけ大切に思ってるか……」
「うん……でも、父さんと母さんも大切だし、忘れられない」
「なら俺だってそうだ! 俺も帰……」
「俺らは二人だ。で、二人を一度に失ったお父さんやお母さん、そしてローザリアはどうなる? どう思う?」
微笑みながらも琉生は泣きそうな顔で流輝を見てきた。流輝はまた泣いているというのに、あれほど泣き虫だったというのに、泣きそうになりながらも微笑んでいる琉生を流輝は抱きしめる。
モリスとカリナはすでに一度、本当の子どもを失っている。そして流輝と琉生を本当の子どもだと言ってくれていた。
また失い、悲しむ二人を想像することすらつらい。
そして何度も微笑みながらもふと不安そうにしていたローザリアを思う。
「俺はこっちの両親やローザリアを悲しませたくない。でも、元の世界の両親も、きっと俺ら二人を失って悲しんでるように思う。もしかしたら俺らがいなくなったと同時に俺らは最初からなかったことになったりするかなって思ったこともあったけど……今までの救世主の帰還を思うと、きっとなかったことにはならないんじゃないかな……」
だからね、と琉生は続けてきた。
「帰られるというなら帰ってあげたいし、俺自身も帰りたい。でもこっちの皆が悲しむのもつらい。リキ。だからお別れだよ」
「ルイ……」
「リキの方が昔の俺みたいに大泣きじゃない。大丈夫、だって俺らはお互いどこにいようが繋がってるだろ」
流輝を見て琉生も目に涙を浮かべてきた。そして手首を見せてくる。そこには白く光る「絆の輪」が薄れることなく刻まれていて、流輝も泣きながら手首を琉生に見せた。




