第2章『最強の居候は世間知らず』第4話~続・《神器保持者(アーティファクト・ホルダー)》の宿命~
なんだ急に!?暗くなった上に息が出来な…くもないけど、かなり苦しくなったぞ!?全く反応出来なかったけど…まさか、これが魔法ってやつなのか!?
「ぐむむぅ……?んぐ?……ぅ?」
(手足は…動く。地面の感触…はあるな。……じゃ、なんで顔だけ?)
「…トーマよ暴れるでない。落ち着いて耳を………いや、感覚を研ぎ澄ますのじゃ」
「!」
(………ヴィーチェの声がやたら近いな。感覚…?)
「………」
「………」
(………ん?何か人の声が微かに聴こえる気がするな?それに何だか良い匂い…がする………あとは………顔の周りが柔らかいなに、か…に)
「………………ぉい、ふぃーちぇ?」
「…ぁん♪くすぐったいのじゃ♪」
……!?
(ヴィーチェェェェェェェ!!?お、お前!いきなり何してんだぁぁぁぁッ!?)
「んぐぐ!?」
「ちょっ、トーマ…何処を…ぁん♪」
(ひぃっ!?す、すまん!…じゃなくて!!さっさと離せ!)
「…まぁ、待つのじゃ、ほれ。少し緩めてやるから…先ほど、聴こえた声の方角にもう少し耳を傾けてみよ」
言葉と同時に少し(顔の)拘束が緩む………いや、離せばいいだけだろうが!
「ふふふ♪」
「っ……!」
(くそ……ヴィーチェの顔が見れん、かといってこっちを凝視するわけにも……ダメだ……耳に意識を向けようとしても、コレの刺激が強すぎる!!)
「……ヴィーチェ、頼むから離してくれ……じゃないとこのままじゃ……」
「ほう?『このままじゃ』?どうなるのじゃ?なんなら、妾を押し倒してみるかの?」
ヴィーチェがニマニマしながら人の顔を覗き込んでくるので、最後の賭けに持ち込むため視線を合わせて……俺は頼み込んだ
「………血が出そう」
「……は?血?どこかぶつけた……訳は無いのぅ、妾のを押し付けとるだけじゃし。むしろ気持ちよかろ?」
(それが問題なんだよ!!)
「……………頼む、ヴィーチェ。このままじゃ……」
「む?なんなのじゃいったい?ハッキリ言うてみよ、まさか…妾のが気に入らんと申すのか?」
「……鼻血が出そう……」
「………………」
一瞬、周囲が静寂に満ち(たように感じたのは多分、俺達だけだろう………)た後にヴィーチェはゆっくりと俺をその非殺傷兵器Sランクのブツから解放する………
「……悪かったのぅトーマ…少々悪戯が過ぎたようじゃ、すまぬ。」
「…わかってくれたならそれでいいんだ、ヴィーチェ………」
(冗談抜きで鼻血、出そうだった……あぶねぇ…)
「と、とりあえず…微かに聴こえた声の方に向かってみようぜ?」
「う、うむ…ゆ、ゆっくりとじゃぞ?それと……神経に気を張り巡らせる事は出来るかの?」
「は?神経に?いや、試した事は無いが…出来るのかそんな事?」
(気のせいか、ヴィーチェの顔が赤い……)
「う、うむ。といっても、どんな強者といえども人族には出来ぬじゃろうがの」
俺達は、何とか互いに気を紛らわしつつ、静かに気配を潜ませながら歩みを進めていく
「…俺も人間、こっちでいうところの人族なんだが…」
「確かにトーマも人族じゃが、お主は《異世界人》じゃ。それに…あれほどの潜在的な気を扱える上に短期間で、その制御も身に付けたなら間違いなく中身も規格外じゃ。問題なかろう」
「……そうなのか?」
「うむ。前に族長から《異世界人》の気特化型の話を聞いた限りではトーマの資質は根本的に違う筈じゃ。ほれ、とりあえずやってみよ。もしも失敗しそうなら妾が何とかするから案ずるな」
「あ、あぁ…」
(神経に、ねぇ…。身体に纏わせるイメージをもっと細かくしてみれば良いのか?……こうかな『聴覚強化』!)
〔そろそろ、『トゥール族』の集落に着くんじゃねぇか?〕
「!?」
(聞こえた!男の声だ!)
「ほぉ?聞こえたようじゃなトーマよ?ならば、そのまま集中を緩めるでないぞ…あやつら、先ほどから…なかなかに面白い話をしておるからの」
「?…わかった」
〔それにしてもたかだか数十人の有翼種を狩るのに、これだけの頭数が必要なのかね?〕
〔全くだ…たかだか『黒い翼の女』を一人、生け捕れば良いだけなんだろう?〕
〔あぁ、他は好きにして良いってさ〕
〔マジかよ?『トゥール族』なんだろ?有翼種の中でも美形揃いって聞いたぞ〕
〔あぁ、収集家の連中に売り付ければ一年どころか数年は遊んで暮らせるほどの金になるぜ?〕
「……聞いてて気分悪いな、あの連中…」
「同感じゃ。じゃが…ちと数が多いのぅ?声と足音からして、30から50未満…かのぅ?」
「へぇ……そこまでわかるのか?」
「うむ。トーマも慣れればわかるようになるじゃろ……それよりも問題は」
「問題は3つ、目的が最初から《黒い翼の女》…つまり『ミューレ』であることと、この金属音から察するに相手が『武装した集団』であること…最後に転々としているはずの『集落の場所が正確に知られている』ってところか?」
「……ふふ、頼もしいのぅ?流石は妾の婿になる男じゃ」
「…今はふざけていい状況じゃないだろうに…まったく」
「いや、本気なのじゃが…まぁ、良い。それよりも気になるのがまだある。」
「なんだ?」
「1つ、ミューレが今何処にいるか…じゃ。おそらく、集落にいるとは思うのじゃが…万一、食材調達か薬草採取などで森に来ておるなら些かマズイのぅ」
「……可能性はあるな。少し『聴覚強化』を強めてみる。ミューレの声の判別くらいなら何とか出来ると思う」
「うむ、頼んだ。妾は奴等の動向と言動を細かく観察するとしよう。場合によっては奇襲を仕掛けて先手を取らねばならぬしな。」
俺達はそれぞれ『聴覚強化』を更に強めて事態に備える……やれやれ、まさかこんなことになるなんて……
「わかった。で、気になることの続きは?」
「…先程からウルリカの反応が掴めぬ。余程、遠くに行ったのかウルリカらしき声も気配も感じぬのが引っ掛かる」
「……!」
「まぁ…ウルリカは妾の次、とはいえ部族最強の戦力じゃ。上級ならともかく、あのような中堅クラスの連中が相手なら遅れは取らぬよ」
(…とはいえ、油断は出来ぬな。トゥール族の《神器保持者》には《守護者》が付いておるのは知られておるしなぁ…と、すれば)
「トーマ、すまぬが『聴覚強化』で周囲を警戒しながら集落まで戻ってくれぬか?」
(こやつらは…捨て駒で間違いあるまい、ならば本命は何処に潜んでおる?…《守護者》を抑え込む、もしくは倒すための本命はどこじゃ…?)