第2章『最強の居候は世間知らず』第5話~襲撃。ヴィーチェ編①~
サブタイトル修正&文章の後半部分を加筆修正しました!
「……ヴィーチェはどうするんだ?」
(もしかしなくても一人であの人数を…やる気、だな)
「ふふ…案ずるなトーマ、あの程度なら問題は無いのじゃ。それよりもミューレが心配じゃ、急いでくれぬか?妾は奴等を片付けた後に森を調べてから集落に戻る。ウルリカに関してはどちらが見付けても集落に行かせる、としようかの」
「わかった…くれぐれも無茶はするなよ」
「トーマに心配されるとは…嬉しさで百人力じゃ♪腕が鳴るのぅ!」
「…まったく、じゃあ俺は行くからな?」
身体に気を流して『身体強化』を発動すると、冬麻とヴィーチェは背中を向け合う
「うむ。あちらは任せたぞ?」
「あぁ、任された。問題無い。こちらはヴィーチェが居るから心配しないからな?」
「殺生じゃのぅ…このような時、男女は熱いヴェーゼを交わすものなのじゃろう?」
「…………」
(そんなことするのはドラマぐらいだ)
「ふふ…まぁよい。事を終えたら報酬として貰い受けるとしようかのぅ♪」
「依頼されたの俺だよな!?」
「なら、妾の初めてを捧げようかのぅ♪」
「……どっちにしても変わらないんじゃないか?」
「ふっふっふ!わかっておるではないか♪」
「……い、行ってくる」
(ミューレ達を巻き込んででも、うやむやにしてやる!)
「……けして、逃さぬぞ?」
(ミューレ達を巻き込めば、いきなり一夫多妻の出来上がりじゃ。後は、じっくりと本妻の座をいただくとするかのう♪)
(ひぃ!?さ、寒気が……)
「では、妾も行くのじゃ」
「…お、おう!」
(と、とりあえずはミューレの無事の確認及び保護が最優先だな)
気を取り直して集落の方向へ最短距離を突っ走るべく体制を整え、『身体強化』を…特に脚力に気を注ぎ込む
「すぅ…はぁ…」
(よし…このぐらいなら数時間は余裕で維持できるな)
「っ!」
準備を終えた瞬間、俺は一気に駆け出す。まだ距離があるとはいえ、あの武装集団に見付かっても気にする必要もないのだから時間をかけて集落に戻るわけにはいかないからだ。
「っ!?おい!あれを見ろ!」
「ちっ!少し遠いが間違いなくありゃ人影だ!トゥール族の斥候か!?」
「仕方ねぇな…こうなりゃ、向こうが逃げ出す前に一気に攻めるぞ!後続の馬を引っ張ってこい!身軽な奴は先に行け!」
「おう!」
「わかった!」
「いやはや、なかなかに手慣れた指示じゃのぅ?野党の寄せ集めかと思うたのじゃが…何処かの傭兵くずれじゃったか?」
「「「「!?」」」」
「何者だ…女?その背の翼…トゥール族か?」
片手剣、両手剣、槍、斧、籠手……様々な武器を手に傷の付いた鉄や鋼製の軽装鎧から身軽な皮や布製の防具、見た目からして前衛職と斥候や連絡係と思われる集団の前に現れたのは……白い一対の翼を背に備え、身を守る為の防具一つすら身に付けず上物と思われる真紅の布製の衣類のみと…正しく寸鉄すら身に帯びぬ丸腰の女だった。
「いかにも。汝等が付け狙っているトゥール族が一人、名はヴィーチェ=エルトリンデじゃ。短い付き合いになるから覚えなくとも構わぬぞ?」
ヴィーチェの名乗りに男達の纏う空気が変化する…まさに戦場に馴れ親しんだ者達が纏う空気、そのものに…
(む?こやつら、もしや…)
「……おいおい」
「こいつぁ、当たりだな…」
「あぁ、エルトリンデってことは《黒い翼の女》の《守護者》だろ?」
「ははっ…こんな美人だったのかよ?……殺すのは勿体無いな」
「…だな」
「てめぇら!何してる!さっさと囲え!捕縛陣、参ノ段!斥候共はさっさと団長と他の部隊長を呼んでこい!こいつが本当にエルトリンデ…《白い翼の魔女》なら俺らだけじゃ倒せんぞ!」
「「「「っ了解!!」」」」
命令を受けた連中が一気に指示通りの動きを見せたことにヴィーチェはやや感心した。と、同時にやはり相当の大物が控えていることにも…である
「ほぅ…」
(こやつらのこの動き…もしかしなくても、現役の傭兵団かのぅ?妾の存在を知ってる感じからしてミューレ捕縛を依頼した黒幕もそれなりの大物みたいじゃな…面倒な事になったのう)
「…さて、と《白い翼の魔女》さんよ?少々、俺らに付き合ってもらうぜ?」
見れば先程の指示を出した戦士風の男も両手剣を構えてこちらを見据えていた。
「ほうほう?さぞや名のある戦士と見受けるが、名乗りはせぬのか?」
ゆらり、とヴィーチェから溢れ出す大量の気に周りが息を呑む
「…っ!ガルディア傭兵騎士団第3部隊副隊長ジオ=グラハムだ。」
名乗ると同時にジオの身体にも気の輝きが宿り、続くように他の騎士達も気を纏い始める
「ガルディアの傭兵騎士じゃと?ならば団長はマーベリックの爺じゃな?だとするとおかしいのぅ…?あやつがこんな愚かな事をするとは思えぬが……」
ヒュンッ
「ほい」
ヴィーチェが戸惑いをみせる瞬間に木々の奥から矢が放たれたが、背を向けたまま首を傾げただけで掠りもせず避ける
「……自然体からの死角射撃を容易く避けやがるか、化け物め…」
「化け物!?どうみても見目麗しい絶世の美女じゃろうが!!訂正せぬか!」
ヒュンッ
バッ
ブンッ
「ぬっ?」
再び放たれた矢に加え、片手剣と槍使いがヴィーチェに襲いかかる
「甘い甘い」
ドンッ!
「ぐぁ!?」
バキッ!
「ごふっ!?」
矢を再び視認もせずに避け、続く傭兵達の攻撃も受け流しつつカウンターの打撃を叩き込み、大の男を一撃ずつで気絶させる
「気配は掴んだ。移動しても無駄じゃよ?【不可視の魔弾よ・眼に捉えし・愚かな狩人を貫け】」
虚空へ向けたヴィーチェの指先から、一瞬の光が煌めく
「ぐぁぁ!?」
森の奥から悲鳴がこちらまで聞こえ、そのまま気配が一つ消失するのをヴィーチェは感じると再びジオへ向き直る
「妾をどうにかするなら近接に持ち込むしかないとマーベリックの爺は教えてくれなんだか?」
「……っ、違う」
「違う?何がじゃ?」
「……ヴォルフ=マーベリック様は引退なされ、その座はアルベルト=マーベリック様が引き継がれたのだ。」
「なぬ!?アルベルトじゃと?戻ってきおったのか!?」
(どういうことじゃ?アルベルトは数年前に勘当された筈じゃぞ?………む、この気配…新手かの?思ったより早いのぅ)
「グラハム副隊長?貴様、敵と何を話していやがるんだ?」
聞いた覚えのある名を耳にすると同時に森の奥から複数の気配を感じ取る。
そして現れたのは飢えた狼のような感じを思わせる上質な鎧に身を包んだ一人の男と、周りに付き従う騎士達だった。
「なんじゃ、この下品な生物は?眼が穢れてしまうから見たく無いのじゃが……」
「っ!この女!?誰に向かって……」
「…………アルベルト団長」
「はぁ?……このナマモノがマーベリックの息子じゃとぉ?いくらなんでもコレは無いじゃろうに………後を継がせるなら娘の方がどう考えても良いと思うがのぅ?」




