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第9話:迫り来る影

 百舌子は朝食に起きてこないリィンを呼びに部屋へ向かった。


 扉を薄く開けると、白銀の髪が枕の上に広がって、窓から漏れる朝日に照らされ静かに煌めいている。


「……リィンちゃん、起きて?」


 小さな声で呼びかけたけど、返事はない。


 代わりに、寝息の合間に、ぽつりと漏れた。


「んんぅ……神父様……?」


 百舌子は息を止めた。神父様。この教会にそう呼ばれている人はいない。


 リィンのまつげがゆっくりと震えて、目が開いた。まだ夢の残り香が漂うような、ぼんやりした瞳で百舌子を見上げる。


「……あ。あなた……」


 リィンは体を起こそうとして、角が天蓋に軽くぶつかり、カチッと音を立てた。


 彼女はそれを気にする様子もなく、ただ小さく息を吐いた。


「……夢、見てた」


 声は低くて、少し掠れている。いつもより、ほんの少しだけ柔らかい。


 百舌子はベッドの端に腰を下ろした。リィンの尻尾が、布団の上でゆっくりと揺れている。まるで、まだ夢の中に半分いるみたいに。


「おはよう、よく眠れた?」


「うん……こんなにゆっくり眠れたのは、本当に久しぶり……」


 リィンは答えながら、百舌子の隣に座り直した。


「……神父様、って?」


 百舌子は勇気を振り絞って聞いた。リィンの瞳が、一瞬だけ遠くを見る。


「うん。あなたによく似てる人」


 リィンは百舌子の顔を、じっと見つめた。


「孤児だった私に、居場所をくれた人……。優しい、ううん優しすぎた人……。それでいて、常に自分を責めていたような人……」


 懐かしむようなその眼差しに、百舌子は惹きつけられた。


「……私を不死にしてしまった人……」


 確かに百舌子は自分を責め続けている。不死にする術を知っていたなら、使ってしまうかもしれない。でも一つだけ否定しておくことがあった。


「……私は、優しくなんてないよ」


 リィンの目がその一瞬だけ丸くなった。そして少しの間沈黙して、呟いた。そしてリィンの冷たい指が百舌子を頬を撫でた。


「……ふふ、あなたは彼のようにはなれない」


 普段は無表情なリィンが、かすかに笑みを浮かべている。その不気味なまでに優しい声色が、百舌子の耳に残り続けた。





 教会の裏庭で、子どもたちの笑い声が響いていた。


 ユリナはいつものように厚手のローブを羽織り、大きな翼を隠して座っている。でも、子どもたちはそんなことお構いなしに、彼女の周りをぐるぐる回ったりして、無邪気に騒ぐ声が響き渡っている。


「翼見せてー!」


「耳触っていい?」


「尻尾ふさふさー!」


 ユリナは困ったように、でもどこか嬉しそうに微笑んで、翼の端を少しだけ広げてみせたり、尻尾をそっと揺らして子どもたちを喜ばせたりしている。


「ユリナお姉ちゃん、今日もきれいだね!」


 子どもの一人がユリナの膝に飛び乗って、無邪気に笑っている。遠目からでも、ユリナさんの猫耳が力なくへたれているのが見えた。そんな可愛らしい様子に、百舌子は思わず口元を緩めた。


 百舌子は少し離れたベンチから、その様子をじっと見つめていた。子どもはすごい。大人たちが感じている壁を、あっさりと崩してしまっている。


「モズコお姉さん!」


 不意にかけられた声に振り向くと、いつの間にか百舌子の隣に少女が座っていた。背の高さはリィンとさほど変わらない十代前半に見え、他の子たちよりも少し大人びている。


「トモリとお話ししませんか?」


 トモリは、一つ結びにしたブロンドの髪を揺らしている。明るく無邪気に見えるその瞳の奥に、でも百舌子は何かを感じた。うまく言葉にできない、空虚さのようなもの。


「いいけど、みんなと遊ばないの?」


「はい、モズコお姉さんに聞きたいことがあって……。モズコお姉さんは女神様と話したことがあるんですよね?どんな感じの人でしたか……?」


 トモリはグイッと顔を近づけ、期待するような眼差しで百舌子を見つめた。


「女神様?それってエリスちゃんのことだよね……、うーん優しいけど、少し冷たい?そんなイメージかな……」


「優しい……ですか」


 トモリの笑顔に一瞬影が差した。


「ヤツらは人を救わない……」


「えっ?」


(ヤツら……?エリスちゃんのこと? ……救わないってどういう意味? そもそもどうしてそんなことを聞くの?)


 頭の中で疑問がぐるぐる回り始めて、思わず口を開きかけた瞬間——


 パチンッ!


 トモリが両手を軽く叩く音が、耳元で小さく弾ける。百舌子の思考はそれでかき消された。


「なんでもないですよー」


 トモリはすぐにいつもの笑顔に戻り、おもむろに立ち上がった。


「そろそろ行きますね、ユリナお姉さんが困ってますから。では、またゆっくりお話ししましょうね、モズコお姉さん♪」


 百舌子は手を振り離れていく少女が、子どもたちに混ざっていく姿を見送ることしかできなかった。


(あんな子……いたっけ? 昨日も一昨日も、子どもたちの中にいなかったような……)


 そう感じた違和感が、溶けるように消えていった。





 微睡むような朝の名残の静寂は、ティエルの騒がしい声で終わりを告げた。


「調査隊が到着したみたいよ。街が賑やかすぎて逃げてきちゃった」


 セラがあなたも人のこと言えないわよ、と言わんばかりの顔をして呆れている。百舌子はそんな二人を見て自然と笑みを浮かべた。


「今は現場の調査に行ったみたい。ライルさんが同行してたよ」


 ティエルが遠慮なしに椅子に座り、お茶を強請った。


 自分の力のこと、ユリナとリィンのこと、これから何をするのか、帰る場所もわからない。そんな今、誰かに説明することになったらどうすれば。


 朝から降り積もる不安を、百舌子は胸の奥に押し込んでいた。




 その不安は教会の扉を叩く音によって、急激に迫ってくるようだった。


「あのー、すみませぇん……」


 教会の入り口から、あまりにも覇気のない声が漏れてきた。


 セラが怪訝な顔で扉を開けると、そこには黒いローブを羽織った若い女が立っていた。背はそれほど高くなく、無造作で乱れた青い髪をしている。整った顔立ちをしていて、彫刻の入った太い銀縁の眼鏡をかけている。どこか全体的に影が薄い。抱えている分厚い書物に描かれた竜の絵が、彼女よりも存在感を放っている。


「えっと……魔竜の調査に来た、宮廷魔術師のミレイユという者なんですけど。……ちょっと、お話を聞かせていただけませんか?」


 ぼそぼそとした、聞こえるか聞こえないかのような声だった。


 セラが振り返り百舌子たちを案じるような顔で見た。百舌子を安心させるように、ユリナの尻尾が腕に寄り添った。リィンも無表情に百舌子を見つめ、大丈夫だと告げている。


 百舌子は大丈夫だと自分に言い聞かせ、無言で頷いた。


 


 ユリナとリィンの姿を見たミレイユは、警戒と驚愕が混じったような顔を見せ、本を持つ腕に力が入るのがわかった。しかし百舌子たちの寄り添う姿を見て、怯えたような顔を少し緩めた。応接に通されたミレイユは、出されたお茶に礼も言わず、書物をどかりとテーブルに置き、唐突に切り出した。


「あの、魔竜を討伐したのはおそらく、あなたたち三人、ですよね……」


 ミレイユが百舌子たちを順番に眺めた。百舌子は黙ったまま目を伏せた。


「黒い髪に翼の少女……うん、本当に噂通りだね……んん?」


 眼鏡の奥の目が、じっとリィンの上で止まった。


「……ね。ちょっと見ていい?」


 ミレイユはリィンの前に無言で立つと、そのまま顔を近づけ、左右からリィンの喉元を眺め始めた。ミレイユが勝手に首元の鱗を撫で始めても、リィンはびくりともせず、ただ無表情で彼女を見返している。


「……うん、やっぱり。これって竜の鱗だよね?それにその尻尾も竜のもの」


 独り言のようなその呟きに、百舌子はユリナと顔を見合わせた。


 ミレイユは持ってきた分厚い本を、テーブルに広げた。そこには竜の特徴などが細かく描いてある。


「王都近辺で撃退した魔竜の特徴をね、記録してたんだけど……これ見て、鱗の特徴が一致してる」


 記録されている特徴と見比べた。ミレイユはハッとしたような顔で、リィンから少し距離を取った。


「あの……それでね、間違ってたらいいなと思って聞くんだけど……、君ってあの時の魔竜じゃないよね?」


 ミレイユは少し震えながら、背負っている杖に手をかけている。


「……違う。私は私」


 リィンは「これ以上説明ができない」と言いたげな顔で百舌子とユリナを見上げた。百舌子は途切れ途切れになりながら、必死に今わかっている刻印の力の説明をした。




「なんだぁ、よかったぁ……」


 ミレイユは緊張が解けたのか、倒れるように椅子に座り込んだ。その様子を見て、百舌子も少し肩の力を抜いた。


「でも、すごいね、こんな姿の人初めて見たからさ……。あ、もう少し詳しく見てもいい?」


 黙って頷いたリィンの喉を、検診するように触った。ミレイユが眼鏡を押し上げると、縁が少し発光した。


「……すごい……喉に竜の軸椎の形状が残ってる。喉から背中にかけて竜の骨格に近くなってて……待って、背中に放熱膜の形状も一致してる……?ということは魔力を通せば……でも……もしかしたら……」


 百舌子は知らない単語の連なりを必死に飲み込もうとした。ユリナを見ると、彼女も首を小さく振るだけだった。


「あ、ごめん、またボクの悪癖が出ちゃった……、えっとねリィンちゃんだっけ、の軸椎、首の骨がね、魔竜の特徴と一致しててね。竜種はこの軸椎の形状が、他の種族と根本的に違うんだけど、それが刻印と同じ役割を持つんだよ。種として魔術みたいな息吹を吐けるのは、そのせいだって言われていて……そうだ、ちょっと外に出てもらってもいいかな」


 ミレイユの説明を飲み込めないまま、百舌子は彼女を裏庭に案内した。


 


「……ちょっと見てて」


 ミレイユはおもむろに背中の杖を手に取ると、空に向けた。


『渦巻け』


 杖の先から炎が立ち上がり、渦を巻くように噴き出した。竜の息吹、戦った魔竜のものとはまた違う炎。


 ミレイユは特に気にした様子もなく杖を戻した。


「すごいでしょ。これは竜の軸椎を加工して作られた、竜大戦時代の遺物。杖の中の構造が刻印と同じ働きをするから、魔力を流せばこういう現象が起きる。天然の魔術陣とも言えるんだ。……今言った話の補足として見せたかっただけ」




 ミレイユはリィンに視線を戻した。


「たぶん君も、竜の息吹を吐けると思う。でも人間の身体でそれをやったらどうなるかまでは保証できないかも……」


 リィンの瞳が、ほんの少し揺れ、喉に手をそっと当てた。


「ここからが本題なんだけど……ボクたちが探している魔竜の特徴と一致している君がいて、魔竜の亡骸を使ってその姿にしたのが百舌子ちゃんの力なわけで……。調査隊としては協力してもらいたいなぁと思うんだけど……」


 ぼそぼそとした声のまま、でもその目は真剣に百舌子を見つめていた。


「その……団長、今回の調査隊の隊長に説明する必要があって……。悪いようにはしないので、ついてきてもらえないかな……?一応仕事というか公務なのでお願いします……」


 このままここに籠っていても、隠し続けることはできない。


 百舌子とユリナは顔を見合わせ、それからリィンを見る。リィンは相変わらず無表情で、でも小さく頷いた。


「……わかりました。行きます」





 街に出ると、調査隊の存在を肌で感じた。紺色の甲冑を纏った騎士たちが数名、大通りを巡回している。その目がユリナとリィンを捉えると、一人が手に持つ槍をわずかに引き寄せた。


「待って待って。ボクが連れてきた人たちだから」


 ミレイユが騎士の前に出て、狼狽して手を振り慌てる。その迫力のなさで、本当に説得できるのか百舌子は不安になったが、騎士たちは渋い顔をしながらも道を開けた。


「……魔術師殿のご同伴であれば」


 ミレイユは振り返ってそっと百舌子に耳打ちした。


「騎士の人たちって怖いよね。でも、みんな真面目なだけだから、……ボクも緊張するとああなっちゃって……」


 百舌子にはその気持ちが痛いほどわかった。また少し、この人に対する警戒が緩んでいく。




 領主邸に通された廊下の奥から、低い声が漏れ聞こえてきた。


「我々もそちらの話が嘘などとは思っていない。しかし、残っていたのは血痕だけだった。それが竜のものであるのも確認済みだ。では亡骸はどこに」


 ライルが困ったようにしどろもどろに答えている。


「それが……消えちまったとしか言いようがなくて。申し訳ない、俺にもよくわかってないんだ」


 扉越しにそんな会話が聞こえる。


「失礼しまぁす……」


 ミレイユが小さい声で、ゆっくりと扉を開けた。


 室内には調査隊の騎士が数名と、困り果てた顔のライルが立っていた。そして上座に、青みがかった銀の礼服を纏った、背の高い男が座っている。四十がらみで、白髪が混じる髪を後ろに撫でつけている。彼は鋭い眼光でミレイユを一瞥した。


 それに少し怯んだミレイユだったが、ここに百舌子たちを連れてきた経緯を手短に説明し始めた。


 百舌子は、その説明を聞きながらそっと室内を見回した。




「……ほう」


 上座の男が口を開いた。その視線は、百舌子へとまっすぐに向かった。


「あなたが噂の。はじめまして、あなたの噂は聞き及んでおります」


「えっ、……わっ、わた、し!?」


 百舌子は思わず自分を指差してしまう。予想していない注目に頭が真っ白になりそうだった。


 男は姿勢を正し、深く礼をした。


「私の名はセルゲイ。王都騎士団の団長をやらせていただいている」


 百舌子たちも慌てて頭を下げる。


「して、そちらの二人は?」


 その場全員の視線がユリナとリィンに集まる。


 ユリナはローブのフードを静かに下ろした。


 部屋の隅に立つ騎士の一人が、ユリナの翼を正面から見て唾を呑む。別の一人は、リィンの角と隠しきれない尻尾に気づいて半歩下がった。


 セルゲイは何かに気づいたように背筋を正した。


「あなたの名前は?」


 セルゲイの腰がわずかに低くなったように見えた。


「……ユリナと申します」


「ユリナさん。あなたのお顔、どこかで拝見したような気がするのですが」


 室内の空気が、ぴんと張った。ユリナの尻尾が、ローブの中でひそかに動きを止める。


「今はその話はやめておきましょう」


 ユリナの声は静かで、揺るがなかった。


 セルゲイはしばらくユリナを見つめた後、小さく息をついた。


「……そうですね。失礼しました」


 彼は視線を百舌子に戻した。その目に宿っているのは、敵意ではない。何かを量るような、冷静な眼差しだった。


「本題に入りましょう。今回の魔竜討伐、及び消滅について、事情を教えていただけますか。できる範囲で構わない」


 ライルが苦々しい顔で百舌子を一瞥する。どこまで話すか、その判断は百舌子たちに委ねられているようだった。


 百舌子は手を膝の上で握りしめた。ユリナが、翼をそっと百舌子の背に添えた。押し付けるわけでも、引き留めるわけでもない。ただ、そこにいるという温もりだけを伝えてくる。


 セルゲイは相槌も打たず、百舌子の途切れ途切れの話を聞いてくれていた。


 


「なるほど」


 セルゲイは静かに立ち上がり、窓の外に目を向けた。


「生命の再構成……それがもし本当だとしても、我々としてはすぐに納得するわけにはいかないな。なにより証拠が足りていない。ミレイユが言う通り彼女が魔竜の力を持っているのだとすれば、我々には警戒する理由がある。これはわかっていただきたい」


 厳しい言葉とは裏腹に、セルゲイは優しい顔で百舌子の目をまっすぐと見た。


「勘違いしないでいただきたいのは、今回の件で、私はあなたたちを責める意図はないということです。むしろ我々の不手際を詫びたい。被害が出る前に討伐して頂いたことに報奨を出すべきと考えているほどです」


 ひとまずのところ最悪の結果にはならないと、百舌子は肩の荷が降りたようだった。


 


「しかし、我々が撃退した魔竜は、相応の傷を負っていたはず。まさかこの街まで来ているとは」


 一つ違和感がある。百舌子たちと遭遇した魔竜に傷なんてなかった。


「傷なんてあったっけ……」


 百舌子の呟きにミレイユが反応した。


「それなら説明できるよ。魔竜のすごい特性といえば、そう、脱皮。鱗に傷があっても再生するって能力があって。君たちが遭遇した時には脱皮して鱗が硬化して直後で気が立ってたんじゃないかな。体力も消耗してただろうから君たち四人で倒せたのも説明できると思うよ。あ、そうか。脱皮の痕跡を見つけられれば証拠になるかも、これはじっとして——」


 セルゲイが咳払いをして、興奮気味に話すミレイユを制した。ミレイユは大人しく椅子に座った。百舌子は少し肩をすくめ、なんとも言えぬ気まずさに視線を泳がせた。沈黙の続く空気が重たい。


 


「では、その方向で調査しよう。我々は調査のために少しの間この街に滞在するつもりだ。その間、君たちは観察対象となる。ミレイユ君、任せてもいいかな」


 ミレイユは驚き持っていた本をばら撒いた。その本を慌てて拾い直し返事をした。


 百舌子は観察対象という言葉に、少し不安を覚え、拳を少し強く握る。


「それから、彼女たちの記録上の呼称が欲しい。異形の人間と呼び続けるわけにもいかないだろう……こちらにも報告義務がある。中途半端な内容で済ませるわけにはいかないのでね」


 名前をつけることそれ自体が、彼女達を人間でないと認めてしまうようで、百舌子は申し訳ない気持ちになってしまった。百舌子は彼女たちが人間であると知っている。でも、他の人は違う。セラもティエルも受け入れてくれたけど、元々人間だったことを知っているわけではない。


(伝説や物語に出てくる混ざり物の生き物か……)


「……キメラ」


 百舌子の小さな呟きは、意外にも全員の耳に届くほど響き渡った。


「……キメラ、とは?」


 セルゲイの発した疑問を、その場の全員が浮かべた。百舌子に集まる視線で、心拍が激しさを増していく。


「あ、いえ、あの……複数の生物を合成した存在、みたいな意味で……」


 百舌子が慌てて補足するも、皆が知らない言葉に首を傾げている。その中でミレイユだけが頷いていた。


「いいね、キメラ……名前なんて分かりやすくするだけのものだから……君が分かりやすいと思ったものでいいと思うよ……」


 ミレイユが書物を抱え直しながら、ぼそりと言った。


 百舌子がユリナの反応を見ると、彼女は百舌子に微笑みかけた。アリアとリィンが両隣に立ち、百舌子の腕を支えている。


「……それで、構いません」


 百舌子はすこし、胸を張って答える。


 二人に支えてもらえればすこし自信を持てる。でも、それだけではダメだと思った。


(私が強くならないと、彼女達を守れるように)


 


 しばらくその後について話した後、そのままこの場は解散となった。


 立ち上がり帰ろうとした時、去り際にユリナがセルゲイに耳打ちをしているのが見えた。


 アリアの表情は、真剣でこれまで見たことがない目をしていた。

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