6.ええと、私、お金が大好きでして
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燕星が蘭華の顔を凝視する。
蘭華は爛々と瞳を輝かせて頬を紅潮させており、その表情は一見するとまるで恋する乙女のように見える、のだが。
予算? 値段?
燕星の耳に入ってきたのは愛やら恋やらそういった感情の話ではなく、下世話な金勘定の話のように聞こえて、いささか面食らう。
ぽかんとしている燕星に、蘭華が補足するように説明を始めた。
「ええと、私、お金が大好きでして」
「何の話だ」
「ついつい見たものの金額、考えちゃうんですよ。皮算用っていうか、そういう感じで」
「待て」
「その計算がだんだん早くなって……今はもう人の顔がお金に見えると言いますか」
「話を続けるな」
燕星が手のひらを蘭華に向けて制止した。
蘭華は本人の申告通り、金が何よりも好きな少女だった。
好きというのでは生ぬるい。
もはや愛していた。恋焦がれてうつつを抜かしていた。
恋に恋するお年頃を迎えぬまま、金に恋する少女が誕生していたのだ。
もとが庶民、どころか孤児という貧乏な生まれである。
人間は裏切る。でも金だけはいつも、蘭華を裏切らなかった。
金さえあれば、飢えることもない。寒さに震えることもない。裸足で道を歩かなくてもいいし、怪我や病気をしたら薬が買える。
金はいつも、蘭華の味方だったのである。
好きが高じて、いつしか蘭華は物の「値打ち」が見えるようになった。
いつも金勘定ばかりして「これいくらくらいするんだろう」と考えていたものが習慣になり、今では目にした物や人がどのくらいの値打ちなのか、瞬時に脳内ではじき出せるまでに成長したのだ。
そして幸か不幸か、蘭華の身近には、「そんな下品なことをしてはいけません」と叱ってくれる大人はいなかった。
極めてみればこれは便利なもので、滅多なことでは偽物に騙されなくなった。だが、このある種の特殊能力と言ってもいい特技、人に知れたら悪用されるであろうことも蘭華はよく理解していた。
兄と父以外には少し目利きが出来る程度にぼやかしつつも、誰に咎められることなくのびのびと日々損得勘定に励んだ結果……今では誤差一割以下まで制度を上げていた。
もちろん蘭華自身の処世術として、必要のない場面ではほいほい値打ちについて口にしない程度の配慮は身に着けている。特に人間の値打ちについては、言及しない方が良い場面の方が多い。
だがそれでも、そんな蘭華でもどうしても誰かに言いたくなってしまったのだ。
それくらいに、帝の「値打ち」は衝撃的だった。
「やっっっばいですね、帝。目が合っただけで『元取ったな』って思っちゃいました」
恍惚とした表情で頬を染める蘭華。
げっそりした顔で蘭華を見下ろす燕星。
その視線に気づいて、蘭華があっと声を上げた。
そしてぎゅっと両手で拳を握ると、まるで励ますように言う。
「燕星さんもなかなかいいお値段ですよ! 何たってお若くて五体満足な男子、健康的な体格でお家柄もいいですからね!」
燕星は思った。やはりあいつの妹か、と。




