65.無礼講はいつもじゃないですか
今日で毎日更新週間はおしまいです! お付き合いいただきありがとうございました!
次回からはいつも通り水・土の週2回更新に戻ります。
四人目の四季の宮も現れて、お話もそろそろ佳境に入りました。
引き続きあたたかく蘭華たちのことを見守っていただけたら幸いです!
「いや~!! 楽しい会であったの!!」
冬の宮がにゅっと姿を現した。
その顔は言葉のとおり楽しげで、心なしか頬のあたりが艶々しているような気すらする。この肌ツヤは明らかに年下のそれである。
どこか含みのある表情でこちらを覗き込む冬の宮に、何を言われるのだろうかと身構えて、蘭華がごくりと息を呑んだ。
「帝様。この後は宴を用意しておりまする」
「宴?」
「ぬしの歓迎会じゃ」
冬の宮がにやりと笑って、蘭華の背を押した。
帝を前にしてもこの落ち着きっぷりで、笑顔にもどこかこなれた雰囲気がある。
身分が高い女の子というのはこんな感じなのだろうかと考えていた蘭華の思考は、次の言葉で引き戻された。
「妃たちから相談されておったのじゃ。堅苦しい儀式の場ではなく……もう少しくだけた場で帝を歓迎したい、との」
「へ」
蘭華が気の抜けた声を出した。
声だけでなく身体からも力が抜ける。
確かに貝合わせの会は策略があっての提案なのだとは思っていたが――歓迎会をするための、口実?
そんな平和なことがあっていいのか?
みんな、大丈夫そ? 余のこと暗殺しなくて大丈夫そ??
「気を反らすための会じゃったが、こちらはこちらで楽しめたじゃろ」
不意に蘭華の後ろに目を向けた冬の宮につられて、視線を移す。
紫雲が志勇に文句を言いながら、晴暁と一緒に使った貝を片付けていた。
「帝様。わしはここに暮らして長いが……こんなにも妃から愛されておる帝を知らぬよ」
「愛って、そんな」
「誰とも契っておらぬのに、不思議なものじゃ」
ばっと勢いよく冬の宮を見た。
その笑顔はやはり老練と言っても差し支えない、落ち着いた空気を纏っている。
戸惑いながら、蘭華はすーっと視線を反らした。
「な、ナンノコトデスカ」
「ほほ、さて何のことじゃろうの」
冬の宮が袖で口元を隠しながら笑う。
「ささ、参りますぞ、帝。冬の宮で皆が待っておる」
冬の宮に導かれるままに、蘭華一行は冬の宮へと足を踏み入れた。
最も身分の高い妃の御殿だけあって、どことなく荘厳で重厚な、落ち着いた調度品が多い。
さすがは長く後宮にいると噂の妃だけあって、自分好みに仕上げているようだ。
廊下から見える庭木も手入れが行き届いているし、白土の地面にも品の良さがある。
そこまで考えて、ん? と蘭華の脳裏に疑問がよぎる。
そういえば前に志勇からは、一番長く後宮にいるのは冬の宮、だと聞いた気がする。
だが、今蘭華の目の前にいる冬の宮は年端もゆかぬ少女に見えた。これは、一体――
「あ、来た来た!」
「帝っち~!」
呼ばれて、はっと顔を上げた。こちらに駆けてくるのは、蘭華が見知った顔ばかりだ。
妃たちに両手を取られたままで、大広間に入る。
「帝! ようこそ、後宮へ!」
賑やかな声が蘭華を出迎えた。
豪華なご馳走が並び、ゆったりと響く管弦楽に、華やかに飾り付けられた会場。
妃たちの顔を見回す。
女子十四楽坊として全国行脚をしている妃たちに、恋文の相談に乗っている妃たち。
春の宮で失せ物探しを手伝った妃に、いつも秋の宮で食事を運んでくれる妃。帳簿を借りに行って怖がらせた女官たちもいる。
皆が笑顔で、蘭華を迎えていた。
その顔を見回して――蘭華は後ろを振り返る。
大きく口を開けて元気に笑っている志勇、人の多さに顔を青くして今にも倒れそうな晴暁、ふんとそっぽを向いて不機嫌そうにしている紫雲。
やれやれという顔で蘭華を見下ろして――ほんの少しだけ口元を緩めている、燕星。
冬の宮に視線を戻すと、彼女はにんまり笑って、両手を広げた。
「ささ、今日は無礼講じゃ! たんまり飲んで歌って、騒ぐとするぞ~!!」
冬の宮の声と、妃たちの拍手が響いて――蘭華は、無礼講はいつもじゃないですか、と破顔した。




