プロローグ
新作の更新を始めました!
和風×中華風のなんちゃって後宮コメディです。
一応逆ハーレム要素ありのラブコメ予定ですが、ジャンルを迷うくらいには恋愛薄めかもしれません。
中編~長編予定で、ストックが少しだけあるので、しばらくは毎日更新しようと思います。
ゆるっとお楽しみいただければ幸いです!
「藍皇帝のおなり~」
床に頭をつけんばかりに平伏して、衣擦れの音を聞く。
気配の主は着物を引きずりながら、ゆっくりゆっくりと広い部屋の中を進み、御簾の中へと入っていった。
ずっと下を向いて待っていたものだから、頭に血が集まってきてしまう。
「そなたが余の影武者か」
しゃなり、と鈴が鳴るような声が耳朶を打った。
まだ声変りをする前の、幼い子どもの声だというのに、それはやけに落ち着いた響きをしていた。子どもらしい純粋さや軽やかさがない代わりに、しっとりと胸にしみいるような音色をしている。
それでいてどこか、圧があった。
ただ平伏しているだけなのにやけに緊張して喉が渇くし、顔を上げようとも思わない。
人の上に立つものが纏う独特の雰囲気が、そこに溢れていた。
そういう力があって……圧倒的な「本物」なのだと感じる。
にしても、「余」。
「余」だってさ。
そんな二人称を使うのは、王様くらいのものだ。
蘭華は自分の置かれている状況の異常さを改めて理解した。
貴族といっても末席も末席、しかも元庶民の養子。
とてもではないが、普通に生きていたらお目通りが叶う相手ではない。
この国の最高権力者、――帝。
蘭華は帝の影武者としての任を受け、こうして謁見を許された。
影武者ということは、つまるところ身代わりである。有事の際には帝に代わって煮るなり焼くなり刺すなり殺すなりされるという役回りだ。
そしてそれが必要になるということは、帝の身に危機が迫っているということでもある。有事の時以外には無用の長物だからだ。
帝のためなら命など惜しくない、と、そう思うような愛国心や忠誠心に溢れる人間だったらよかった……のだが。
蘭華は後悔していた。
猛烈に後悔していた。
だってこれ、相当の確率で死ぬってことじゃん。
引き受けた時に想像していた物とは大きく異なるその確率を、蘭華はこの帝との謁見でひしひしと感じていた。
いくら影武者であったとしても、こうして目の前で、帝から直接声を掛けてもらうなど本来あり得ないことのはずで――不要なことだ。
それをわざわざ帝自らお言葉を掛けるということは――これは手向けなのだろう。
じきに命を落とすであろう蘭華への、最後の餞、冥途の土産、早い話が思い出作り。
そのぐらいに命の危険がある仕事だと、帝の行為がそう言外に告げていた。
何だそれ。聞いてたのと違う。
蘭華は自分を嵌めた兄の胡散臭い笑顔を脳裏に思い浮かべて、心の中で呪詛を吐いた。
蘭華は神というものを信じていない。
この国の帝は神の血を引くとされているが――今まで神に助けを求めてそれが叶った経験を持たない蘭華は、そんなものに祈るのは無駄なことだと考えていた。
だけど、と蘭華は思う。
もし神様とやらが本当にいるのなら、こういう高貴な御方じゃなくて……うちの兄さんみたいな底意地の悪い存在なのではないか。
そうじゃなかったら、戦争も後継者争いも、起こるはずないだろう。
少なくとも、兄さんが化け狐だと言われたら、私は信じる――と。




