石化させられフェーン。そしてブリーフィング スウィートバウム少女石化事件12
高級住宅街ラグジュバウムの南西部、インダスバウムに面した地区のとある一画にパカツの邸宅はあった。
外から見てもどこか陰鬱としたその邸宅は、平屋だが間違いなく豪邸と言えるだけの広さがある。
パーカスは元々、かつて存在した貴族の血筋にあたる者でその遺産だけで何不自由なく暮らせたという。
彼がラグジュバウムに建てた邸宅には、彼と一部の者しか知らない秘密のミュージアムが作られていた。
ミュージアムと言っても個人的なものなのだが、そこは幾つものオブジェを飾っても十分な空間であり、そこには動物の剥製や魔物の銅像、そして布がかけられた石像が並んでいた。
パーカスはオイルランプに照らされた室内で一体の石像にかけられた白い布を外す。
おお、なんとそこには灰色に石化したフェーンの石像があるではないか。
彼女の石像には不自然な部分があり、石像と化して尚、美しい純白の下着を着けている。
それよりも不自然なのは、彼女の身体は四つん這いに固定され、まるで男を求めるように淫靡に尻を高く上げている事であった。
パーカスはそのフェーンの元々は赤かった髪を撫で、奇妙なまで蕩けた表情の顔の頬を撫で、冷たい感触を楽しみながら言った。
「あとひとり、石像を作っていただきたい」
その側でパーカスの様子を腕組みして見ていたトカゲ族の男は、軍鶏を模した仮面の奥で光る山吹色の瞳をジロリとパカツに向け動かした。
「パーカス殿、もう潮時だと言ったはずだが……? 既に冒険者が動きだしている。それに、いくらなんでも店の女に手を出し過ぎている」
その怪しげな男の言葉にパーカスは石像を撫でる手を止めて、薄く笑った。
「それは、バジリール殿が冒険者の小娘を余計に石化などさせるからでは?」
バジリールと呼ばれたトカゲ族の男はこれに答えなかった。
実際、図星ではある。
冒険者の少女であるミュウは、フェーンの失踪事件を単独で調査している中でパーカスの情報を入手し、パーカスの周囲を嗅ぎまわっていた。
しかしミュウの影に気が付いたバジリールは逆にミュウを真夜中のインダスバウムにおびき寄せ暗殺を目論んだが、それが不味かった。
ミュウはバジリールの想定以上に戦いの素質があり、つい反射的に彼女を石化してしまったのである。
彼にとって運が悪い事に、たまたま周囲で夜勤の休憩をしていた現場作業員の男達数人が騒ぎを聞きつけて様子を見に来てしまった。
こうなってはミュウの石化を解除する時間がなく、石化したミュウをその場に残さざるを得なかったのである。
これがミュウが石化されるに至った一部始終であった。
バジリールはパーカスに対し内心で、「金だけの男が……」と殺意を感じているがひとまずパーカスの言葉に反論はしなかった。
「あそこで足がつかなければもっと事業を継続できたはずです。次で最後。良い素材を見つけたんです。きっとバジリール殿も気にいるはずです」
「ほう……」
バジリールは目の前のパーカスという男を、顔を見るだけで殺意が湧くほどに嫌っているがパーカスの審美眼だけは認めている。
元々バジリールは過去の魔王大戦で魔王軍の特務部隊に所属していた男で、勇者により魔王が倒され大戦が終結した後もバルティゴに投降せず、地下に潜り反バルティゴ活動を続けている。
所謂魔王軍残党であった。
彼は特務部隊時代に練り上げた石化の魔法を買われある組織に拾われているが、その組織から仲介され今回パーカスに関わる事になった。
彼は特務部隊時代に暗殺や拷問などに関わっており、手に触れた物体を瞬時に石化する魔法の能力は残虐かつ必殺でもあった。
「彼女を最後に一旦事業は休止します。お願いしますよ、バジリール殿」
そう言ってパーカスはフェーンの石像に“売約済”の札を貼り付け、再び石像に白い布をかけるのであった。
◆
次の行動を打ち合わせていたのはパーカスとバジリールだけではない。
イチはエルビアニカ、ミュルガルデ、そして羊人族ハーフのメェメをルーナハイムに招いてブリーフィングを行っていた。
4人は1階の居間のソファに集まり、イチとエルビアニカを中心に方針を話し合っていた。
「とにかく、私がイチと男を尾行するのは変わらないよ」
エルビアニカは流石に客人のメェメがいるのでいつものようにタオルで乳房を隠すだけの格好ではなく、ちゃんと白い肌着を着ているが下半身はボトムレスで翠色の下着を出しっぱなしにしていた。
「最終的にどこに着くかはわからない。が、手筈はいつもの通りだ」
灰色のタンクトップに黒いショートパンツ姿のイチはそう答え、私服のミュルガルデが頷いた。
「ブンタイムシを使うんですね」
「そうだ。パーカスがフェーンの失踪に関わっている確率は極めて高い。尋問してフェーンの行方を聞き出す」
ブンタイムシとは外敵に襲われると特殊なフェロモンを放出し仲間に助けを求める習性を持つ昆虫でその姿はスズムシにサソリのハサミを合わせたような姿である。
このムシを筒などに入れて隠し持ち、いざという時に刺激を与えると仲間の元にいるブンタイムシが騒ぎ出すので危機を伝える事ができるというわけだ。
だいたい200m先までフェロモンは届くので、余程の大きな施設にでも入られない限り合図を送る事ができる。
「私は、どうすれば……」
メェメが不安そうに聞く。
彼女はイチやミュルガルデより階級が低い山猫階級の冒険者だ。自分が役に立てるかどうか、心配なのだろう。
「メェメは万一、エルビアニカとミュルガルデが応援に駆けつけてなお私たちが戻らない時に冒険者協会に助けを呼んでくれ。モーリンに言えば動いてくれるはずだ」
「わかりました」
イチは共有すべき情報に漏れがないか一度考えた。
しかし、今回は敵に相当する人物の情報が乏しい。
どこでどの程度の脅威が想定されるのか、そもそも本当に追いかけている人物が事件に深く関わっているのか、何の保証も確信もない。
本来であればエルビアニカを中心に入念な下調べがあり、その情報を元にイチが抜かりない作戦を立案し、事に当たるのだが、今回はほとんど行き当たりばったりではないか。
エルビアニカは調査能力こそ大烏並みの実力があるが、土壇場での戦闘力はそこまでではないしミュルガルデは戦闘向きの性格ではない。
できればタオ・メイメイかイルハがいれば戦闘になっても安心できるのだが彼女らは違う依頼の為に不在である。
戦闘力は平凡であってもヘルヒャンがいるだけでも安心感があるし、それが無理でも誰か他の冒険者を仲間に呼べれば更に色んな状況に対応できるだろう。しかし今回の件は冒険者ギルドから報酬が用意されているわけでなく、完全に義理と友誼の為でしかないのでそれも望めない。
イチは下唇を吸ってヂュっと音を鳴らした。
彼女が内心で迷いや不安を感じている時の癖である。
そんなイチの癖を知っているエルビアニカは何か言いたげにイチを見た。
その視線を感じ、イチは一度頭を空にし強い感情だけを信じる事にした。
「ミュウは、既に石化してから大分時間がたっている。一刻を争う。私は、必ず土の日に事件が解決しミュウの身体も元に戻ると確信している。各自、最善を尽くそう。以上」
こうしてブリーフィングは終わり、それぞれの思惑が交差する中、いよいよ欲望と友誼を賭けた戦いの時が始まろうとしているのだった。




