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イチ 風俗店に潜入 スウィートバウム少女石化事件10

  後日、イチはセーゲンに教えられたセクサティギー人形通りに存在する秘密俱楽部、テレポクラーべに夕方頃に足を運んだ。

テレポクラーベは男女の出会いを目的とした秘密倶楽部であり、男は店に高い金を払い少女との出会いを仲介して貰う。

面白いのは店は単に女の子との出会いを斡旋するだけでそこから先の関係は出会った二人に任せているという点であり、しかしながら出会った先の展開は暗に仄めかされている。


 テレポクラーベは当時としては高く作られている4階建ての建物の中にあり、外観だけではそこにどういう空間が広がっているかわからない。

なるほど、秘密倶楽部とはこういう事なのだろう。

客は2階の飾り気のない入り口から入り、そこから受付に入ると店の黒服の案内を受けて少女を物色するためのロビーに通される。

そこでは特殊なガラス越しに少女を見る事ができ、もし少女を気に入ればそこで少女を紹介して貰う事ができる。

あくまで店は紹介を行うだけ、と言うのがミソであった。

この時代、売買春は認められていない。

その為、言い訳の数は多ければ多いほど良いのだ。

そしてこの店で出会いを求めている(という体)の少女たちは1階の裏口から控室に入り、店の黒服に呼ばれるまで各々が自由に待機している。

イチが秘密倶楽部テレポクラーベの裏口にたどり着いた時、そこは四方を壁に囲まれた裏路地で、オイルランプが灯っていなければその裏口の存在にさえ気づかなかっただろう。

イチが意を決して裏口を開くと、屈強な鬼人族の男が出迎えた。

その男はクロッフと言う名で呼ばれており、他者を恫喝するのに慣れきっているのが顔の作りと声色からわかるような男であり、真っ当な世界に生きている市民とは言い難かった。

しかし、表面的な態度だけは酷く穏やかで優しいのだ。


 「あんたがイチちゃんだね。セーゲンから話は聞いてるよ。さあ、入って入って」


 「す、すまない。邪魔する」


 イチはつい最近鬼人族の男に失禁するまで腹を殴られた苦しい記憶があるせいか、なんとか笑顔を作ったがあからさまに怖気が出てしまっていた。

しかし招かれるまま中に入ろうとするイチを、クロッフはその大きな手で制した。


 「ああ、ダメダメ。そんな危険なもん持ってきちゃいけないよ。預かるから外して」


 クロッフはそう言って腰に巻いた銃を挿したガンベルトを取るようイチに促した。

セーゲンの紹介があるとは言え、目の前の鬼人族を全面的に信頼できるかと言えばそうではない。

鬼人族は義理堅く一度仲間と認めた者を裏切る事はない種族だ。

しかしそれはより関係の深い親兄弟が関わっていない限りにおいてである。


 「おっと、ダメダメ。太もものやつもだよ」


 「わかるのか?」


 クロッフの指摘通り、イチはショートパンツの隙間にファンクル17式護身拳銃を忍ばせていた。

これは最近、とある依頼の最中に武器を奪われて囚われた経験から購入を決めたものである。


 「ははは。当てずっぽうですよ。まあ、上がってください」


 クロッフはそう言って笑っていたが、その目は一切笑っていなかった。



 秘密倶楽部テレポクラーベの内部はクロッフの事務所と“商材”である少女たちの控室でできており、控室にはソファやテーブル、化粧机が並べられていてさながら芝居の楽屋と客間を合体させたような空間である。

そこではまだ幼さの残る少女達が時間を潰しており、人族の少女、ハーフエルフや兎人族、猫人族などらが全員で10人ほどいた。

彼女らは字が読める者は控室に用意された雑誌を読んだり、単に寝ていたり、鏡台を前に容姿を整えていたり、編み物をしている。


 「編み物はね、オヂにプレゼントするんですよ。そうすると単なる毛糸が高級時計や宝石のついた指輪になって返ってくるってわけです」


 クロッフはイチを彼の事務室に案内するとそう教えた。


 「それで、フェーンさんの失踪についてですね」


 「フェーンを知っているのか?」


 「ええ。彼女はここでお世話をしていましたからね」


 イチは自分がフェーン失踪の核心に迫っている事に軽い興奮を覚えた。


 「最後に見たのは?」


 「そうですねぇ……」


 クロッフは特に情報を出し渋る事なくイチにフェーンが消えるまでの詳細を教えてくれた。

その時系列を繋げると、テレポクラーベにフェーンが最後に出勤してから深夜喫茶ハピネスを無断欠勤、次いでギーミッツが冒険者ギルドに依頼を出し、その後しばらくして依頼に当たっていたミュウが石化されて発見される……という流れになっていた。

となれば、ここで最後に会った客がより核心に近いと思うのは当然であろう。


 「最後に会った客はいったいどういうやつなんだ?」


 「さあ?」


 しかしクロッフはシラを切るのである。


 「知らないわけがないだろ。あんた、店に来た客を一回は確認してるはずだ。頼む、隠さないで教えてくれ!」


 「もしそうだとして、なんであたしが大切な顧客の情報をわざわざ冒険者に売らなきゃならないんで?」


 クロッフは彼の事務机で自分の爪をヤスリで磨きながらイチを睨んだ。

その目は既に恫喝の光を伴っている。

イチが何も答えられないのを見て、遂にクロッフはその本性を見せ始めた。


 「おい!! 舐めてんじゃねえぞ!! てめえ俺がどういうシノギしてるかわかってんだろうが!?」


 クロッフの怒号が部屋を震わせた。

その声は完全に暴力を生業とする者の声で、女子供でなく大の男であっても気の弱い者は震え上がるだろう。

だがイチとて生半可に冒険者をやっているわけではない。

クロッフが相手を萎縮させ、隙があれば相手をコントロールしようとする性質の人間である事は見抜いている。


 「大声を出せば私がビビると思うのは止めて貰おう。あんたは端から私に協力するつもりでここに招いたはずだからな。そうやってワザと怒鳴って、私を上手く使うつもりだろうがそれは無駄だぞ」


 イチは臆する事なく毅然と答えた。

その態度に腹を立てたクロッフは拳を振り上げ机が割れるかと思うほどの強さで叩くと、立ち上がってイチの目の前にやってきた。


 「テメェ……、誰に能書き垂れてんのか____わかってんだろうな!? ああ!?」


 クロッフはイチの冒険者コートの襟を掴み上げて怒りの形相に満ちた顔面を近づけた。

イチはその気になればクロッフの腕をとって投げ飛ばす事もできるのだが敢えてクロッフの乱暴に身を任せた。


 「もしフェーンの失踪が誰かによる物だとしたら、あんたもそいつに好き勝手されるのは都合が悪いはずだからな。稼ぎ手がひとり減らされたんだからな。私に任せろ。依頼料なしで面倒を解決してやるって言ってるんだ」


 「テメェ………、一発顔面に喰らわねえとわかんねえのか?」


 「私はセーゲンの紹介で来たんだぞ。粗雑に扱っていいのか……?」


 クロッフはしばらくの間イチを睨みつけていた。

それと言うのもイチの言った事は図星で、クロッフは最初からイチの調査に協力してやるつもりだったが、上手くイチを脅して支配下に置き、将来的に駒や商品として使う道も考えていたのである。

しかし、イチの態度を見てどうやら純粋に協力関係を結んだほうが得策と判断したのだろう。

掴んでいた襟から手を離すと再び自分の椅子に腰掛けた。


 「ふん、セーゲンが気にいるだけの事はある。食えねえ奴だぜ」


 「あんたに言われたくない」


 「ははっ、そうかい」


 クロッフは多少態度を和らげたようであった。僅かに目元も緩んでいる。


 「だが、顧客の情報が渡せねえってのは嘘でもなんでもねえ。それはウチらのシノギの仁義だ。こいつは破れねえ」


 クロッフは他者を恫喝し女を喰い物にする悪党であったが、彼には彼なりの正義があるのだろう。


 「じゃあ、どうしたら」


 クロッフはしばらく考え込んだような表情を見せた後に口を開いた。


 「明日、とある客が来る予定になっている」


 「それで?」


 「あんたは、明日からウチの店で働けばいい」


 「は?」


 「変なところで勘が鈍いな。客がうちの子に会いたがったら、そりゃ止められないだろ」


 「ああ、なるほど」


 つまりクロッフの理屈は、失踪事件に深く関わっていると目星をつけている客の情報を渡すのは義理を損なうが、客がイチと会いたがるのであればそれは店の営業をしただけなので義理を損わないというのである。

ほとんど頓智のような屁理屈だが、どうやらこういう世界では言い訳の数は多ければ多いほど良いらしい。


 「しかしわからないな。クロッフ、あんたはきっと出来る事なら店の女の子に手を出した客に落とし前をつけたいと思ってるんじゃないか」


 「そうかな?」


 イチの問いにクロッフは曖昧な返事を返した。

しかしこの男がこう返したと言う事は、それは肯定していると見て良い。


 「なぜ、自分達で始末をつけない? 私が結果的に始末の肩代わりをするのは構わないが、あんたならその気になれば……」


 「厄介な奴らがいるんだよ。なるべく関わりたくない連中がな」


 イチはクロッフの言葉を、せいぜい暴力団のような反社会的組織が関わっているものと思ったが、その裏にはバルティゴ連邦崩壊の一因となった地下組織が関わっているとはこの時知る由もなかったのである。


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