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5話 イチとパンツが見えそうな服 スウィートバウム少女石化事件5

  イチが想像していたような面談らしき面談はなく、セーゲンが言うには店に立てるなら今日から試しに店に立ってみても良いという事だった。

時給もちゃんと出してくれるらしい。

しかしながらセーゲンはその前にひとつだけ注文をつけた。

彼女はイチのレモン色のチュニックとベレー帽を見て「働きたいならそのナメクジのゲロよりダサい帽子と服をどうにかしろ」と言ってきたのである。

この言葉はイチにとってショックだった。

チュニックはともかく、ベレー帽は彼女のトレードマークでありお気に入りの物だ。それがよりにもよって「ナメクジのゲロよりダサい」などとはあんまりにもあんまりな言い方ではないか。

しかしイチが気落ちする間もなくセーゲンはもう一人いた人族の少女に財布を渡し、「安くていいからマシなの買ってやれ」と言って半ば無理やりにイチと少女を買い物に出してしまったのである。


 展開の速さに頭が追い付かないイチであったが、付き添いの少女は奇妙に明るく人好きな少女で、名をジョキューと言った。

イチと同じくらいの年齢で18歳。2年前に冒険者をやるために都市シベースからやって来たらしい。ただし冒険者としては全然駄目で、深夜喫茶で働くほうが楽しく感じ始めてもうすぐ2年目になるらしい。


 「セーゲンたん、顔怖いけど優しいから大丈夫犬だよ」


 「大丈夫犬?」


 「大丈夫な時に出てくる犬の事」


 「???」


 ジョキューという少女は髪を金色のボブカットにしていて、顔も小さくて人形のように可愛らしいのだが、黒いアイシャドウが特徴的なメイクは派手であり、両耳にぎょっとする数のピアスを着けている。

背丈は160cmに満たないがスタイルも悪くなく胸はイチに劣るがFに届きそうである。


 「これからどこに行くんだ」


 「すぐ近くのブティック。安くて可愛いの、多いんだ」


 「おい、そんなに引っ張らないでくれ」


 ジョキューは距離感が人より近いのか、まだ親しくなってもいないはずのイチの手と自分の手を強引に繋ぐと客引きやナンパの男を軽く流しながらスキップでもするかのようにイチを近くのブティックまで連れて行ってしまった。



 イチが連れていかれたのは深夜喫茶『ハピネス』から歩いて5分もしない1階の店舗で、ガラス張りの店内には女物の、そして妙に胸元が開いていたり丈が短かったりする先鋭的な服ばかりがディスプレイされているブティックであった。

店内もピンクと赤を基調としており、イチが服を買うスウィートバウムの服飾店とは明らかに雰囲気が違う。

そこでイチはジョキューに更衣室へ押し込まれると、すぐさまジョキューが選んだ服が渡された。

試着してみろと言うのであろう。


 「おい……、これじゃあ、色々ダメじゃないか」


 イチはとりあえず渡された一着目を切るとカーテンを開けた。

そこには大変イケイケの格好に姿の変わったイチの姿があった。


 「え~~、かわいいじゃん。全然駄目違うじゃん」


 しかしその服はまるでラッピングしたようにタイトなスカートと胸をX字形に隠すようななんとも際どい服で、スカートにはどういうわけか正面にA字のスリットが入っており特別な事をしないでも下着が見え放題になってしまう。


 「パンツとか見えちゃうだろうが!?」


 「なんで? 見えてもいいじゃん」


 この時代、まだ見せパンなる概念は流行っていない。

イチが「パンツが見える」と言うならば、それは生の生でしかない生パンが見えてしまうという事である。


 「見えちゃダメだろうが!」


 「パンツ見えるとオヂからチップ貰いやすいよ? あ、もしかして毛処理してなかった? トイレで整えちゃえば大丈夫だよ」


 「そういう問題じゃないって! 兎に角別のにしてくれ!」


 それからしばらくジョキューはブーブー言いながらも幾つかの服を渡し、その大体がイチにとって言語道断なデザインの服だった。

まるで胸を見てくれと言わんばかりに胸元にとんでもない穴が開いてたり、どういうわけか胸の布の一部に透明な素材を使っていたり、二枚の布を紐で止めているだけの極小ワンピースだったり。


 「却下だ却下! ブラが見える!パ ンツが見えなければ良いってわけじゃないぞ!」


 「ブラは基本ノーブラで着るんだよ? 知らないの?」


 「尚更良くない! ノーブラ前提のも駄目だ!」


 「変なの」


 最終的にジョキューが持ってきた上下セパレートタイプで、どことなく冒険者を意識したデザインの服で落ち着いた。

これも胸の少し下の辺りで布が終わっており、臍は丸見えでスカートも気を抜くと中が見えてしまうような短さだったが、他のデザインを考えると大分マシである。


 「似合ってるじゃん。似合い犬だよ」


 「あ、おい。このまま外に出るのか!?」


 「大丈夫大丈夫」


 ジョキューはイチの手を摑まえると来た時と同じ強引さで更衣室の外に連れ出して、財布をカバンから出そうとするイチを遮ってレジにいる女性の半兎人族の女性に「セーゲンさんにつけておいて」と言うと2人して店の外に出てしまったのである。


 「大丈夫なのか?」


 「大丈夫犬だってば。あの店ならうちの店の馴染みだし」


 「それに私も払わないと……」


 「服代なんて1日で稼げるよ。それよりクレープ食べてこ」


 「あ、おい」


 ジョキューという少女は思考がまるで紙芝居めいて変わるようで、服を買ったと思ったらそのまま店に戻らず裏通りの一角にあるクレープ屋台にイチを連れて行ってしまった。


 「店に戻らないで大丈夫なのか?」


 「だってまだ暇な時間だもん。あと30分は怒られないよ」


 そう言うとジョキューは白いクレープ屋台を切り盛りしている蛙人族の店員に「フルーツクリームとチョコクリーム」と言って紙幣を1枚渡した。


 「この店で美味しいのはフルーツクリームとチョコクリームだけ。後は頼んじゃダメだよ。どっちがいい?」


 「そ、そうなのか。じゃあチョコクリームで」


 イチは戸惑いながらもジョキューが頼んだクレープの味を想像して思考を奪われた。

イチと言う主人公にはどうにも食い意地が張っているところがある。

無論、彼女は仕事を前に甘味に現を抜かすような事は普段しないのだが、成り行きを言い訳に甘味を口にする事は知的生物お得意の自己正当化であり、イチとはいえその例に漏れなかった。

屋台とはいえ店の前には座って食べる為の椅子と丸テーブルが設置されていて、2人はそこでクレープを並んで頬張った。


 ____う、うまい!板チョコを刻んでクリームに混ぜてるだけだが、生地の小麦の味わいとクリームの優しい甘さ、最後に少しほろ苦くて、歯ごたえも楽しいチョコの食感が幸せいっぱいな味にしてくれる!


 「あははははは! 初めてクレープ食べた人みたい!」


 イチがクレープを食べたのは何もこれが記憶の中の初めてではないのだが、イチは何度も頷いて同意を示した。


 「そ、そうだ。私の分のクレープ代」


 クレープを食べ終わり、会計をジョキュー任せにしてしまっていた事を思い出したイチはカバンから財布を出そうとしたが再びジョキューに制止されてしまった。


 「いいってばこんな細かいの。オヂから貰ったお金たくさんあるし」


 「オヂ……?」


 「お客さんの事だよ。アタシたちはそう呼んでるの。裏でだけどね」


 さて、断っておくがセーゲンとイチの出会いはスウィートバウムの少女石化事件を解決する糸口として確かに必要な要素ではあった。しかし、このジョキューという少女との出会いはイチにとって何か十大な事になるのであろうか?

結論から先に言うと、それは重大な出会いとは言えない。

だが、このジョキューとの出会いが間接的であれイチの冒険を助け、また今回の事件の背景を理解するのに役立つであろうと思われるので描写をしてゆく事にする。

 


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