印象を良くする魔法 パーティを追放(以下略)7
朝が来た。
皆それぞれ起床するとそれぞれの支度を済ませ、旅の準備を整えた。
村までは昼前にはたどり着く予定である。
その途中でまた馬を休ませ、村に入る前の最後の打ち合わせをした。
5人は森の中の開けた空間で荷物を広げると各々、冒険者と悟られぬよう身支度をした。
銃を持っている者はリュックの奥にしまう。
タオ・メイメイのショットガンはパルテルラットが予め用意していた改造したリュートギターのケースに隠した。
のみならず、ピィピ・キャロンがメイク箱を取り出し女子3人に化粧をする。
イチ、メイメイはともかくパルテルラットは冒険者としてある程度名を知られている。万一の事を考え、そうと知られないようにメイクを施した。
元々凛々しい顔立ちではあったが、ピィピのメイクによりその姿は差し詰め"男装の麗人"と言ったところか。
イチ達はピィピの多芸さに改めて感心した。
「我々は今から旅芸人だ。私が座長。ピィピは花形。イチとメイメイは見習い。ホーイッツ君は護衛だ。我々は西の都市シープスに向かう道中にユーカイ村に立ち寄る。そして可能であればその日のうちにラクシュ嬢が囚われている場所を見つけ出し救出する」
「具体的に、村についたらどうするんですか?」
イチの疑問にパルテルラットは答える。
「まず、ホーイッツ君の家に行く。そこから私とホーイッツ君で村を見回って情報を集める」
「そんなに上手くいくかな~?」
ピィピの疑問ももっともだ。パルテルラットの行動方針は随分と大雑把に思える。
「大丈夫だ。村人は俺が協力させる」
パルテルラットが答えるよりも先にホーイッツが答える。その様子を見たタオ・メイメイが不審そうな顔をした。
が、そのホーイッツの言葉は事情を知っているイチからすれば一定の説得力を持っている。
何かホーイッツが村人に対して協力を請う為の切り札を持っていたとしても不思議ではない。
「ラクシュ嬢が囚われている所を見つけ出した後、状況によって救出方法を考える。以上だ。何か質問は?」
一同、特に言うべき事もなかったのだろう。
最終的に装備を整えると、5人はユーカイの村を目指して馬を走らせた。
そして、太陽が頭上に昇るころ、ユーカイの村が見えて来たのである。
◆
5人が『黒の森』を進み、高木が並ぶ林を抜け、小高くなっている丘陵で馬を止めると視界の向こうには未だ近代化されていない村が広がっていた。
煉瓦や石で作られた家々からは、夕食の準備をしているのだろう。煙突から煙が流れている。
「わぁ~。素敵な村だね~」
ピィピは馬の上から村を眺めて思ったままの言葉を口にした。
ユーカイの村は川に沿う様に家が並び、森を切り開いて作った農場では収穫期を待つ野菜の苗が畝の中で眠っているのだろう。
人族よりも優れた嗅覚は風に流された堆肥の臭いを感じるが、それすらピィピには心地よい。
北の都市デーニズから来た彼女は郷愁を感じるのだろう。
「思った以上に広いな。ここを探すのは骨が折れるぞ」
ところが記憶喪失のせいか、イチには特別な感慨もない。
過去の冒険でいくつか訪れた農村と別に変りなく思う。
関心事は囚われたシローキンの娘がどこに監禁されているかしかないのだろう。
「あそこに林が見えるだろう?ラッチェはかつて、あの林の中に隠れ家を建てていた。勿論、今もそこを使っている保証はないが、候補のひとつにはできるはずだ」
ホーイッツはそう言って村の北側にある林を指さした。
なるほど、確かにラッチェが指さす先に林が広がっている。
「村人はラッチェとグルだ。かと言って口の堅い連中というわけでもない。どこかに必ずヒントがあるはずだ」
ホーイッツは自信ありげに言った。
「あそこに湖があるのが見えるな? そこから一番近い赤い屋根の家が俺の家だ」
そう言ってホーイッツは一軒の家を指さした。
石の壁で作られたそこそこの広さの家で、隣に納屋がある。
「あそこが村長の家だ」
ホーイッツが指差す方向には他の家よりも少し豪華な家が建っている。
「まずは挨拶に行くか」
いつの間にかホーイッツが場を仕切ろうとしている。これはタオ・メイメイに限らず、パルテルラットとしても面白くない。
パーティの意思決定はパルテルラットが下さなければならない。それをホーイッツはわかっているのか。
「どうします? パルテルラット先輩」
すかさずイチがフォローに回った。
イチはこう言う部分は出来た女である。
「そうだな。今回の依頼の性質上、村の人間にある程度は受け入れられねばならないからな。行こう。頼むぞホーイッツ君」
パルテルラットの指揮で皆馬を歩ませ、丘を下り村に入る事となった。
ピィピは口笛を吹いていた。
どうやらこの落ち着いた村が気に入り始めているらしい。
◆
全てが全てというわけではないが、近代的でない村というのは排外的な傾向が強い。
人口が密集している都心と違い、総人口が少なければ自然と余所者は目立つ。
イチ達が村里に降りると自然と村人の視線を浴びた。
どの村人もイチ達の姿を見ると物珍しそうに、或いは警戒心を露わにして例えば手近な物とひそひそ話をしたり、仲には露骨に眉を寄せて疑いの目を向ける者もいる。
幼い子供たちは好奇心に満ちた目を輝かせているが、母親などに家に引っ込んでいるように言われると理由もわからず姿を隠した。
この時代は人攫いが少なくない。皮肉な事だがユーカイの村の住人であればそれはよく知っている事だろう。
「なによ。みんなして、嫌な感じ。これだから田舎者は」
タオ・メイメイはハーフエルフであるが故だろうか、時折差別的な扱いを受ける事もある。
カンティネント大陸ではハーフエルフの歴史は暗い。
タオ・メイメイになにかかける言葉を探していたイチだが、言葉を見つけ出すより先にイチ達の前に男の村人がやってきて声をかけた。
[因みにユーカイの村では特筆がない限り村人は人族と思ってもらってよい]
「おめえ、ホーイッツかね? その子らはなんだ?」
村の男はホーイッツより少し年上くらいだろう。
どうやらホーイッツの事を知っているようだ。
彼はイチ達。特にハーフエルフのタオ・メイメイと兎人のハーフであるピィピに特に関心を示している。
ピィピは単純に可憐だからだろうが、タオ・メイメイに関してはハーフエルフという種族を良く思っていないのだろう。
「冒険者になったんだ。知っているだろう? 彼女らは旅芸人だ。シープスまでの道中を護衛する事になった。ついでに立ち寄って宿代を浮かせようと思ってな」
ホーイッツの優れた性質として、その場限りの嘘をつくのに何の不自然がない事が挙げられるだろう。
それは場合によっては厄介な性質だが、少なくともこういう時に言葉に詰まったり顔色を悪くする事がない。
「しかし、お前さん、不味い時に戻ってきたなぁ…」
村人は村で起きている事情を知っているのか困ったような、それでいて不信感を混ぜ込んだ顔を作った。
それを見てピィピは気づかれる事のないよう、吐息のような呪文を詠唱した。『印象を良くする魔法』を唱えた。
脳内で目の前の男が自分に対し好印象を抱く未来を予知夢のようなイメージで練って行くと、ピィピは村人との間にたゆとうマナに温かみを感じた。
「こんにちわ~。旅芸人のピィピです。ここは良い村だね。故郷に似てるよ~」
まるで小鳥がさえずるような心地よいピィピの声に目の前の村人の心は擽られた。何故だか無条件に目の前の兎人の少女と仲良くしてやりたい気持ちになった。
「兎さん、故郷はどこだい?」
「デーニズだよ~。この村は暖かくていいね~」
「デーニズかい。あそこにはおいらの親戚が住んでたなぁ。ミズエの村っちゅーんだが」
「ミズエの村~!ジョナ村長のところだね~」
「そうそう! ジョナ村長だ!」
村人はすっかりピィピを気に入ったらしい。それは何も彼女が唱えた魔法の力だけではないだろう。
「すまない。挨拶が遅れた。私が座長だ。これから村長に挨拶に行こうかと思っていたところだ」
パルテルラットが村人に声をかけた時には既に彼は警戒心を解いていた。
「あぁ。それがいい。こんな時は尚更挨拶したほうがええだろう」
「こんな時?」
パルテルラットの疑問に村人は「まずい」と言うような表情を作った。やはりラクシュ嬢誘拐の事は公然の秘密と言える程度には一般の村人も知っているのだろう。
「まぁ、おめえさん達には関係ない事だよ。ホーイッツ。後で家で採れた野菜でも差し入れてやる」
「あぁ、悪いな」
そういうと村の若者は去って行った。
「さて、行くとしようか」
パルテルラットらは気を取り直して村長の家を目指す。
ピィピは村の若者がこちらを振り返ったので手を振り愛嬌を振り撒いた。
若者は顔を赤らめた。
どうやらピィピを好きになり始めているらしい。




