イチとトイレットペーパーとホーイッツ パーティを追放(以下略)6
「……………ふぅ」
最初から余談で申し訳ないが、この時代には既にトイレットペーパーにあたる物が普及していた。
無論、必要に応じてそこらに存在している葉や植物の根を使わざるを得ない時もあるが、イチも年頃の少女なのでそれはできるだけ避けたかったであろう。
これは本当に余談。
イチが一息つくと、何者かの気配を感じギクリとぢた。
____誰だ?
恐らく4人のうちの誰かだろうが、念のため腰のベルトに挿してあるカーペイトに手を伸ばしておく。
だが、その気配の主はホーイッツであった。
「イチさん。少し、いいか」
「ちょ、ちょっと待て! こっちに来るんじゃない!」
イチは慌ててショーツを履き直した。
それはそうだ。相手が男でなくても尻を丸出しのところなど見られたくはない。
「なんだ。トイレか」
「わかってるならちょっと待ってろ」
イチは服を着直すと携帯シャベルで慌てて穴を埋めた。
「俺は別に気にしないが」
「私が気にするんだよ!!!」
思わず大声を出してしまったイチ。
顔を赤くしたまま茂みの影から出てきた。
「それで、なんの話だ?」
イチは咳払いをひとつすると、ホーイッツの言葉を待った。
「ラッチェの事で、言っておきたい事があってな」
「ラッチェの?」
「ああ」
その後ホーイッツが語った事はイチにとっては驚くべき事であった。
ラッチェとシローキンが裏で繋がっていたのだと言う。
「馬鹿な」
「真実さ」
ホーイッツが語ったシナリオはつまりこうだ。
態度を軟化させないユーカイ村の村民にシローキンは奇策を思いつく。それがラッチェだった。
ラッチェがシローキンカンパニーの者を拉致し義賊の英雄となりながら、水面下ではシローキンと繋がり秘密裡に村人をコントロールしようというのだ。
「上手くいくものか」
「そうかな? 事実、こんな事がある。ラッチェは村人の為に善意を装ってユーカイに近代的な木材加工の蒸気機械を買ってやった。村の長老達は難色を見せたが、言葉巧みにシローキンの買収に対抗する為と言って反発を無理矢理抑え込んだ。そうしたらどうなったと思う?」
「どうなったんだ?」
「村の若い人間の中に近代化を受け入れる事を望む奴らが増えてきた。単純に生産性が上がったからな」
シローキンは決して強引な取り引きをしていない。どちらかと言えば辛抱強く村人の機嫌を伺って交渉を続けている。
ラッチェの工作のおかげで、既に村の中でシローキンに迎合しても良いと言う考えも生まれてきている。
「シローキンは一度上手く村に手出しさえできれば上手く村をコントロールできる自信があったんだろう。そしてそれは実際、上手くいきかけていた」
機械を良く思っていない村の長老らも英雄であるラッチェの援助と言われてしまえば反対したくともできない。
もしシローキンの思い通りになっていれば、近い将来に村人は機械欲しさにシローキンと和解しただろう。
しかしそこでシローキンにとって予想外の事が起きた。
ラッチェに裏切られたのだ。
「まさか娘を誘拐されるなんて思っていなかったんだろうな。しかも会社が傾く額の身代金を要求されるなんて寝耳に水もいいところだったろう」
どこか楽しげにさえ話すホーイッツの言葉を聞いてイチはあらゆる疑問が解けていった。
今まで冒険者を派遣しなかった訳も、わざわざ某支部を選んだ訳も。
まっとうな冒険者ギルドであれば依頼者の背景を調べる事は必要に応じてするが、スウィートバウムの通称『某支部』は業務に忙殺されていてそれどころでない。
「しかし、何故そんな事を私に教えるんだ?」
「さあな。あなたに俺と似た匂いを感じたからかな」
_____匂い、だと?
イチにはホーイッツの意図が掴めなかった。
筆者がホーイッツの心情を察するに、恐らく自分しか知らない依頼の裏をイチに教える事でパーティの中での存在感を高めたかったのだろう。
それが計算しての事か、無意識の虚栄心がさせる事かまではわからないが恐らく後者と見ても良い。
困ってしまったのはイチである。
後でタイミングを見てパルテルラットに相談するのは決まっているとして、自分がこの情報をどう活かしたら良いかわからない。
ひとつ助けになるとしたら、ホーイッツがシローキン側の人間である事は間違いないので裏切られる可能性はないという事だろう。
「教えてくれて感謝する。この事、他の仲間には言わないでくれ」
そう言うとホーイッツは小さく「フッ」と笑って頷いた。
どうやらホーイッツはイチに好意を持っているようだった。
が、イチは女としての勘が鈍いのか、それに気づかないままであったろう。
夜明け前、イチは他の者より早く起きてパルテルラットを起こし、ホーイッツに聞いたことを伝えた。
パルテルラットは少し考えこんだが「我々のやる事は何も変わらんさ」と言った。
パルテルラットがどのように思ったかはわからないが、英雄型の彼女の事だ。“細事”と見做して一旦考える事を放棄したのだろう。




