解決編3 襲撃 スウィートバウム連続下着泥棒事件12
28日。午後22時。ラグジュバウム。ブルーセラーノ邸には資産家やかつて貴族とされていた者の末裔、工場主などの富める者が集まっていた。
彼らはバルティゴ都市国家連邦各地からやってきた下着趣味者たちで、この日も価値のある使用済み下着を目当てに大金を握りしめてやってきたのである。
ブルーセラーノは邸宅のリビングを今夜限りのオークション会場とし、彼は安楽椅子に腰かけオークションの行く末を見守っている。
このブルーセラーノという人物、50歳を前にした人族の画商である事は既に触れたが、この時代に埋もれていた前衛芸術家や彫刻家などを発掘し、各地の古い家を回ったり、発掘隊を組織させ遺跡から古代の美術品を発掘したり、手に入れた美術品を金に換える才能に長けていたが、感情の起伏が乏しい人物で金儲けにしか興味を示さない人物であったと言われる。
83歳で心臓病で死んだが、死後にブルーセラーノについて何かを語る人間や資料は出てきていない。
面白みのない人物であったのだろう。
(比べるものではないが、ワーコルが97歳でこの世を去った後、彼を慕っていた者の多くが彼についての逸話を語り継いでいる)
現にブルーセラーノは己が開いたオークションでどの下着がどの程度の価値で売れるかしか興味がない。
本日出品される下着は24点。
スウィートバウムを騒がせた連続下着泥棒事件で盗まれた下着は500点を越えたが、その中でオークションにかける価値があると見做されたのはたったの24点であった。
しかし、先ほど出品された大烏の冒険者、ミラ・パルテルラットの下着上下などはこの時代の高級懐中時計が買えるだけの高値で競り落とされた。
我々が生きる現代でも一部のセクシービデオの出演者が着用下着がネットオークションなどで競り落とされる事もあるがそのような金額は付かない。
これは、恐らくこの時代、使用済み下着のオークションを開いたのはブルーセラーノが初めてだったため相場らしきものがなく、資産家の中でも選りすぐりの愛好家を集めたので競売が加熱した結果だろう。
ここで読者の中には競売にかけられた下着が果たして本当にその人物が着ていたものか怪しむ者もいるだろうが、その点についてクンカという人族の魔法使いが『所有者判明』の魔法を用いて偽りの物がないか見分けていた。
ちなみに余談だが、ルーナハイムの7人の中で、唯一シーナ・アハトゼヘルの下着が安く競り落とされたものの出品されている。
(他の6人の使用済み下着はセクサティギーのロペという地下商店で安売りされる事になったが、それは更なる余談)
下着オークションも順調に進み、場内も程よく加熱していたが、この時冒険者の少女たちが襲撃の体勢を整えていようとは誰も気が付かない。
◆
イチ達6人はブルーセラーノ邸の近くに一度集結すると行動を開始した。
まず、ミュルガルデが踏み台となって他の者に塀を乗り越えさせると、敷地内に侵入した5人はエルビアニカとイルハが隠密行動をとり、巡回している見張りの闇冒険者を音もなく無力化した。
闇冒険者達は練度が高くないようで、殆ど苦労なく屋敷を守っている者を気絶させる事ができた。
ヘルヒャンの聴覚で屋敷内の状況を調べさせると、なるほど、イチ達が想定し地図に描いた通りの人員が配置されているようであった。これにイチ達は一応の安心を覚えた。
5人は一度息を整えると、二手に別れて行動を開始した。
イチとエルビアニカはコインを使って窓の前の闇冒険者を上手くおびき寄せて無力化すると、タオ・メイメイの突入に備えて窓の傍で待機した。
タオ・メイメイとイルハのチームはまず玄関前の見張りに音を殺したイルハが忍びより、彼女の愛剣であるキャットスレイヤーの剣の腹で殴り倒して無力化させると、二人は息を合わせて玄関に突入した。
地図で見た通り、リビングへ向かうまでの廊下は角で曲がっており、ブルーセラーノの寝室に向かうための階段が確かにあった。
イルハは剣を構えて階段下まで駆け、その場を固める。
タオ・メイメイは魔導ショットガンを腰だめに構えて突撃。
角の先にいる見張りが「すわ」と目を見開いた時には既に遅く、タオ・メイメイのバレア2の放った氣功弾によってドアの向こうに吹き飛ばされた。
「冒険者よ! 全員、その場を動くんじゃあないわよ!」
言いながらタオ・メイメイはリビングに踊り込み更に魔導ショットガンの氣功弾を放った。
イチの想定通り、正面の50歩先に人族の闇冒険者が懐の銃を抜く前に吹き飛ばされて動かなくなった。
場内は大混乱である。
オークションの参加者は人族が殆どであり、銃を構えたタオ・メイメイを目にすると悲鳴をあげて恐慌を起こした。
窓側にいた二人の闇冒険者は他の流石に他の者より冷静で、ブルーセラーノの近くにいた人族の男は雇い主であるブルーセラーノを身体で守りながらタオ・メイメイに銃を向けようとしていた。
しかし逆側の鬼人族の男は恐慌状態になり戸惑う参加者達が邪魔になり射線が通らず、動き出しが遅れてしまう。
「冒険者だ! 全員その場を動くな!」
タオ・メイメイの突入とほぼ同時にイチとエルビアニカが窓ガラスを破って突入した。
普段露出度の高い服を好むエルビアニカだが流石にこういった時はイチ達と同じ冒険装束に身を包んでいる。
彼女らのコートは頑丈で、突入の仕方さえ間違えなければガラスの破片で身体が傷つく事もない。
イチは邸宅内に突入すると誰もが目を疑うような速さで鬼人族の男の脳天に氣功弾を放ち、彼を昏倒させた。
エルビアニカも彼女の獲物であるカーペイト式ショートモデルの氣功弾を連射しブルーセラーノを守っていた人族の男を無力化するとブルーセラーノの腕を捻り上げて彼の動きを封じる事に成功する。
ブルーセラーノは「ぐう」と痛みに顔を歪めてエルビアニカの思うがままになった。
「抵抗しようなんて考えるんじゃないよ。なに、ちょっと冒険者ギルドまで来てもらうだけさね」
エルビアニカはそう言って銃口をブルーセラーノのこめかみに押し当てる。
「ひっ」とブルーセラーノは小さく悲鳴をあげると青ざめた。大して気の大きくない男なのだろう。
「撃たれたくない奴は全員伏せろ! この場は我々が掌握した! ほらほら! さっさと伏せんと痛い目を見るぞ!」
イチはカーペイト15式の氣功弾で参加者達を脅しつけながらも倒れた鬼人族の銃を奪い、仮に目覚めても抵抗できないようにした。
イチ達は殆ど一瞬のうちに場を掌握し、敵に反撃の機会を与えない。
見事なまでの連携である。
彼女たちであれば、その気にさえなれば銀行や列車を強盗しても成功したかもしれない。
が、物事は常に予測通りには進まないものである。
「全員、銃を捨てろ。さもなきゃこのハーフエルフの頭が目の前で弾け飛ぶぜ」
その声に気が付いたイチの目線の先で、タオ・メイメイの背後にいる人族の男が拳銃をメイメイの後頭部に突き付けていた。




