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衝撃! キャバクラに蛙が? スウィートバウム連続下着泥棒事件7

  眠らない街、と言えば月並みだがセクサティギーはまさに眠らない街であった。

この夜もバルティゴ有数の歓楽街であるセクサティギーは昼間のような賑わいを見せている。

ガス灯を豪華に使った赤色に光るアーチをくぐれば1番街である。

飯屋や出店などが多いのはスウィートバウムとそう変わらないが、それ以上に酒場や劇場、今でいうキャバクラやホストクラブ、コンセプトカフェのような店が多く、宿屋街があり、風呂屋などの男女が瞬間的に恋に落ちるような施設も多数あった。


 ワーコルという蛙人は金の日の夜にアンテ・ショコラという店に決まって現れるというので、ヘルメェスに会ってから3日後にイチはセクサティギーに調査に出る事になった。

 

 イチにとって予定になかった事と言えば、シーナ・アハトゼヘルが調査に着いてきてしまった事である。


 ヘルメェスの願い通り、イチがシーナに偽の情報を与えるとこの口やかましい少女は驚くべき速さで情報を拡散した。

その為、ヘルメェスの目論見通りスウィートバウムの女性冒険者達がブラダ・ランジェリーショップに殺到する事になるのだがそこまでは良かった。


 が、シーナは早速有力と思われる情報を仕入れてきたイチに感動し、

「流石イチさんです! 『破天』のお弟子さんはやっぱりひと味違いますねぇ。シーナ感激しました! そうだ! 次の調査にはシーナも是非御供させてください! イチさんと一緒ならきっと賞金は目の前です! え? 嫌なんですか? なんでですか? もしかしてシーナが足を引っ張るとお考えですか? ヒドイ! シーナ絶対役に立ちますよ! だから連れてってくださいよぅ。連れてってくれないなら泣きますよ! 毎日泣いて泣きまくってイチさんの顔を見る度に嗚咽しちゃいます! こうなったら何が何でも御供させてもらいますよ! シーナの頑固さを甘く見ないでくださいね。シーナがまだ8歳の時、お母さまが街に買い物に出た時の話をしてもいいですか? いいえ、せっかくなので話させていただきます! あの時、私はまだ8歳で…(以下略)」

と機関銃顔負けのやかましさで畳みかけて来たために渋々連れていく事になってしまったのである。


 シーナがセクサティギーの街に足を踏み入れたのはこれが初めてであった。イチにとって、それが輪をかけて悪かった。


 この街は路を女が歩いていると見れば声をかけてくる男が多い。客引き、ナンパ目的、夜の商売へのスカウトマンなどだがそういう人種とまともに話すとロクな事にならないのをイチは知っている。


 「お姉さんたち。ここらへんでドラゴンの子供見なかった? …………ナンパじゃないよ! 3分。いや、1分だけ話聞いて! ………元気でね!」


 「お姉さん冒険者? めっちゃ可愛い! 冒険者でもナンバーワンだったりしない? うちの店でも絶対ナンバーワンなれるよ絶対。俺の勘はマジ当たるから。…………お疲れ様っす」


 「うわお姉さんめっちゃカワイイ!マ ジで全部俺出すからちょっとうちの店で飲まない? クラブなんだけどさ、みんなで楽しくお酒飲める店だよ。ひとりでもお客さん連れてこないとマジ殺されちゃうの。だから助けると思って………ダメ???」


 こんな調子で妙に顔が良くギラギラとした男達が輝く笑顔と楽しげなテンションで話しかけてくるのだ。

シーナはシーナでそういう男たちに。


 「え、え? カワイイって私ですか? 私ですね! そりゃシーナは可愛い事で故郷でも評判でしたけどそんな急に言われたらビックリしちゃいます! え?楽しい店がある? え? でもお高いんでしょ? え? ご馳走していただけるんですか!? えー! シーナどうしましょう! ね、ね、イチさん、調査が終わったら行ってみましょうよ! え?ダメなんです? なんでですか?」


 この調子である。


 イチはシーナが客引きに引っかからないように彼女を制御するのに神経を使ったため、眼が険しくなったせいか段々と声をかけてくる男も減った。


 そんなこんなでイチが苦労しながらたどり着いたアンテ・ショコラは2番街の舞踊通りにあるキャバレースタイルのナイトクラブであり、ガス灯でピンク色に光らせたガラス張りの外観は近代的で、こういう店に出入りしたことのないイチは入りづらさを感じ、シーナなどは「きれいで可愛いです!」などとはしゃいでいた。


 入り口にはドアボーイがおり、不審な者や店の雰囲気を壊すような客が入らないか目を配らせている。


 「失礼、どういったご用件ですか?」


 タキシード姿の鬼人族のドアボーイは、焦げ茶色の肌と金色の目が浮かぶ顔に作られた笑顔を浮かべながらイチ達に声をかけてきた。

彼らは人族に近いが必ず頭に角が生えており、肌の色も焦げ茶色であったり青色であったりする。

理性的で義理人情を重んじる種族ではあるが、膂力が強く、一度敵対した相手には容赦しない事で知られている。

このドアボーイの鬼人はどうみても客には見えないイチ達の冒険者然とした格好を見て、何か厄介事の種を運んで来ないか警戒しているようだった。


 「あの、その…」


 すっかりドアボーイの威圧感と場の雰囲気に委縮し、言葉が出てこないイチだったが、シーナは気おされる事なく言うべき言葉を伝えた。


 「私たち、ヘルメェス・サールートさんの紹介でワーコルさんに会いに来たんです。そうでしょう? イチさん」


 その言葉を聞くとドアボーイはにっこりと微笑みドアを開けてくれた。


 「そうでしたか。それは失礼を。どうぞお通りください」


 ナイトクラブ『アンテ・ショコラ』は“甘く奥深い女性との楽しいひと時”をコンセプトにした店で、外観と同じくピンク色を基調とした店内に豪華な赤い絨毯が敷かれている。

 イチたちは案内役のボーイの後についてその踏み心地の良いい絨毯を歩いて行ったが、イチは店の奥のステージで甘い歌声で歌う鳥人族の歌姫と色んな種族から構成されたバックバンドの演奏に圧倒された。

胸元の開いた大胆なドレスに身を包んだ鳥人族の歌は聴く者の感情を揺さぶる。

イチは革張りのソファーで酒を楽しむ遊びの粋人達が時折物珍し気にこちらに視線を送ってくるのでどうしても居心地の悪さを感じた。

見れば女性は客もホステスもみなドレスで着飾り、男性は誰もが一夜を遊ぶための衣装で着飾っている。

冒険装束を着ていると嫌でも目立った。


 「な、なぁ、シーナ。私たち場違いなんじゃないかな」


 「そうですか? 私はあまり気になりませんが…」


 シーナはどうやらイチよりもこういった場の雰囲気に順応性があるらしい。心なしか楽し気にも見える。


 ボーイはステージ近くのボックス席まで案内してくれた。

そこには大日国風の着物に身を包んで両隣にホステスの女をはべらせケロロロロと陽気な声で笑う蛙人族の男がいた。


 「ベルはん、クリームはん、あんさんらはホンマにめんこいわ! ワテ、蛙人やけどチューさせてもろてええか? 蛙人のチューで呪いが解けるっちゅー昔話、ありますやろ?」


 「私らに呪いがかかってるってことかいな?」


 「逆や、逆。ワテの呪いがとけてな、エライ美男子の蛙人になってまうかもしれまへんでな」


 「アハハハハハ、もう、ワコちゃんまたそんな事言って、本当におもろいわ」


 ワーコルは大日国の仁都とよばれる街の訛りがあるらしい。

両隣のホステスはその訛りを真似して彼のご機嫌をとっているのである。

ワーコルはこのように他愛ない会話を続けながら彼の水かきがついた手でピチョンピチョンと手を打ってケロケロ楽しそうに笑っていた。


 「ワーコル様。ヘルメェスさまのご友人をお連れしました」


 ボーイが頭を下げイチとシーナを紹介すると、最初は目を丸くしキョトンとしていたワーコルであったが、すぐに顔をほころばせてケロケロと笑った。


 「なんや、えらいメンコイおなごやなぁ。ヘルメェスはんのお友達かいな? よろしよろし。一緒に飲も」


 このワーコルとの出会いが連続下着泥棒事件解決の決定的糸口となっていくのである。


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