スウィートバウム連続下着泥棒事件4 ヘルメェス・ランジェリーショップ
その後、イチはルーナハイムに戻ると事のあらましをエルビアニカ達に話した。
イルハとヘルヒャンは冒険に出ており、いなかったもののイチ、タオ・メイメイ、シーナ、エルビアニカ、ミュルガルデの5人がそれぞれ事件の解決にあたる事を決めたのである。
と言ってもこの時点ではなにも手がかりらしい物がない。
ひとまず各自スウィートバウム地区を中心に手がかりを追う事にし、何かあれば互いに情報を共有する事だけを決めた。
イチとしては今のところ手頃な依頼も見つからなかったので、次の依頼が見つかるまで暇つぶし程度の感覚で調査にあたる事にしたのであった。
____しかし、よく考えたら某支部しか得しない仕組みだな。リャンめ。姑息な事を考える。
参加費はそれこそ山猫階級やバッチなしであれば昼飯代程度で済むが、階級が上がるにつれ参加費が増えてゆき、大烏の階級にもなれば良い懐中時計が買えるほどの額が必要とされた。
イチもちょっとした日帰り旅行を楽しめるくらいの金額を払った。
※後にわかった事だが大烏の階級にいる者は積極的な参加を要請されたらしい。
そこから事務手数料が引かれるので某支部としては楽に利益を作れるのである。
最終的に集まった賞金は現代であれば自動車を買えるほどであったと言われている。
◆
次の日イチはいつもの冒険装束に着替えると、スウィートバウム地区、冒険者通りの高級下着店『ヘルメェス・ランジェリーショップ』へ向かった。
安直ではあるが下着泥棒なる者が存在するなら高級下着店が被害に遭っていてもおかしくないと考えたのである。
「あんた冒険者ね!? 出てってちょうだい!」
この下着店の店主であるヘルメェス・サールートは店の戸を開けたイチの冒険者装束を見ると苛立った表情で接近し、追い出そうとイチの肩を押し出そうとした。
ヘルメェス・サールートは現代まで続く大手下着メーカーの始祖である。
男性ではあるが女性下着を愛するがあまり、外科手術によって男性としての身体的特徴に手を加えた奇特な人物で、この時代に男性の身体的特徴を切除するのは文字通り命懸けであったので『覚悟のヘルメェス』とも呼ばれている漢の中の漢である。
今は各縫製工場から仕入れた下着を売りながら、自身が拘り抜いてデザインした下着を作り、スウィートバウム地区からヘルメェスブランドを発信し、時には貴族からも発注を受け、ブレイブバウムの中で着実に商売を広げている。
そのヘルメェスであったが、昨日と今日で下着を見もせず例の下着泥棒の情報を聞き出そうとする駆け出し冒険者が多く辟易していたのである。
彼の心情を考えれば当然とも言える。
今日の彼は絹のブラウスに革のミニスカートで、大胆にも刺繍入りのブラジャーに包まれた人工的な乳房を露出させていた。
「ちょっと待ってくれ。冒険者が何したっていうんだ」
イチはヘルメェスの手が伸びて来た瞬間、反射的に護身術が出そうになったのをなんとか抑えた。
「あんたたち、うちの下着を見もしないで得体の知れない事ばっか聞いて、いい迷惑なのよ! 営業妨害だわ!」
なるほど。イチも事情を察した以上、無理に引き下がるつもりもない。素直に帰ろうと思ってはいるのだが、こうもドンドンと手で押されては溜まらない。
「わかったよ! 帰る、帰るって!」
「いいえ! 何も聞きたくないわ! ほんと嫌んなっちゃうわ!………………ん!?」
偶然ヘルメェスの手がイチの胸に当たった瞬間、彼は表情を曇らせた。
「ちょっとあんた! ブラが胸にあってないじゃない!」
そう言うやいなやイチの冒険装束のボタンに手を伸ばしイチの下着を確認しようとした。
「何をする!」
咄嗟に手が出てヘルメェスを殴り飛ばそうとしたが、軽くかわされて逆に腕を固められてしまった。どういう力学が働いているのか、どんなに力を込めてもビクともしない。
「馬鹿な!」
「こちとら元冒険者よ! あんたみたいな小娘がどうこうできるなんて思わないで頂戴!」
ヘルメェスはイチの冒険装束のボタンを恐ろしい速さで外し、中の下着を見ると青ざめ絶叫した。
「いやーーーーーーーーーーん! あんたこんなブラ着けてちゃお乳がダメになるわよ! 信じられない! カップからお乳がはみ出してるし、アンダーもキツキツよ! 普段お胸が痛いでしょう? お乳が可愛そうだわ! ちょっとこっち来なさい!」
ヘルメェスは一気にまくしたてるとイチを店の奥の更衣室へと引きずりこんでゆく。
「おいおいおい! 一体どうする気だ!?」
イチはヘルメェスから逃れようとしたが首と腕を極められて身体の自由が効かない。どういうコツがあるのか、抵抗しようとしても自然と足がヘルメェスの誘導する方向に動いてしまう。
____くそ! なんて力だ!
イチは店内に陳列された色とりどりの下着の中、抵抗虚しくヘルメェスによって店の奥へと連れ込まれてしまうのである。




