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RiO  作者: 山野佐月
9/11

『リオ、出発する』その④

 



 前方からはサラダ油を持ったドローン。


 照明のせいで視界は良好ではない……だがしかし、犯人……つまり『操縦者』が取ったこの二つの手によって、今、そいつが、どこにいるかが分かった……


「……とりあえず、こっちはまずいか!」


 私は後ろへ下がり、コンピュータ売り場を出る。

 右斜め後ろの方の道の先に階段があった。

 ……あれを利用することにしよう。


 すると、後ろから、さーっ、という音がする。

 聞き間違いかと思ったが、念のため振り向いてみると、そこにはドローンが……油を持っていた。


「……」

 さあここからはスピード勝負だ。


 私は少し抵抗したが、ドローンが投げるサラダ油に当たってしまう……という、演技をする。


 案の定、大爆発を起こした。

 油がかかり、私の体は燃え始める。


 だがそれは修復すれば良い……良し。

 私は走りだ……………………待てよ。


「……しまった……」


 階段の前まで来て、ようやく気づいた。

 燃えるって……私の体は燃えても元に戻るが、着ている服は……


 否。私は既に服を着ていなかった。


「オーマイガーじゃないか!!!」


 恐らく二階の吹き抜けの上から私を目視していたであろう操縦者の元へ、階段で追って行くつもりだったが……

 畜生……


 私は衣類を探す為に、二階に上がれず、一階の洋服店に駆け込むことになってしまった。

 この野郎……私をこんな目に遭わせやがって!!


「……はぁ、はぁ……」


 女性向けの服を取り扱う店の一つに入る。


 ここで監視カメラを破壊すれば、居場所がバレる……くそぉ……本当は、カメラに裸を取られる心配なんてしたくないのに……!


 ……いやいや、落ち着け。

 映らなければいい話じゃないか……


 幸い、マネキンに棚、試着室とかで、かなり死角は多い。カメラに映らず服を取るなんて、簡単……



 ……などと思っていた私を殴りたくなった。


 また、さーっ、と、音が鳴った。

 この音、まさか!と思い、そろー……っと覗いてみると、案の定、小鳥サイズのドローンが飛んでいた。


 巡回用なのか……みりんや緑茶を持つような取っ手は無かったが、今の私はそれだけでは安心できない。


 あのドローンは映像と、なにより『音』を操縦者にLIVEで送っているはずなんだ……つまり、すぐそばにクローゼットが在るのに!服を取ることが出来ない!……


 つまりは、操縦者に裸を見られる心配……

 そして、居場所がバレて爆撃される心配……


 その二つがある。

 正直、こんなに精神をすり減らすことになるとは思っていなかった……最初このモールに来た時は、缶詰を貰ってさっさと帰ろうとぐらいにしか考えていなかった……


 なんだかムカついてきた。


 なんなんだ?……『自分』に腹が立ってきた。

 これは王の姿として相応しいのか?


 違うだろう……たかが『ドローン』たかが『爆発』たかが『チンピラ』……『ごとき』『程度』に、どうしてこの世の『王者』である私がこんな目に合わせられなくてはならない?


 どこで間違った?

 どこが悪かった?

 どうすれば良かった?


 くだらない。王は反省しない。過去を後悔しない。

 そして間違わない。間違っていない……


「……そうだ」


 私は、だんだんと近づいてくるドローンを覗き、そいつに殺意を向けていた……


 あのウザったらしい飛行物体を潰すにはどうすればいい?……私の『シェヘラザード』で潰すには。


 ロケットパンチでは威力が足りない。


 所詮あれは、手に蔓を纏わせて、それを取り外した物だ。つまりは、中が空洞だから……いくらスピードがあっても、『手袋』が当たる以上のことは無い。


 ……では、『手袋』を卒業するには?

 中を、何かで詰めて、重量を増すことが出来れば……それはもう一つの腕の様に強固になるだろう!


「……よし」


 監視ドローンとの距離:5メートル。

 向こうの棚を曲がって、ついにこちらの方へと向かってくる……私はクローゼットの一つに隠れる。


 ああ、服が吊るされているのに、音が出せないから着れない……だがそれももう少しの辛抱だ。


 ……早く来てくれ……殴り飛ばすから……

 今の季節は既に『冬』だ!……裸は寒い!!


 あと3メートル……


 腕に蔓をゆっくりと巻きつけ、

 そして、同じように、ゆっくりと外していく……その時に、同時に、その『手袋』の中を詰めていく……


 すると、先程とは違うことが起こる。

 ロケットパンチは、指先から伸びる蔓が手袋になっていたが、今回の『腕』は、気づけば、指先から伸ばしていたはずの蔓が、背中から伸びていた。


 ちょっと意味不明だが……


 本題はここから……あと1メートル……


 腕から完全に分離した『シェヘラザードの腕』だが、なんと、その背中から生える蔓で、自由自在に操ることが出来るようになったのだ。


 試してみよう。

 グー、パー、チョキ……チョキは無理だったが、ある程度は自在に、まるで自分の腕かのように操れる。


 よく考えればそれもそうだ……紛れもなく、自分の一部分なのだから。当たり前のことなのだ。


 だがしかし私は凄く嬉しかった。


 当たり前のことが。……何故ならこれで……身の程を弁えずに私を見下す奴らを『叩き伏せる』だろう!


「(第四の技能!)」


 シェヘラザードの腕が、飛んでいった……


 目の前に来たドローンを殴り抜き、壁に挟んで破壊した。……大丈夫だろう。撮られてないはず……


「……ふー……」


 そして前言撤回だ。

 私を撮ることのできるドローンなんてないし、見つかって爆撃されても私には効かない!


「存分に攻撃してきやがれ…………私もそちらへ向かうからな……この野郎!」


 私は服を一式揃えて持っていき、下着専門店に駆け込み、全ての服を着替え終わる。


 そうだ。これでいい。

 今までの服はどうしても、良い子ちゃんって感じだった……今の私にはこういった服がいい。


 軽いシャツに、ジーンズの短パン。

 シャツに書かれた文字は、Queen…。


 これは気に入らない。私はKINGだ。

 今は時間が無いから、後で上から塗りつぶそう……そして、装飾も付けよう。意味もなくチェーンとか付けるのが夢だったんだ。


 ……何にしても、操縦者を倒してからだ。



 私を吹き抜けの上から見つめる一つの影。

 ゲーム機のコントローラーを改造した、小型ドローン操縦機を持つ男がいる。


「……(このアマ〜!ドローン一個作るのにどんだけ時間かかってると思ってんだ!……だがしかし!……ヌードが撮れなかったのは残念だが、あいつは俺に勝つ方法は無い!)」


 男の心の声が聞こえるようだ……

 きっとこんなことを思っているのだろう。


 “あの木の能力、回復力には限度があるだろう。無制限に成長する植物など、あるはずがない。

 これまでと同じ、爆撃を続ければ、問題なく勝てる!……”



「(そしたらヤリまくってやるぜ!!!)」


「そこに居るな?」

「⁉︎」


 私は上の男の方を見る。

 彼は身を乗り出していたわけではないので、さっと隠れてやり過ごそうとするが、甘い。


「『腕』」


 シェヘラザードの腕を作り、店のマネキンをぶん投げさせ、二階の吹き抜けのガラスを破壊する……


「ぎゃああああっ!」

「突き刺さったか?……どっちでもいいが、お前の悲鳴が聞けて良かった……頑張って逃げろよ!追いつかれたら死ぬと思え」


「ひ……ひぃいいいいい!何なんだよォ!」

「『王』だ!ではそっちに行くぞ」


 私は今度こそ階段を上って行く。

 ……さあ彼はどっちに逃げるかな?


 前からドローンが五体。また油を持っているようだ。まったく、そんなに私の裸が見たいのか?ぶち殺すぞ!


「【シェヘラザァァァド】!!!」


 だんだん、中身を詰めて作らなくてはならない第四の技能が、早くできるようになってきた。


 拳と手首と一の腕(正確にはこっちが二の腕らしいが)の形をした硬い植物は、ドローンを掴み、後方へ投げる。


 こうすれば炎は食らわない。


 そして、操縦も不正確になってきたようだ。

 どうやら逃げながら操作している。


 そして……



「ひ、ひぃいいいいい……!」

「ようやく追いつけたぞ……全くこの野郎。お前が犯人だな?……」


 そこにいたのはフードを被った男。

 年上のようだが、気が弱そうだ……


「じゃあトドメだ!」

「ま、待て!」

「……?」

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