『東京:園村正野』その①
車で来るほど遠くなかったが、試運転の意味もあった。車は、私もマユも問題なく運転できた。
そして西高についた。
駐車場に車を置いて玄関口から入ろうとすると、私たち女子2人組を不審に思ったらしく、謎の男に足止めされた……当たり前のように銃を持っていた。
「おい……見ない顔だな」
「あなたもヤクザ?私は園村さんって人がここにいるかどうかを訪ねに来たんだけど」
「暗号を言え」
「……」
「………………」
「…………」
「よし。通っていいぞ」
私たちは通してもらった。
どうやら、『チャラいの』と『メイド』の組み合わせのせいなのか、私たちもヤクザだと思われたらしい。
「リオ様、今のって……」
「暗号を言えって言われて、何も言わなかったら通すってルールなんだろうな……いやあ助かった」
「助かったって……まさか、分からなくて黙ってたんですか……?」
「いや……分かるわけないだろ。この世に単語や数字がいくつあると思ってる……」
だがまあ。私は世界に愛されているから。
最終的にはどうにかなるに決まってる。
「……いやほんと、愛されてますよ……」
「さて、それで、西高の生徒じゃないっぽい奴が、拳銃を持って警備してたが」
「まさかこの学校、ヤクザに支配されて……?」
「うーん……しかし……」
私たちは廊下を進む。
西高は一応進学校ではあるが、基本的にはなんの変哲もない、普通の学校である。
強いて特殊な点を挙げるなら、生徒数が1300人程に対して、明らかに2000人規模を想定している建物のつくりで……つまり無駄に校舎がでかいということ。
それぐらいである。
まあおかげで廊下も広いし、無駄とは言い切れないか。
「『しかし』?どうしました?ハッキリ言ってください。リオ様はそういう誤魔化しのセリフが多いです」
この毒舌メイドが。
舌に口内炎でも出来やがれ。
「いや……ヤクザってあんまり聞かないから。なんか流れてた話題だけどさ……そもそも、こんな田舎に、そんな物騒なのがいるなんて聞いたことなかった」
「ふむ……」
マユはうつむく。そして頭をグリグリする。
思い出しているのか……そのあざとい動作は天然でやってるのか……?
フン!可愛い奴め……死因を独り占めしてやりたい。
「そうですね。たしかに……思い出しました。こちらに来る前、事前調査をしたのですが、確かに至極平和な地域だと思った記憶があります」
「だろ?」
“てめえ知らねえのか!ここら一帯を統治してるヤクザの王だよ!園村正野さんだ!”
マジで知らなかった。
ということは、統治を始めたのは大人消失後ということで間違いはないだろう。
「やっぱり支配されてるじゃないですか」
「だな」
「なーにが支配だって?」
「!」
「…………」
その時だった。
私たちが通り過ぎる教室の、廊下側の窓が一つ空いていて……そこから、教室の中から、話しかけてきた人物がいた……
知らない顔だった。
「!!」
「…………」
「園村さんに何か用?見かけない顔だけど……」
ちゃらけた青年。
椅子に座って、無害そうにこちらを見つめる。
「どうも。まあ……同業者なんだけど。私の名前はリオ。親父が嫌いだから苗字は教えないけど」
嘘である。我ながらよく出てきたな……
え?王は嘘をつかない?
違う。嘘をついても許されるのが王だ。
でも、お父さん大好きな私がこんな嘘、吐きたくないというのが本音だがな……
「ああ……あんたも会いにきたクチね。そっちのはメイド?先に言っとくけど、残念だけど、園村さんは一対一でしか人と話さないよ。」
「そう。ありがとう」
「……」
彼は怪しんでこちらを見ている。
気づかれているのか……?……どちらでもいい。
来るならきやがれ……
「……で、正野さんの部屋はわかる?」
「知らないな。君に案内してもらえると助かるが」
「やんのか?」
「キレポイントの分からないやつだな」
彼は怒りながらも、私たちを先導してくれた。
さて、しかしノープランだった。
どうする?園村正野に会って…………まだ学校が支配されたというのも不確定なのに。
いやそもそもだ。
生徒さえ無事なら、こんな建物……
いっそのことくれてやってもいいだろう。
確かに思い出の地ではあるけれど……彼らだって、遠くからこの地域に来たのは、安心して寝れる場所が欲しかったからかもしれない。
……まあ、万が一……
……危険だから、生徒には家にいるように言っておいたが……娯楽もないのにずっと引きこもっているのは不可能だっただろう。
結構な生徒が、再び学校に来たに違いない。
それも一つの自衛本能だから……仕方ない。
……そうやって、学校に来た生徒が……
……もし!……危害を加えられているのなら……
私は園村正野とかいうのをぶっ殺す。
嘘だ。流石に殺しをやるつもりはない。
だが、もう二度とヤクザなんてしたくならないぐらいには痛めつけてやる。
「……さて、着いたよ」
「……ここは……」
校長室だった。
「ああ。趣味が合うな。私も、廃学校のどこかに住むなら、校長室が良い」
「そりゃ良かった。園村さんは合わないと思った人はすぐに退室させるからね……話が合うならそれが良い」
そう言って、彼は振り向いた。
すると……何ということか。剣幕な顔をしていた。
さっきまでの陽気な彼はどこに?
「……どうした?怖い顔して」
「まさか……ここまで……ここまで、暗号を完璧にしてくる人がいるとは思わなかったよ。君は本物だ」
「?」
「ボクに会って……『同業者だと言って』『親父が嫌いで』『廊下を歩くうちに3回以上髪の毛を触る』……」
「????」
「……リオ様、まさか……」
「合格だ。そしてまさか本当に来るとは思ってなかったよ……『天坂理音』!」
私はちょっとびっくりした。
誰しもいきなり名前を呼ばれると驚くものだが、それは王も例外ではない。
「……本名を知ってたのか」
「数学オリンピックをやったことがあってね……5回やって挫折したけど、必ず一位を取る天坂理音のことは覚えていたよ」
そうそう。
母親がいなくなって、父との静かで楽しい生活が始まって……本を読むのに飽きたころ、数学オリンピックをやってみたところ1位を取れたんだっけか……
「……では、ここまでのやりとり全てがあng」
「マユ。誰が喋っていいって言った?」
『暗号だったということですか』などと言ったら、全て『偶然』で突破できたことがバレるだろうか!!
いや、ほんと、神に愛されすぎだ。
こんな偶然があるだろうか……なんなら、このミラクルを、マユと、彼も一緒に祝いたいぐらいだ。
「Angou datta to iu koto desuka」
「おい!」
なんでローマ字で無理やり喋った!
お前は主人を愛さないのか!
「何……気づいてなかったのか?全て偶然?」
「くっ……」
ばれたか……こうなったら、仕方ない、とりあえず彼に仲間を呼ばれたら困るので、シェヘラザード第四の技能『腕』で彼を殴り倒すしか……!
「いや……メイド。変なジョークを言うんじゃない。こんな無茶苦茶な偶然が重なるなんて、あり得るか!」
「……申し訳ありません」
それが普通の考え方だったな……
助かった。とりあえず即座に戦闘ということにはならずに済んだ……
「じゃあ、ここ……園村さんが中にいるから、何だか知らないけど話してくるといいよ」
「私は『通していい』のか?」
「……“彼女は必ずここに来て、何らか取引をしてくるだろうから、こちらに有益かも知れない。とりあえず通せ”って言ってた」
……なるほど。
まあ別に、ヤクザに生徒が虐げられてないか様子を見に来ただけで……必ず行こうとしていたわけではないが。
それに、取引ね……何もするつもりは無かった。
とりあえず、事実確認だけ……
園村正野に聞いてみよう。
まさか西高の生徒に酷いことしてないだろうな?と……
ドアを開けて、中に入る……
そこには、それなりに大柄な男がいた。
「……何だ?」
「邪魔するわ。私は天坂理音。知ってる?」
私はそいつに話しかける。
踏ん反り返って座っている男に……
「……ああ……そこ座れ」
そこにいたのは園村正野。
さすがに、子供とはいえヤクザ……貫禄がある。
校長の椅子に座って、鋭い眼光を……
ん?なんか……この椅子……柔らかい……
何か人肌みたいな……
「⁉︎」
「り、リオちゃん……逃げて……!」
私は驚いて立ち上がった。
椅子が喋った!
のではない!……人間じゃないか!
というか元クラスメイトじゃないか!
「……て、おい!……何でこんなところで四つん這いになってるんだ!」
「おい天坂理音……何してる。いいから座れよ。そいつの『役職』は『椅子』なんだなら」
「は?」
それを聞いて、全て察した……
私は、とりあえず、園村正野という男は、ぶん殴られるべきだと思ったので……
ぶん殴った。




