アレクセイ動く
大変お待たせいたしましたm(._.)m
さて、王太后も療養のためとはいえ王宮から去り、宰相も隣国に行っている現在、王宮では微妙な空気が漂っていました。
大臣は王太后の後ろ盾を背景に、娘を側妃にして勢力を伸ばして来ましたが、所詮は王太后の権力があってのことです。
療養のためとはいえ、王宮を離れたいまその力が揺らぎつつありました。
大臣はそんな空気を感じて、隣国の王族と娘の縁談を早急に取りまとめたいと思いましたが、肝心の王太后がいないのでは話しの進めようがなく少し焦っていました。
そして、今まで大臣に遠慮して無視したわけではないですが、遠巻きに眺めていた貴族たちがナターリアの存在を気にし始めました。
何といっても現在ただ一人の王子の生母であり、公爵家出身ともなれば王妃の資格は十分にあるのですから。
そんな空気の中、とある人物が密かに国王アレクセイに呼び出されました。
「失礼致します。陛下、お約束の方が参られました。」
侍従がその人物の訪れを告げます。
「こちらへ通すがよい。ああ、それからしばらく話したいから誰が尋ねて来ても取り次がぬように。」
アレクセイは待ちわびていたのですが、それと悟られぬように何でもない様子で侍従に言い付けます。
「承りました、陛下。ではこれにて、失礼いたします。」
侍従はそう言うと、その人物を部屋に招き入れてすぐ下がって行きました。
「失礼いたします。陛下には、ご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。お召しにより参上いたしました。」
その人物はいつもと違って慇懃無礼なほど、礼を尽くした挨拶をします。
その挨拶を見たアレクセイは少し不機嫌な様子で、
「嫌味を言っているのか、ロプーヒナ公爵?」
「何を仰せられます。私はご挨拶を申し上げているだけでございます。」
ニヤリを笑って、現ロプーヒナ公爵レオンが答えます。
アレクセイは苦笑いをして、
「まあいい。よく来てくれた。ここへ座れ。」
そう言って、奥のソファーに案内をします。
「恐れ多いことでございますので、こちらで結構でございます。」
レオンに似合わず遠慮した物言いをします。
その様子を見たアレクセイは少しイライラして、
「鈍い奴だな。内密な話をしたいと言うことだ。それともわざとやっているのか?」
「いいえ、陛下のお召しなど慣れないものですから失礼をいたしました。それでは、失礼させていただきます。」
レオンはニヤリと笑って奥のソファーに座ります。
「…それで陛下、ご用となんでございます?」
レオンは座るなり、用件を切り出しました。
「さっきとは態度が違うようだが、レオン?」
アレクセイは怪訝そうに尋ねます。
「気のせいでしょう、陛下。私はいつもと変わりませんが?」
レオンは涼しい顔で答えます。
「まあいい。ところで、ナターリアと王子は元気で過ごしているか?」
アレクセイは遠慮がちにレオンに尋ねます。
「はい。ナターリアさまも王子さまもとてもお元気でお過ごしでございますよ。定期連絡はさせていただいているはずですが、それでお召しになられたのですか?」
レオンはめんどくさそうに答えます。
「そういうわけではないが、離れて暮らす妻と息子の様子を聞いてはいけないのか?」
アレクセイは少し不満そうに言います。
「おや、陛下。何を仰せられるかと思えば、そう仕向けたのは陛下かと思いましたが?」
レオンは辛らつな言葉で嫌味を言います。
アレクセイは思わず言葉につまりましたが、
「そ、そんなつもりは…、ない。」
と答えました。
「そうですか。…陛下、恐れながら一言申し上げてもよろしいですか?」
冷ややかな様子でレオンが言います。
「何なりと申すがよい。」
アレクセイは少し不安そうに答えます。
「では申し上げます。さきほど、陛下は妻と息子と仰せられましたがそれは違いましょう。国王陛下の妻は王妃さまただ一人にございます。ナターリアさまは王子さまの生母ではありますが、側室の一人に過ぎません。違いますか?」
レオンは皮肉をこめて言います。
「そ、それはそうだが…。ナターリアは私にとっては妻同然だ。王妃にしたいと思っていたのだ…」
アレクセイは自分の気持ちを吐露するように言います。
「ふうん。陛下はそれでよろしいが、ナターリアさまのお気持ちやお立場を考えたことがありますか?王太后さまのお気持ちも…。」
レオンはたたみかけるようにアレクセイに言い募ります。
「それは…、分かっているつもりだが…」
アレクセイは痛いところをつかれて思わず言葉を濁しました。
「本当でございますか?ならばどうしてこのようなことになるのでしょうね。」
皮肉たっぷりにレオンが問いかけます。
それを聞いたアレクセイは思わず肩を落とし、
「本当だな…。私が至らないせいだろうな。」
「…恐れながら、私は陛下の愚痴を聞きにここへ呼ばれたのでしょうか?」
レオンが苛々しながらアレクセイに問いただします。
「ああ、すまない。少し頼みたいことがあって呼んだのだ。聞いてくれるか?」
少し弱気な表情でアレクセイが答えます。
「ふぅ…。しかし、国王陛下の頼みでは、私に拒否権はないのでしょう?」
レオンが不貞腐れたように答えます。
「まぁ、そう言うな。ロプーヒナ公爵の力を借りたいのだ。レオンでなければ出来ないことなのだ。ぜひ協力をして欲しい。」
アレクセイは真摯な態度でレオンに語りかけます。
これは今までにないことでした。
レオンはお坊ちゃま育ちのアレクセイがいったいどうしたのかと、目をパチクリさせました。
「陛下、いったいどうされたのです…?その物言いはまるで人が変わったようですが…。」
レオンは怪訝そうに尋ねます。
「ん…、どういう意味だ?」
アレクセイは少し照れくさそうに答えます。
「何と申しますが、その命令口調でない言い方ですよ。陛下がそのようなことを仰せになる日が来るとはねぇ…。」
レオンは感心したように言います。
「まあ、それなら協力してもいいかも知れませんね。」
レオンがニヤリを笑って答えたあと、すっと臣下の礼をして、
「承りました、陛下。私にできることならばなんなりとお申し付け下さいますように。」
「レオンいやロプーヒナ公爵…。ご協力感謝する。」
アレクセイは苦笑しながら礼を言います。
「実は頼みたいことなのだが…」
あまり進んでなくてすみません。
次回からいろんなことが変わっていく予定です。
よければまたお読みいただければうれしいです。