ナターリアの決心
「ナターリア…。立ってないで座ったらどうだ?」
アレクセイが気遣うようにナターリアに言いました。
「あ、はい…。失礼いたします。」
ナターリアはこんな不機嫌そうなアレクセイを見るのは初めてのことでしたので、びくびくしながら近くの席にそっと座りました。
ナターリアが座ったのを確認すると同時に、アレクセイがぶっきらぼうに尋ねました。
「それで話したいこととはなんだ?」
「はい、アレクセイさま…。先日の王妃にとのお話しでございますが、私に務まるのならぜひお受けしたいと存じます。」
ナターリアは少し緊張しながら答えました。
アレクセイは喜ぶべきところでしたが、先ほどの話しを聞いたばかりでしたので素直にその言葉を聞くことが出来ずに、
「そうか。無理にとは言わないぞ。ナターリアが嫌なら、なかったことにしてもいいのだが…。」
アレクセイのあまりの変わりようにナターリアは、どうしていいかわからなくなり、心細そうに、
「あの、陛下…。私では務まりませんでしょうか?」
アレクセイはそのナターリアの言葉を拒否と受け取り、試すように、
「いや、そうは思わぬがな…。ま、王妃になるのなら、先ほどの侍女は実家に返した方がいいだろうな。」
それを聞いたナターリアは、愕然としてしまいました。
「それは、なぜでございますか?先ほどのことはお許しをいただいたのでは…。」
「まあ、そうだが…。しかし、あのような侍女は王妃付きにはふさわしくないと思うぞ。ナターリアが苦労をするだけだ…。代わりの侍女なら余が遣わせよう。」
アレクセイは少し含みをもたせたように話します。
「そ、それは…、私が王妃になるためにはアリスは邪魔なのですか?で、ですがアレクセイさま、アリスは私にはかけがえのない大切な侍女でございます。」
ナターリアはアレクセイに哀願するように答えます。
「いや、まあ…。あの侍女もよく仕えているのだろうが、これまでとは違い、王妃付きともなれば気苦労も多い。実家に返した方が幸せではないかと思ってな。」
アレクセイは取り繕うように答えます。
「それは、そうかも知れませんね。アリスのためになるのなら、仕方ありません。そのように致しましょう。」
ナターリアは思いつめたように答えます。
アレクセイは少し驚いて、
「よいのか?大切な侍女のだろう、いなくなっては…。」
「はい…、アレクセイさま。私にはアレクセイさまやアルバートがおりますからきっと大丈夫でございます。」
ナターリアは健気に決心して答えます。
それを聞いたアレクセイは急に機嫌が良くなり、
「もちろんだとも。きっとナターリアを守ってみせる。」
そう言うとアレクセイはナターリアの側に寄って抱きしめました。
「アレクセイさま…?」
ナターリアは戸惑いがちに問いかけました。
「いや、ちょっと嬉しくてな…。今日はここに泊まってもよいかな?」
アレクセイは少しはにかみながら尋ねました。
「はい…。うれしゅうございます。」
ナターリアはアレクセイがいつもの様子になったことに安心したのか、ふっと安心して微笑みました。
笑ったナターリアを見て、アレクセイも嬉しくなって、その夜はいつになく、仲良くいい時間を過ごしました。
翌日、アレクセイが戻ってから、ナターリアはしばらく泣き伏してしまいました。
それはアリスとの別れを悲しんでいるのか、それとも王妃への重圧に苦しんでいるのか…。
果たしてそのどちらか、その両方だったのかも知れません。
読んでいただいてありがとうございます。
このお話しを書き始めたときは一人でも読んでくださる方がいればと思っていたのですが思いがけなくたくさんの人に読んでいただいて感謝するばかりです。
そのためか、私の思うように書いていっていいのか悩んでいましたが、思うように書いてみることにしました。
よろしければどうぞお付き合いいただければ幸いです。