王太后の企み
じわじわと意地悪が始まります。
苦手な方はスルーして下さい。
ナターリアが決心してから数日たち、アリスも間もなく公爵家に下がって行きました。
その代わりに遣わされた侍女とは、あの事件の折、仕えてくれた女官のアンナでした。
「ナターリアさま、お久しぶりでございます。これからどうぞよろしくお願いいたします。」
アンナは深々とお辞儀をして挨拶をしました。
ナターリアは見知った者でしたので、少し安心したように、
「まあ、アンナ…。これからよろしく頼みます。」
「ふつつかではございますが、精一杯務めます。」
アンナは微笑んで答えます。
「ありがとう。頼りにしているわ。早速だけれど、王太后さまのもとに伺いたいの。お願いしてもいいかしら?」
少し複雑そうな顔をしてナターリアはアンナに言いました。
「は、はい。早速手配いたします。ではこれにて…。」
アンナは少しナターリアの表情が曇っているのが気にかかりましたが、王妃になられるからかしらと、思い直し、王太后さまへの訪問の手配にとりかかりました。
「そう…。私の頼みが聞けないって言うことね、ナターリアどの?」
不機嫌そうに王太后がナターリアに言い放ちました。
「は、はい…。ご期待に応えられずに申し訳ございません、王太后さま。」
ナターリアは俯いて申し訳なさそうに答えます。
「それでは王妃になられるのかしら?」
王太后が窺うように尋ねます。
「は、はい。恐れながら、陛下にそのように申し上げました。」
ナターリアは言いづらそうに答えました。
王太后は眉をひそめて、
「それはおめでとうと言うべきかしら、ね。だからナターリアどのの侍女にアンナが付いたのね。」
そう言うと王太后は側に控えていたアンナに視線を向けました。
「恐れ入ります。」
ナターリアは恐縮しながら答えます。
「そうですか…。あの侍女もよく仕えていたと思ったのだけれど、ね。」
王太后は皮肉そうに微笑みました。
ナターリアはその言葉を聞いたときには、本当にそうだわと、辛い表情で俯くばかりでした。
王太后はそんなナターリアを見て、ふっと笑い、
「ナターリアどの、あなたがそんなに利己的な人だったなんてね…。ずっと仕えてくれた侍女を切り捨てて王妃になるなんて思わなかったわ。」
それを聞いたナターリアは、あまりの言いようにふるふると体が震えが止まりませんでしたが、ふっと顔を上げて言い返しました。
「王太后さま、アリスは私にはもったいくらいの侍女でございました。」
「あら、それならなぜ実家に返したのかしら?」
王太后が意外そうに聞き返しました。
「私のために苦労させてはと、思いまして。」
勇気をふりしぼり、ナターリアは答えます。
その答えを聞いた王太后ははっとしました。
強くなったものだわ…。後宮に入ったころとは大違いだわ。
「そう、誤解してたようですね。失礼を許してちょうだい。ナターリアどのは優しい方ね。いい王妃になりそうだこと。」
王太后は軽くお辞儀をして、謝罪しました。
「いえ、とんでもございません。こちらこそ失礼をいたしました。」
ナターリアは静かに答えます。
これでは、シャルロッテどのを王妃にするのは難しそうね。
王太后は難しい顔をして、
「ナターリアどの、準備でお忙しいでしょうからもうお帰りなさいませ。」
取り繕うように提案します。
「あ、これはお気遣いをいただきまして、ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして失礼させていただきます。」
遠慮がちにナターリアはそう言うと、アンナとともに部屋へ戻っていきました。
二人が王太后の居室から去ると同時に王太后は大臣へ使いを出しました。
それはもちろん今後のためでした。
それから一ヶ月もしないうちに大臣の暗躍によりカールがテオドラ王女付きとして仕えることになりました。
「さすがは大臣ですね。どんな手を使ったのかしら?」
王太后は満足そうに大臣に話しかけます。
大臣は思わず、くっと笑い、
「それはお知りにならない方がよろしいかと存じますが。それより、お約束の件、よろしくお願いします。」
「分かっておりますわ。もう手配済みだから期待していてちょうだい。」
王太后は心得たように答えます。
「それはそれは、楽しみでございます。して、お披露目はいつ頃になりそうですかな?」
大臣は期待に満ちた表情で王太后に尋ねます。
「そうね、次の夜会でお披露目となるでしょうね。」
王太后はそう言うと紅茶を飲み干しました。
「それは楽しみでございますな。我が娘は幸せ者でございますよ。」
大臣も満足そうに紅茶を飲みました。
王太后は、
夜会でナターリアどのはどんな顔をするかしら…。
楽しみだわ。
ふふっと意味ありげにほくそ笑みました。
そして運命の夜会の日がやってこようとしていました。
この日は表面上テオドラ王女の婚約祝いでしたが、アレクセイはナターリアを王妃候補としてお披露目するつもりでした。
王太后は王太后で、大臣の娘の祝いのお披露目をしようと計画をしていました。
「ナターリアさま、お聞き及びにございますか?」
アンナが夜会の支度を整えたナターリアに尋ねます。
「何をです?」
ナターリアが不思議そうに尋ねました。
「あの、以前ご実家のロプーヒナ公爵家をお救い下さいましたカールさまがテオドラ王女さまのお付きになられたとのことでございます。」
アンナがナターリアを気遣うように答えます。
それを聞いたナターリアは、驚きのあまり、手にしていた扇を取り落としてしまいました。
「そ、それは…。いったいどうして?」
「さあ、詳しいことは存じませんが、王太后さまはその者がテオドラ王女さまのお付きになると、たいそうお喜びになられておられるとのことでございます。」
アンナが聞いたばかりの噂をナターリアに告げます。
「そ、そんな…。では私が王妃になることには、何の意味もなかったの?」
ナターリアはすっかり放心したように呟きました。
アンナはナターリアが落とした扇を拾い上げて渡しながら、
「そ、それはどういうことにございますか?ナターリアさま。」
アンナは聞き捨てならない様子で尋ねます。
ナターリアは、動揺したように、
「いえ、あの…。私、以前に王太后さまに私を王妃にしないで欲しいとお願いしに行ったことがあるの。でも、その代わりにカールどのを王女さまのお付きにと望まれたのです。」
「そ、そのようなことが…。それでナターリアさまは何となされたのでございます?」
アンナが先を促すように震える声で尋ねました。
「あの…、その件はお断りしました。カールどのにご迷惑をおかけするわけにはいかないですもの。だから、私が王妃になればと思ったのだけれど…。」
ナターリアが力無く答えました。
「そんなことがあったのですね…。 経緯は分かりませんが、カールさまのことはもう止められますまい。」
アンナが仕方なさそうに言います。
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いまは苦しいですが、早くハッピーエンドが迎えられるように頑張ります。




