シャルロッテの失態
シャルロッテはホッと一安心していました。
王妃候補に相応しい後宮でも勢力のある妃に与えられる豪華な部屋を賜っているのに、なぜか肝心の陛下があまり部屋を訪れてくれません。
大臣の娘で王太后のお気に入りであるはずの私がなぜ…?
やっと訪ねてくれて、紅茶も美味しいと陛下に褒めてもらえたのでシャルロッテは、一安心で、幸せな心地でした。
そんなときでした。
ぼんやりとお茶を飲んでいたアレクセイが、
「もう、戻らなければならない。」
それを聞いたシャルロッテが顔色を変えて、
「陛下、まだいいではありませんか?」
「いや、そういうわけにもいかないから。」
そっけなくアレクセイは言って、立ち上がりました。
「そんな、久しぶりにお逢いできましたのに…。」
残念そうにシャルロッテが言って、アレクセイの手をとります。
その様子を見たアレクセイは思いました。
ナターリアは一度もこんなことを言わなかったな。
言ってくれれば少しぐらい居るのにな…。
「陛下、いいでしょう…?」
シャルロッテがあまえて話しかけてきました。
アレクセイはハッとして、握ってきた手を離して、
「すまない。もう時間なんだ。」
「陛下、お迎えに参りました。」
陛下付きの女官アンナが迎えにやってきました。
陛下はシャルロッテに悪いと思いながら、
「ああ、いま行く。」
そう言って立ち去ろうとしました。
そのとき、シャルロッテがさっとアレクセイの前に立ちはだかり、
「陛下、お待ち下さいませ!もう少しだけこちらにいらして下さい。」
その姿にアレクセイも少し驚き、苦虫を潰したような顔で、
「無礼だぞ、シャルロッテどの。いまから会議があるのだ。許せ。」
「それなら、お父さまに言えば時間などどうにでもなりますでしょう?アンナとやら、お父さまに会議の時間を遅らせるようシャルロッテが申していると伝えてきてちょうだい。お願い。」
シャルロッテがアレクセイとアンナに哀願します。
アンナは、女官になってから妃からこんなことを言われたのは初めてのことなので、どうしてよいか分からず、アレクセイの方を向いて、
「陛下、あの…。」
アレクセイはさすがに腹をたてて、強い口調で、
「シャルロッテどの、無礼と申しているであろう!行くぞ、アンナ。」
そう言って部屋を後にしました。
アンナもあわてて、
「シャルロッテさま、失礼いたします。」
と言うと部屋を出て行きました。
残されたシャルロッテは何が起こったかすぐに理解出来ませんでした。
これまで大臣の娘として生まれ、叶わないことは何一つありませんでした。
それがいま、起きてしまったのです。
どうして…。
陛下はなぜ居て下さらなかったの?
お父さまなら何でも私の望みを叶えてくれたのに…
シャルロッテは呆然と立ち尽くしてしばらくその場を動くことが出来ませんでした。
会議があるために後宮から会議室に向かったアレクセイは、
会議の前に女官長を呼び出しました。
「陛下、お呼びと伺いましたが、何用でございましょう?」
アレクセイは不機嫌そうに、シャルロッテの部屋であった出来事を話しました。
「まっ、そのようなことが…。」
女官長はさすがに驚いて絶句してしまいました。
「まったく母君といい、シャルロッテどのといい…。無礼にもほどがある。女官長、注意をしておくように。」
ため息をつきながら、アレクセイは女官長に指示をしました。
「かしこまりました。そのようにいたします。」
女官長は、困ったことになったなと思いながら答えました。
そして、陛下の命令でもあり仕方なくシャルロッテの部屋に行き、注意をしてきました。
そして、案の定、シャルロッテは王太后に泣きつきました。
「王太后さま、私、くやしゅうございます。少しだけ陛下に居てほしかっただけでございますのに…。」
涙まじりにシャルロッテが王太后に訴えます。
女官長から一部始終を報告を受けていた王太后は困った顔をして、
「シャルロッテどのの気持ちも分かりますが、それは陛下に対して無礼ではありませんか?」
「王太后さままでそんなことをおっしゃるのでございますか!どうしてナターリアさまだと何も言われなくて、私が言われなくてはならないのでございます?」
シャルロッテはくやしそうに王太后に尋ねます。
それを聞いた王太后がハッとして、
「シャルロッテどの、何を言ってるのですか?」
「とぼけないで下さい。ナターリアさまが執務のある陛下をお茶会に連れ出したではありませんか?それなのに、何のお咎めもないのになぜ私だけが…。」
プリプリと怒りながら、シャルロッテが訴えます。
王太后はため息をついて、
「シャルロッテどの、違うのですよ。あれは陛下が勝手にお茶会に来ただけなのです。ナターリアどのはその場にいただけで…。」
「ごまかさないで下さいませ。ナターリアどのに逢いにきたのなら、同じことでしょう!」
シャルロッテはかまわず応戦します。
王太后はさすがにあきれて、
「それならもう何も言いませんよ。けれど、陛下の機嫌を損ねることのないように気をつけて下さいね。陛下には私から執り成しておきますから。」
それを聞いたシャルロッテはホッとして、
「ありがとうございます。気をつけますので、執り成し、よろしくお願いします。」
その様子を見た王太后は、
私も亡き陛下に居てほしかったけどそこまでしたことはなかったわ。
嫌われたくなかったし、妃にあるまじきこと。これでは王妃は務まらないかも知れないわね。寵妃にところに通ってもドンと構えていないといけないのに…。
数日後、王太后のお茶会に三人の側妃が揃って参加していました。
シャルロッテはなぜ二人も参加するのかと不満でしたが、王太后の意向ですから仕方ありません。
「王太后さま、ご招待ありがとうございます。」
「よう参られました、側妃方。さあ、こちらへおいでなさいませ。」
王太后が笑顔で迎えます。
「いかがですか、後宮での生活は?もう慣れましたでしょう。」
王太后が三人に問いかけます。