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転生ループものです。よろしくお願いします…!
よくあるお話。説明なんて、不要だろう。
それでも、今一度想像してみてほしい。事故に遭って、大好きなコンテンツの世界に転生されたら、あなたはどうする?
「…なっ、へ!?外国!?…イケメン!?」
きっと私と同じ反応をするだろうから。
だって聞いてほしい。
最推しビジュ声つよつよ王太子ルカスの、実写版が目の前にいるのだ。
大人気乙女ゲーム『マジック学園☆青春満喫中!』という、やけに平成味溢れるこのゲームの攻略キャラの中で1番人気にして最難関、今を時めく人気若手声優がCV.を務めた、あのルカスティード殿下だ。
私だって夢中になって何度もプレイした。
あの声で愛を囁かれたくて。美麗スチルを保存したくて。
でも。
何度プレイしても、何度リセットしても、必ずバッドエンドなのだ。
ある時は婚約破棄。ある時は大逆罪を犯したとして追放。その次は二人そろって死亡バッド。その次は…思い出せない。
製作者側はクリアさせる気がないんじゃないかと噂された鬱ルートのルカスが、今私の目の前、というか私の下にいる。
なぜか転生してきたときにルカスの真上に落下したのだ。
突然の状況に、体をどかせることも忘れ、呆然としていると、実写版ルカスが私の腕をポンポンと叩いた。
「サ、サラ…どうしたの?転移魔法でも失敗した?」
石畳の上、私の下で、肘を支えにして身体を横たえるルカスは困ったように笑い、首を傾げる。
そのあまりの破壊力に思わず心臓を抑える。
「サラ、あの…そろそろ退けれる?」
「あああああごめんなさいい!!」
とりあえず私(?)が押し倒してしまっている状況を再認識して、慌てて飛びのける。ていうか王太子様をこんな石畳に押し倒して、何やってるんだ!
「本ッ当にごめんなさい!お怪我はありませんか?」
「怪我?そんなの無いけど、どうしてそんな余所余所しい話し方?それに顔も赤いけど…。」
それはそんなイケボで話しかけられるから…とは言えず、とりあえず両手をぶんぶん振って「なんともないです!」とだけ答えた。(ちなみに特典のASMRのために10万課金したガチ勢ではある。)
それにしてもこのシーンは見覚えがない。夕方の下校時刻、学園前の馬車乗り場でルカスの元に落ちてしまうなんて…私はどの時点に転生したのだろう。
唇に手をあてきょろきょろしながら考え込んでいると、顔面力の強すぎる王太子が心配そうにのぞき込んできた。
「ひっ…!」
「大丈夫?やっぱり体調でも悪い?そんなに狼狽えている君、初めて見た。なんか新鮮で可愛いね。」
ああ!人間国宝とはこういう人のことだ!
あまりのカッコよさに涙が出る。
「え、なになに、新手の印…?」
「拝んでいるんです…。」
「本当にどうしたの、今日!?明日のプロムでの婚約発表がやっぱり嫌になったとか?」
「…ん?ぷろむ…、こんやく…?」
「確かに僕たちの婚約は政治的な理由も大きいけど、そんなに君の負担になっていたなんて…。」
はちみつ色の切れ長な瞳が憂いを帯びて伏せられる。私の瞼にスクリーンショット機能が付いていればいいのに。
なんて、呑気な思考の傍ら、プロム、婚約発表というワードで、この場が”ルカスルートの3年、卒業間近”だということが分かった。
婚約内定までいっているなら、わりかし上手く進んでいる方だろう。
これはもしかしたらワンチャン、ハッピーエンドの線も出てきた。
「いやいやいや!違うんです!婚約が嫌とかじゃなくて、えっと、緊張?そう、緊張しちゃって!」
「君でも緊張することがあるんだ。」
ルカスはきょとんとする。
いやいやサラ、緊張すらしない完璧主義ヒロインだなんてハードルを上げてくれちゃって。勘弁してくれ。
「なら良かった。明日、迎えに行くから。贈ったドレス、着ておいてね。大好きだよ、サラ。」
にっこりと微笑み、ルカスは立派な馬車に乗って去って行った。
残された私は、校門のレンガの壁に寄りかかり、うるさい心臓をなんとか落ち着かせようとする。
(待って待って待って、ルカスルートのヒロインに転生とかご褒美でしかないんだが!?)
卒業間近ということで、ルカスとの青春学園生活を楽しめなかったのは若干残念だが、どうせおまけの人生だ。生ルカスを拝めて生ルカスヴォイスを聞けただけで有難い。
しかもふれあい特典つき。やばい。
先ほどポンポンと触れられた右腕をそっと包み込む。
目を閉じて、肌の温かさや声、笑った顔を脳内ギャラリーに永久保存できるよう何度も何度も思い出す。本当にかっこよかった、理想の王子様…と、うっとりしていた時。
「あ~ら、どこぞの御者かと思ったらサラ様じゃありませんの!」