第79話 新たなる仲間
『ねぇ、パイちゃん。異世界召喚って知ってる?』
「知ってるわよ。あなたの口からそんな言葉が出てくるとは、意外ね」
『実は王宮から盗み出した本の山を漁ってたら、異世界召喚に関する本があったんだよね』
そう言いながら、ダンは一冊の本を取り出す。確かに【異世界召喚】と題名には書かれていた。
「ああ、それね。眉唾物の話よ」
『これって一体、どんな本なのかな?妙にね…こう、引き寄せられる様な気がして、手に取ってみたの』
「昔、ある国にね、魔族が攻めてきたの。その魔族はとても強く、兵士達は果敢に戦ったけど…まあ、最終的にはボロボロにやられたの」
『え?じゃあ、全員殺されたの⁉︎』
「ううん。王宮に立て籠もってた王様が、禁書である異世界召喚の本を取り出して、禁術である異世界召喚を執り行ったの。すると異世界から勇者が登場して、迫り来る魔族をバッタバッタと薙ぎ倒し、壊滅寸前の王国を救ってくれたって話」
『へぇ〜面白そうな御伽話だね』
「御伽話じゃなくて、実際にあった話みたいよ?その本が召喚に使われた本らしいからね」
『えっ⁉︎この本、そんなに凄い本なの⁉︎』
「さあ?昔、私がその本から勇者を召喚して、ナームをぶっ殺してやろうとしたけど、何も起きなかったからね。本当の話かどうかは、眉唾物ってことよ」
『そう言う事か…ひょっとしたら、凄い仲間が召喚されるかもって思ったのに…』
「他の人も試したけど、何も書いてないから何も起きない。ただ、それだけの本。まあ、価値はあるかも知れないから、盗む必要はあったけどね」
『何も書いてない…って、この魔法陣みたいなのは?』
そう言ってダンが本を開くと、確かに魔法陣の様なものが描かれている。
「はあっ⁉︎何で⁉︎私が見た時は、確かに何も描かれていなかったのに…ちょっとダン、それを貸して!」
ダンの持っている本を引ったくるように奪い、パイが確認すると描かれていた魔法陣がスゥと、消えた。
「私が所持すると魔法陣が消える…?なら、ダンが持ったら?」
パイから再びダンに渡すと、先程と同じ様に魔法陣が浮かび上がった。
「ひょっとして…ダンは異世界召喚する資格があるってこと?だから、他の人には何も描かれていない本に?」
『おおっ⁉︎じゃあ、僕ちんが召喚したら、勇者が出てきて助けてくれるって事かな⁉︎』
「確かに、あなたなら異世界召喚できると思うわ。でもね、この異世界召喚の話には、別の話もあるの」
『別の話?』
「ある国でね、物凄い生真面目な正義感溢れる国王がいたの。その王は些細な悪事も絶対に許さない、融通の効かない男。そんな王が統治する国は、国民にも自分と同じ様に生真面目さを要求。それが国民の不満を募らせて、内戦が起きたのよ」
『真面目に生きるのも程々にしたいよね』
「その内戦を終結させる為に、王は異世界召喚を使ったの。で、召喚された勇者に正義を執行してくれと頼んだら、そのまま王を真っ二つにして、斬り殺しちゃったの」
『ええっ⁉︎なんで⁉︎勇者は助けてくれるんじゃなかったの⁉︎』
「王が望んだのは絶対的な正義。でも、勇者から見たら内戦を起こされた王こそ、問題があると判断したのよ。だから王の望み通りに絶対的な正義を執行。勇者が王を斬殺ってオチで、内戦は終結」
『ひょっとして.この異世界召喚を僕ちんが使ったら、勇者が僕ちんを殺すかもってこと?』
「その可能性はあるわね。だから無闇に召喚なんか、しない方がいいわよ?」
『新たなる仲間…エロい格好をした勇者が現れると思ったんだけどね』
「まあ、あなたが召喚するなら、本当にエロい格好をした女の子が現れるかもね。あなたが必要としてるのは、可愛くてエロい女の子でしょ?」
『え⁉︎それなら、召喚しないとダメじゃん!』
「危険があるから、止めといた方がいいわよ?どうしてもやるなら、別室で被害を最小限にする様にしてからね」
『う〜ん、悩むな…エロい巨乳とか、エロいロリとか、エロいメイドさんとか、召喚される可能性があるなら、危険を冒すべきだろうし…』
「いつまでも馬鹿なこと言ってないで、モニターを見なさい。なんか動きがあったわよ」
『あ、本当だ。あれは…冒険者の集団かな?』
「Sランク冒険者の、ヌンチャク使いのヌンや毒針使いのドク、暗器使いのアンまでいるじゃない。かなり高ランクの冒険者を集めて来たわね」
『他の冒険者はどうなんだろ?強いのかな?』
「Aランク以上なら私でも分かるけど、それ以下はノーチェックだから、私じゃ分からないわ。でも…都合良く、冒険者に詳しい人材がいるでしょ?」
『そっか!冒険者ギルドで働いてた、副ギルドマスターのクギーちゃん!』
「ビコーも冒険者として顔が広いから、他の冒険者についても詳しいはずよ」
『うん、頼りになりそうだね!』
早速、ダンは二人を再び石化から解除。そしてモニターから見える冒険者を確認。
クギーが眼鏡越しに、目を細めてモニターを凝視。暫くすると、冒険者の確認を完了。
「… Sランク冒険者のヌンチャク使いのヌン。毒針使いのドク。暗器使いのアン。Aランク冒険者チームのスカーフェイス11名、百花繚乱7名、イージス冒険団4名、双子冒険者のフーとタゴ。Bランク冒険者チームのブルーハイエナ8名、マジカルアロー5名。Cランク冒険者チームの肉便姫3名。あと、リーダーと思われるエクレア銀行の頭取、トートさん」
『さっすがクギーちゃん!完璧な答えじゃん』
「恐らく、銀行のお金を取り戻す為に、冒険者を集めてダンジョンに挑むようですね。ルドーさんには止められてただろうに…」
『え?何で止めるの?冒険者をダンジョンに送るのは仕事でしょ?』
「ルドーさんは、このダンジョンに冒険者を送るのは反対してたの。でも、モンガラ教国の次期教皇を見殺しにした経緯があるから、仕方なくビコーさんにお願いしたけど…」
そこでビコーが答える。
「私もここに自分が突入する事を条件に、他の冒険者は来させないよう、念を押しておいたんだ。あの連中は、そんなルドーさんの制止を聞かなかった冒険者だろう。スカーフェイスやフーとタゴ辺りなんか、止めれば止めるほどにヤル気を出すからね」
『クギーちゃんとビコーちゃんは、冒険者について詳しいだろうから、その辺のところを教えて貰えるとありがたいです』
ダンのお願いにクギーとビコーは、知り得る限りの情報を語った。
「Sランクの三人は裏稼業で名を馳せた人物。モラルは低いけど腕は確か。ヌンは対人で活躍する冒険者だけど、モンスター相手だと今一つ。ドクはあらゆる毒を使いこなし、自身も毒に対する耐性が高いから、麻痺毒は効かないはず。アンはアサシン。多分、ビコーさんの方が詳しいんじゃないかな?」
そこでクギーから、ビコーに話が振られる。
「アンは私の先輩だからね。アサシンの養成所でも、群を抜いて才能を発揮してたよ。性格は残虐でお金にうるさく、嫉妬深い。自分と関係を持った男を、他の女に取られない為に殺したりと、やりたい放題だよ」
上位冒険者の情報をすらすらと答える二人に、ダンから質問が。
『アンって人は仲間にできそうですかね?もしくは、ダンジョン民にするとか…』
アンをよく知るビコーが答える。
「無理。やめときな。この冒険者達は半数がお金や名誉が目的で、モラルは低い。能力の高さで仲間にしても、裏切られる可能性の方が高いよ。ダンジョン民としても、お勧めはしないね」
『うーん…それだと、女の子の処遇について、他の案も考えないといけないね』
続いてAランクについてクギーが解説。
「スカーフェイスは危険を求めるバトルジャンキー。顔の傷は名誉の傷と、顔に傷をつけるのがメンバーになる条件。今回の参加はお金よりも未知のダンジョンへの興味から参加したのかも。百花繚乱は女性だけのチームで、エクレア王国親衛隊から冒険者に転身したメンバーが複数いるから、その繋がりで参加したんでしょう。イージス冒険団と双子はお金目当てね」
『いや〜凄いね!流石は副ギルドマスター!じゃあ、残りのBとCは?』
「ブルーハイエナは他の冒険者を襲ったりする、悪名高い冒険者チーム。証拠が無いから捕まってはいないけど、恐らく百人以上の冒険者は犠牲になってるはず。実力のみで言えばAランクでも差し支えないチームよ。マジカルアローは魔法使いのみで構成されたチーム。魔力が切れると全く使い物にならないから、ダンジョンの深部には行かず、浅い所で活躍するチーム。…なのに、何で参加したのか疑問の残るチームね?そして最後にCランク冒険者の肉便姫…」
『はい、一番興味のある冒険者チームです!詳細をお願いします!』
「元々、奴隷だった女の子達。逃げ出して冒険者ギルドが保護したの」
『ええっ⁉︎奴隷⁉︎』
「ハイポーションを使って膜を再生させて、何度も犯される…肉奴隷として生きてきた女の子達よ」
『それって…あ、はい…パイちゃんも言ってた…』
「ギルドが保護したけど、三人の借金を踏み倒させるわけにもいかないから、冒険者として働いて、ローンで借金返済をしてるの」
『そんな子が、お金の為にダンジョンに潜らなくちゃならないなんて…間違ってるよ、それは!』
「誰かに無理やり、やらされてるわけじゃ無いのよ?本人達の意思でやってるの」
『いや、そんな訳ないじゃん!誰が好き好んでダンジョンみたいな危険なところに…』
「あの三人はね、自分たち以外の人間を全く信じてないの。そして誰かを頼りに生きたくないから、自分達でお金を稼いで冒険者として生きてるの。人間不信の少女の成れの果て…それが肉便姫を名乗る理由でもあるの」
『…流石にそれは、笑えない話だね。何とかならないの?』
「デリケートな問題だから、他人が下手に関わるのは良くないと思うわ。彼女達も誇りを持って、冒険者をしてるんだもの。逆に同情する事が正しくないって事もあるのだからね」
『ぐぬぬ…仕方ないね。肉便姫の三人は、捕獲してから処分を決めよう』
クギーとビコーから情報を聞き出せたダンは、再び二人を石化しようとするが、ビコーがそれを拒否。
「あのなぁ…いい加減、何度も何度も石化して牢獄に送るのはやめてくれないか⁉︎石化する度にお尻から麻痺薬を注ぎ込むし、迷惑なんだよ!」
『えー⁉︎でも、パイちゃんが言うには、女の子に対して絶対に油断するなって話だし、お尻に麻痺薬を注ぎ込むのは楽しいし…』
「楽しいのはお前だけだ!どこの世界に、お尻から麻痺薬を注ぎ込まれて喜ぶ女がいるっていうんだ!」
『えっと…ビコーちゃんとか?』
「そうか、お前にはそう見えるのか⁉︎私がド変態に見えると言うのか⁉︎」
『ごめんなさい、冗談です。でも、石化しないと安全が確保されないし…』
「私を仲間に引き入れる予定なのだろう?だったら少しは待遇を良くするとか、考えたらどうなんだ?」
『…パイちゃん、どうしよ?待遇の改善を要求されましたが?』
困った時のパイ頼み。問題をパイに振ってみた。
「ビコーはさ、どう思ってるの?これから、私達の仲間としてやっていけるの?もし、本当に私達の仲間が無理なら、眷属の話も白紙に戻すわ。前は売り言葉に買い言葉で喧嘩腰だったけど、無理矢理仲間にしたって楽しくはないからね」
「…断るって選択もありって事ですか?」
「好きにしたら?もう、ダンの性格は理解してるでしょ?眷属になるにしても、断るにしても、殺される事は無いわよ」
「……」
「……」
押し黙るビコーとクギー。先に口を開いたのは、ビコーだった。
「…本来であれば、一度は死んだ身。二度目の人生が魔族でも…まあ、仕方ないとは思っている」
「意外ね。眷属でも問題は無いの?」
「この男の言いなりになるのはシャクだが、放っておいたら何をするか分からないだろう?近くで歯止めをかける者がいなければ、必ず暴走するぞ、この男は!私が魔族となり、暴走を止める歯止めになれるなら…まあ、それもイイだろう。捕虜の身でもあるのだから、待遇改善の為にも、魔族になることを受け入れよう」
「…クギーは?ビコーと同じ、魔族になるの?」
パイの質問に、クギーも頷く。
「私も魔族になるのは、受け入れるしかないと判断してます。私とビコーさんが歯止めにならないと、多分…とんでもない事になりそうですからね」
ビコーとクギー。二人は仲間になる事を受け入れた。勿論、ダンは大喜び!
『うひょー!遂にビコーちゃんとクギーちゃんが仲間になったよ!やっぱり触手の魅力は素晴らしいね!二人共、触手にメロメロだもの!』
「「いや、それは無い!」」
ビコーとクギー、二人の声がハモる。
新たなる仲間を得たダンとパイ。二人にとって、かけがえの無い仲間となるメンバーが、着々と増えていくのであった!




