第11話 死体回収
『おはよう。よく眠れたようだな』
翌日、昼過ぎになってようやく起き出したジョン。それでも寝足りないのか、ダンの挨拶にすぐには反応出来ず…。
「…あ、そうか。僕は人間になってたんだ。それで睡眠をとって…うん、気持ちいいね、睡眠って」
『ああ、確かに睡眠は気持ちいい。だがな、フッカフカの布団で眠れば更に気持ちがいいぞ。それと朝、起きたらおはよう。眠る時はおやすみ、だ。少しづつでいいから、人間の常識を学ぶようにな』
「うん、おはよう」
『さて、お前が寝てる間に色々と考えた事があるけど、その前にまずは腹ごしらえだな。遅い朝飯の準備をするぞ』
そう言ってダンは昨日と同じ様にホーンラビットを召喚。そして同じ様にジョンがそれを倒してウサギ肉をゲット。
早速焼いて食べ始めるが、そこでダンが質問をする。
『なあ、ジョン。お前に人間の世界の常識を教えると同時に、こっちも魔族について教えて貰いたいんだ。二度と死ぬ様な目には遭いたくないし、最悪ダンジョンとして生きていくなら必要な事だからな』
「うん…モグモグ…それは構わないよ…モグモグ…何が聞きたいの…?」
『まず、このままウサギ肉を召喚して食事を振る舞うと、一食で俺の寿命が一年も縮まるよな?』
「あ、うん…ごめんね。ダンの寿命を美味しそうに頂いて…」
『その身体は俺の身体だ。それについては一向に構わない。でも、こっちのダンジョンの肉体がDP切れで死んじまったら、本末転倒だろ?だから、まずは食料問題。それを解決する』
「うん」
『本来であれば王都に行って食料調達ができればいいのだが…昨日の今日で王都に向かうのは自殺行為だ。傷も癒えてないし、ジョンは世間知らず。敵兵がまだ、この近くにいる可能性もあるから、極力このダンジョンを拠点にしたいんだ』
「そうだね。僕が外の世界のことをよく知ってからでも、遅くはないと思う」
『で、ここを拠点として食料調達を考えるとして、だ。ここから見える限りだと、食べられる木の実とかは見当たらないだろ?そうなると、森にいる鳥を捕まえるぐらいしか思いつかないんだ』
「僕は外のことは分からないけど、鳥ってそう簡単に捕まえられるの?」
『確かに難しいが、アイディアはちゃんとある。昨日話した、新しく召喚可能となったアーチャーモンキー。こいつに狩りをさせて、食料を調達させれば最初の召喚費用だけで、幾らでも肉をゲット…』
「あ、そういうのは無理だよ。ダンジョンで生み出されたモンスターは、ダンジョンの中でしか生きられないからね。召喚したモンスターはダンジョンの外に出ただけで、消滅するよ」
『なにっ⁉︎折角、考えたアイディアだったのに…いや、待て!ダンジョンの外に出られないなら、ダンジョンの中から鳥を狙って、矢で撃ち落としたらどうだ⁉︎それなら…』
「矢もモンスターの一部だから、ダンジョンの外に出た瞬間に消滅すると思うよ」
『ぐぬぬ…だったら、猿に普通の矢を装備させたらどうだ⁉︎それなら消えない筈だろう⁉︎』
「…確かに、理論上では可能だと思うよ。試してみる価値はあると思う。でも、矢って用意できるの?」
『矢なら俺が襲撃を受けた場所に残ってると思う。それを回収すればいい。勿論、俺は動けないから、行くのはジョンだがな』
「了解。なら詳しい場所を教えて。周りに敵兵がいないか、確認しながら行ってみるよ」
『あ、それともう一つ、死体の回収も頼みたいんだ』
「え?死体ってダンと一緒に来て殺された冒険者の?」
『そうだ。俺は食料を持参しなかったが、他の冒険者はひょっとしたら食料を所持してたかも知れない。敵兵が証拠隠滅に死体を処理している可能性もあるけど、もし残っていたら食料以外にもお金…は、奪われてる可能性が高いが、他にも何かあるかも知れない。それと一番の目的は…俺の食料になるかも知れないことだな』
「そうか…ダンの食料問題もあったんだね。でも、ダンジョンの外で死んだ人間を持ち込んで捕食しても、果たしてDPが増えるかな?」
『え?増えないの?』
「前例がないから分からないよ。わざわざ死体をダンジョンに持ち込んで捕食するなんて、普通はしないし…」
『なら尚更、試す必要があるな。死体が残ってたら、一番小柄な死体を持ってきてくれ。それと矢も一度に何本も持ってくる必要はないから、持てる分だけ持ってきてくれ』
そう言ってダンはジョンに自分が襲われた場所への道のりを説明し、ジョンを見送ると暫く待つ。すると40分程で死体を担いだジョンが戻ってきた。
「お待たせ〜死体は沢山、残ってたよ」
『おう、ご苦労さん!それじゃあ、早速実験だ。だが、その前に…この死体、酷い顔をしてるな…』
無残に殺された冒険者の死体。その死に顔は、苦悶の表情を浮かべていた。
『…辛かったろうな。何も悪いことをしてないのによ。突然襲われて殺されて…家族だっていただろうに。それに未来ある若者だ。夢だって人並みには、あっただろうによ…』
「……」
『でも、お前らの犠牲が俺の命を救うことになったんだ。感謝している。できることならば、お前らの仇はとってやりたい。それまで、俺が生きていられる様に…最後にもう一度、お前らの命を使わせもらう。では…いただきます!』
ジョンが持ち込んできた小柄な死体が、ズブズブとダンジョンに飲み込まれて行く。完全に飲み込まれるとダンが一言…。
『ご馳走様!不謹慎だが、美味かった!』
「よかった。苦労して運んできた甲斐があったよ」
『ああ、美味かったしDPも獲得できる事が証明された!つまり、残りの死体も食べれば一気に3000DPぐらいは増える事になるぞ!』
「え?まだ運ぶの⁉︎」
『当然だ。死体が腐る前に全て運び込まないとな』
「…結構、しんどいんだけどね」
『ああ、それなら大丈夫だ。DPがこれだけ増えるならポーションだって沢山生み出せる。あと二本も飲めばその傷も完治するだろう?ジョンはまだ。人間の体に慣れてないんだから、運動してその体に慣れておけ』
半ば強引に死体の運搬を命じるダン。だが、仮に一時間に二つの死体を運べるとしても、残り32体の死体を運ぶのには16時間もかかることに。
『死後硬直もしてるし、持ち運ぶのは困難だろ?だったら引きずればいい。死体を紐で繋いで数体同時に運べば、時間を短縮できる筈だ』
ダンのアイディアを採用し、ジョンは死体のある場所までくると、四体の死体を植物の蔦で縦に繋いでズルズルと引きずってダンジョンへと帰還。
往復の時間は一時間とちょい。約二倍の速さで死体の回収が可能となるのだった。
その後は七往復して、全ての死体を回収した。
慣れていない人間の体であり、病み上がりの身体を動かし続けたジョンはヘトヘトに。
ジョンはそのまま遅めの晩飯にウサギ肉を食べると、倒れ込む様に就寝するのであった。




